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第九部・贖罪 編
大丈夫か?
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そう思ったのか、双子が口を挟んでくる。
「君、幾つか知らないけどさ。僕ら三十三歳だよ? タスクだって三十二歳だし。人を年齢とか年収とか、身長とか、そういう〝数字〟で判断していたら、あとから君自身が後悔すると思うけどね。それと、金持ちの二十代ならまずバカが多いよ。ある程度人生経験があった方が、結婚しても失敗しなくていいんじゃない?」
アロイスにしてはまっとうな言い分だが、百合恵も引かない。
「あなた達は顔面偏差値申し分ないじゃないですか。御劔社長だってクォーターだし、海外の血が入っている子供を産めるなら、万々歳です。でもあの人は……」
百合恵の愚痴が長くなりそうなのを察し、佑が会話を遮った。
「すみません、小野瀬さん。俺たちはこれから向かう所がありますので、この辺りで失礼します。あなたの縁談がうまくいくようお祈りしています」
そして香澄の肩を抱いて歩きだす。
「ちょ……っ、佑さん?」
「じゃあねー。せいぜい頑張りなよ」
クラウスが百合恵に向かって手を振り、アロイスとマティアスも外に向かう。
背が高くて日本語も話せる海外イケメンをゾロゾロ引き連れた香澄を、後ろから百合恵が羨ましそうに見送る。
ホテルの正面玄関前には、すでに佑の車がつけられていた。
人数を告げたからなのか、車はいつもの高級国産車ではなく大型のRV車だ。
小金井がドアを開けてくれ、香澄は挨拶をしてレディファーストで乗り込む。
少し迷ってから最後部の座席に座ると、佑がその隣に座る。
アロイスとクラウスは中ほどの席に座り、マティアスは助手席に座った。
「香澄、東京観光はどこに向かうつもりだったんだ?」
『あ……。えっと、マティアスさん、行きたい場所ありますか?』
『あぁ……。じゃあ、スカイツリーとかアサクサとかがいい。そのあとイザカヤに行きたい』
『了解しました』
東京観光と言えばベタ中のベタだが、香澄もじっくり行った事がないので楽しみだ。
車は千代田区から墨田区に向かって発進した。
車内前方では双子がマティアスと会話をしている。
その間に佑が香澄にそっと耳打ちした。
「マティアスと一緒にいても大丈夫か?」
「え? うん、平気だよ」
「『大丈夫だ』って言い聞かせて、気を張りすぎていないか?」
「ううん、平気」
せっかくマティアスとも双子とも、本来の関係に戻れたのに、一緒にいてつらいなんてあり得ない。
そう思っていたのだが……。
「え……」
隣に座っている佑に抱き締められ、頬に、額にキスをされた。
大好きな佑の香りが香澄を包み込み、嗅覚から癒やしてくれる。
それだけでなぜか目が潤んだかと思うと、涙が零れた。
「……大丈夫だ」
佑が身元で囁き、香澄の肩をさする。
目を閉じると自宅で二人きりになっているような感覚になり、香澄は彼を抱き締め返していた。
佑にしっかり抱きついたまま、香澄はこっそり彼の香りを吸い込む。
ジョン・アルクールのいつものウード&ベルガモッドに混じって、微かに柑橘の香りがした。
衣服越しに彼のしっかりとした肉体を感じる。
それだけで佑からたくさんのエールを受け取っている気がした。
自分が「大丈夫、大丈夫」と言っていつもの対応をしていても、佑は香澄すら気づいていない部分に目を光らせ、心配してくれる。
先ほどホテルの部屋で言った事にも通じているが、そういう風に佑が心配してくれるからこそ、香澄は背筋を伸ばし前を向いて歩けるのだと思う。
「……ありがとう」
小さな声で礼を言うと、耳元で「何が?」と尋ねる声がする。
「……ぜんぶ」
微笑むと、佑はもう一度香澄の額にキスをしてくれた。
不意に今すぐ家に帰って、佑と愛し合いたいと思ってしまった。
自分から客人をもてなそうと思ったのに、何とも自分勝手で思わず苦笑する。
「もう少しで香澄の誕生日だな」
「……ふふ、まだ九月だよ?」
香澄の誕生日は十一月二十日で、まだ二か月先だ。
「二十日の前の週末と、後の週末、どっちに小旅行したい?」
