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第九部・贖罪 編

生まれた以上どうにもなんない

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『……ですが両親に〝これは悪い事〟と教えられた事をしようと思いません。大学生時代に夜遊びとかして心配かけましたけど、今はある程度常識的な大人になったつもりです。誰かを裏切ったら自分が裏切られますし、誰かに親切にするといつか返ってくると思っています。打算がなくても、自分に余裕のある時は手が届く範囲の人に優しくしたいです』

 そこで香澄は隣に座っている佑を見て、柔らかく微笑んだ。

『そういう生き方をしていると、いつか傷つくかもしれません。でも私には佑さんがいます。私が心のままに生きても、佑さんが守ってくれる。そう信じているから、私は私のまま、まっすぐにいられるのだと思います。……わっ』

 最後まで言い切った瞬間、佑に肩を抱き寄せられ頬にキスをされた。
 そのまま佑が香澄をぎゅうぎゅうと抱き締め、自慢げに双子を見やる。

『どうだ、俺の香澄は可愛いだろう』

『あっ……。腹立つわー』
『本当に可愛いだけに、腹立つわぁ……』

 双子は脚を組んで舌打ちをし、苛立ちを隠そうとしない。

『それはそうと、お二人とも……その。エルマーさんの事は大丈夫なんですか?』

 ずっと気にしていた事を口にすると、双子は苛ついた表情から一変して困惑顔になり、互いに顔を見合わせる。

『まぁー……さ。そりゃあ僕らがオーパの本当の孫じゃなくてびっくりしたよ? タスクや他の従兄弟とも〝違う〟訳だしね? 今まで他の伯父さんたちも、僕らのファッティをどう見てたんだろ? って思ったよ』

『それでもさ、生まれた以上どうにもなんないよね。オーパはこれからも態度を変えるつもりはないんでしょ? オーマも』

 アロイスの質問に、アドラーがしっかりと頷く。

『ああ。お前たちは私の孫に変わりない』
『私も同じ気持ちよ? 可愛いアロイシーにクラウシー』

 相変わらず子供っぽい愛称で呼ばれ、双子はくすぐったそうな表情をする。

『なら、別にいっかな? って思うよ。俺たちが起業して〝アロクラ〟をここまで大きくしたのは、俺たちの功績だ。生まれがどうであろうとも、俺たちが成し遂げた事は変わらない。俺たちの誇りはそこにある』

『そ。その次にまぁ、クラウザー家の名前がついてくるけど、僕らクラウザー社とか保有してる不動産やらその他諸々、特に興味ないしね。オーパ亡きあと、何かもらえるならもらっとくけどさ。生きてる今はたまに食事したり、一族のみんなと飲み交わしたりしてさ。僕らが〝家族〟に求めてるのはそういう居場所みたいなものだけだよ。それさえ変わらないなら、特にどうでもいいよ』

『そう……ですか。……良かったぁ……』

 気がかりだった事も、双子の精神的タフさにより解消された。

 そこで部屋に昼食が運ばれてきて、佑と香澄たちはダイニングに向かう。
 秘書、弁護士に護衛たちは別室で食べるようだ。

「香澄さん? もう何もないかしら? 今ならこの人、なんだって言うこと聞いてくれるわよ?」

 天ぷらやお造り、上品な煮物や茶碗蒸しなど、純和風の食事が目の前に並んでいる。
 節子が上品に箸を運びつつ、香澄を唆そうとしていた。

「いっ、いえ! 本当にもう何も……」

「アロイシーとクラウシーとは、明日デートするの?」
「あ、はい。お二人もご多忙と思いますから、なるべく速やかに……」

「ならその時、好きな物を好きなだけねだってご覧なさい? アロイシーとクラウシーも、女の子に不満を感じさせるデートをするんじゃありませんよ?」

「分かってるよ! オーマ!」
「まっかせて!」

 嬉しそうに返事をする双子に比べ、佑は仏頂面だ。

 マティアスは一人黙々と箸を運び、ホテルの和食が気に入ったのか食べながら頷いている。
 だがデートという単語が耳に入ったのか、マティアスが佑に尋ねた。

『アロクラとのデートとやらを尾行するのか?』
『当たり前だろ』

 それに双子が苦言を呈する。

『マティアスさぁ、当の本人を前に堂々と尾行するとか言ったらテンション下がるじゃん』

 しかし香澄は真顔でサラリと言った。

『あ、別に同行しても構いませんよ? 本気のデートではないので』

 そう言われ、双子はコントのようにガクッと項垂れた。

『カスミさ、何なの? 僕らを期待させるだけ期待させて、落とすパターン?』
『いえ、本当にデートがしたくてデートと言ったのではなく、必要があるからデートなんです』

『ワケわかんないよ。一日の最後に、ホテルにお泊まりはアリ? ナシ?』

 アロイスの言葉に佑の目が殺気を帯びる。

『ナシに決まってるじゃないですか』

 その時、一部始終を見ていたマティアスが言葉をぶっ込む。

『カイって割と表情豊かなんだな。いま本当にアロを視線だけで殺しそうな目をしてた。ビームでも出そうだな』
『褒められてる気がしない』

 そんな会話に香澄はクスクス笑いつつ、上等なマグロの刺身に舌鼓を打つ。
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