「えっ……。それはとても魅力的。どこに行くの?」
二人は楽しげに、コソコソと会話する。
「君、幾つか知らないけどさ。僕ら三十三歳だよ? タスクだって三十二歳だし。人を年齢とか年収とか、身長とか、そういう〝数字〟で判断していたら、あとから君自身が後悔すると思うけどね。それと、金持ちの二十代ならまずバカが多いよ。ある程度人生経験があった方が、結婚しても失敗しなくていいんじゃない?」
アロイスにしてはまっとうな言い分だが、百合恵も引かない。
「あなた達は顔面偏差値申し分ないじゃないですか。御劔社長だってクォーターだし、海外の血が入っている子供を産めるなら、万々歳です。でもあの人は……」
百合恵の愚痴が長くなりそうなのを察し、佑が会話を遮った。
「すみません、小野瀬さん。俺たちはこれから向かう所がありますので、この辺りで失礼します。あなたの縁談がうまくいくようお祈りしています」
そして香澄の肩を抱いて歩きだす。
「ちょ……っ、佑さん?」
「じゃあねー。せいぜい頑張りなよ」
クラウスが百合恵に向かって手を振り、アロイスとマティアスも外に向かう。
背が高くて日本語も話せる海外イケメンをゾロゾロ引き連れた香澄を、後ろから百合恵が羨ましそうに見送る。
ホテルの正面玄関前には、すでに佑の車がつけられていた。
人数を告げたからなのか、車はいつもの高級国産車ではなく大型のRV車だ。
小金井がドアを開けてくれ、香澄は挨拶をしてレディファーストで乗り込む。
少し迷ってから最後部の座席に座ると、佑がその隣に座る。
アロイスとクラウスは中ほどの席に座り、マティアスは助手席に座った。
「香澄、東京観光はどこに向かうつもりだったんだ?」
『あ……。えっと、マティアスさん、行きたい場所ありますか?』
『あぁ……。じゃあ、スカイツリーとかアサクサとかがいい。そのあとイザカヤに行きたい』
『了解しました』
東京観光と言えばベタ中のベタだが、香澄もじっくり行った事がないので楽しみだ。
車は千代田区から墨田区に向かって発進した。
車内前方では双子がマティアスと会話をしている。
その間に佑が香澄にそっと耳打ちした。
「マティアスと一緒にいても大丈夫か?」
「え? うん、平気だよ」
「『大丈夫だ』って言い聞かせて、気を張りすぎていないか?」
「ううん、平気」
せっかくマティアスとも双子とも、本来の関係に戻れたのに、一緒にいてつらいなんてあり得ない。
そう思っていたのだが……。
「え……」
隣に座っている佑に抱き締められ、頬に、額にキスをされた。
大好きな佑の香りが香澄を包み込み、嗅覚から癒やしてくれる。
それだけでなぜか目が潤んだかと思うと、涙が零れた。
「……大丈夫だ」
佑が身元で囁き、香澄の肩をさする。
目を閉じると自宅で二人きりになっているような感覚になり、香澄は彼を抱き締め返していた。
佑にしっかり抱きついたまま、香澄はこっそり彼の香りを吸い込む。
ジョン・アルクールのいつものウード&ベルガモッドに混じって、微かに柑橘の香りがした。
衣服越しに彼のしっかりとした肉体を感じる。
それだけで佑からたくさんのエールを受け取っている気がした。
自分が「大丈夫、大丈夫」と言っていつもの対応をしていても、佑は香澄すら気づいていない部分に目を光らせ、心配してくれる。
先ほどホテルの部屋で言った事にも通じているが、そういう風に佑が心配してくれるからこそ、香澄は背筋を伸ばし前を向いて歩けるのだと思う。
「……ありがとう」
小さな声で礼を言うと、耳元で「何が?」と尋ねる声がする。
「……ぜんぶ」
微笑むと、佑はもう一度香澄の額にキスをしてくれた。
不意に今すぐ家に帰って、佑と愛し合いたいと思ってしまった。
自分から客人をもてなそうと思ったのに、何とも自分勝手で思わず苦笑する。
「もう少しで香澄の誕生日だな」
「……ふふ、まだ九月だよ?」
香澄の誕生日は十一月二十日で、まだ二か月先だ。
「二十日の前の週末と、後の週末、どっちに小旅行したい?」
「えっ……。それはとても魅力的。どこに行くの?」
二人は楽しげに、コソコソと会話する。
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