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第九部・贖罪 編
示談金の相談
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それまで黙っていた佑が、口を開く。
『……俺もここで話は終わり……、にしたい。だが物事にはけじめが必要だと思っている。さっきマティアスが罰が必要だと言っていたように、区切りを付けて次の関係を結ぶには、一度ちゃんと制裁を受けてほしいと思っている』
佑の声はもう怒っていなかった。
彼もそれぞれの理由を聞き、納得せざるを得なかったのだろう。
加えて香澄が「もういい」と主張した気持ちを、汲み取ったのもあるのかもしれない。
本人たちに向き合って、一番疲弊しているのは香澄だ。
その彼女があれほどまでに憎みたくないと言っているなら、佑がこれ以上無理強いをして敵対心を燃やすのは良くない。
それでも彼は、香澄の婚約者として自分も納得できるけじめをつけようとしていた。
佑の言葉を聞き、アドラーが頷く。
『幾らでも払おう。すべてを受け入れてくれた香澄さんのためなら、どれだけ払っても構わない』
双子、マティアスも続く。
『俺たちも出す』
『被害者はカスミだもんね』
『俺もフラウ・カスミにちゃんと償わせてくれ』
いきなり自分に金を払う流れになり、香澄は「えっ?」と動揺する。
『香澄? どれだけ請求したい?』
(聞かないで!!)
佑に尋ねられ、香澄は心の中で思いきり突っ込んだ。
訴えるとか賠償とか、そういうものとは無縁に生きてきた。
情けないながらも自分は高学歴の女性ではないという自覚もあるし、難しい話を振らないでほしい。
こんな状況になった場合の適正な金額など、想像する事すらできない。
それでも、佑は微笑んで優しく尋ねてくる。
『香澄が今回の事で納得できる金額を提示してごらん』
『え……えぇと……』
焦りに焦って視線をさまよわせると、正面から四人がこちらをジッと見つめている。
『じゃ……じゃあ……、三十万?』
給料ぐらいの金額を提示したが、各方面からバサッと切り捨てられた。
『安い』
『カスミ』
『バカだねー』
自分でも高いと思った金額を口にしたが、一刀両断されてしまった。
『……っ、じゃあ、五十万!』
思い切って手をパーにして突き出すと、佑が息をつく。
『香澄の前で具体的な金額を出したくないが、イギリスで掛かった医療費はざっと四百万、性犯罪、香澄のPTSDを含めた広義の意味での傷害罪、香澄が働けなかった期間の給料分、通院その他費用。精神的苦痛は一律に決められないが、安く見積もられては困る。俺としては一人一千万もらってもまだ足りない』
「!!」
香澄は知らない内に自分のために使われた医療費の額を知り、目をまん丸にして息を止めた。
『私も香澄さんへの謝罪が一千万で済むとは思っていない』
アドラーが言い、香澄は頭を抱える。
(あああ……。金銭感覚が狂っている人たちの乱闘だ……)
こうなったらもう、香澄には止められない。
払ってほしい佑と、ぜひ払いたいアドラーたち。
香澄が「いいですから」と言っても、絶対に聞き入れてもらえない。
チラッと助けを求めて節子を見たが、彼女はにっこり笑って「好きなようにさせておきなさい」という顔をしている。
『剣崎さん』
佑がそれまで脇に控えていた、顧問弁護士の剣崎を呼ぶ。
彼はスッと近づいてくると、香澄が恐れていた事を口にした。
『示談金に上限はありません。また示談金に税金はかかりませんので、どうぞ思う存分』
(あああああ!!)
本当に頭を抱えてプルプル震える香澄をよそに、佑は満足げに頷いてからアドラー達に示談金をふっかけた。
『それじゃあ、香澄の言い値をベースにして、マティアスには一億。アロクラはそれぞれ五千万。爺さんには、これから俺がまたオーパと呼ぶ条件もつけて、五億」
「ちょ……っ、ごっ、ごおく!? ま、待って! 経営者の方は別かもだけど、マティアスさんは一般人でしょう!」
思わず日本語で言い、佑の袖を掴む。
が、あっさりと双子に否定された。
『……俺もここで話は終わり……、にしたい。だが物事にはけじめが必要だと思っている。さっきマティアスが罰が必要だと言っていたように、区切りを付けて次の関係を結ぶには、一度ちゃんと制裁を受けてほしいと思っている』
佑の声はもう怒っていなかった。
彼もそれぞれの理由を聞き、納得せざるを得なかったのだろう。
加えて香澄が「もういい」と主張した気持ちを、汲み取ったのもあるのかもしれない。
本人たちに向き合って、一番疲弊しているのは香澄だ。
その彼女があれほどまでに憎みたくないと言っているなら、佑がこれ以上無理強いをして敵対心を燃やすのは良くない。
それでも彼は、香澄の婚約者として自分も納得できるけじめをつけようとしていた。
佑の言葉を聞き、アドラーが頷く。
『幾らでも払おう。すべてを受け入れてくれた香澄さんのためなら、どれだけ払っても構わない』
双子、マティアスも続く。
『俺たちも出す』
『被害者はカスミだもんね』
『俺もフラウ・カスミにちゃんと償わせてくれ』
いきなり自分に金を払う流れになり、香澄は「えっ?」と動揺する。
『香澄? どれだけ請求したい?』
(聞かないで!!)
佑に尋ねられ、香澄は心の中で思いきり突っ込んだ。
訴えるとか賠償とか、そういうものとは無縁に生きてきた。
情けないながらも自分は高学歴の女性ではないという自覚もあるし、難しい話を振らないでほしい。
こんな状況になった場合の適正な金額など、想像する事すらできない。
それでも、佑は微笑んで優しく尋ねてくる。
『香澄が今回の事で納得できる金額を提示してごらん』
『え……えぇと……』
焦りに焦って視線をさまよわせると、正面から四人がこちらをジッと見つめている。
『じゃ……じゃあ……、三十万?』
給料ぐらいの金額を提示したが、各方面からバサッと切り捨てられた。
『安い』
『カスミ』
『バカだねー』
自分でも高いと思った金額を口にしたが、一刀両断されてしまった。
『……っ、じゃあ、五十万!』
思い切って手をパーにして突き出すと、佑が息をつく。
『香澄の前で具体的な金額を出したくないが、イギリスで掛かった医療費はざっと四百万、性犯罪、香澄のPTSDを含めた広義の意味での傷害罪、香澄が働けなかった期間の給料分、通院その他費用。精神的苦痛は一律に決められないが、安く見積もられては困る。俺としては一人一千万もらってもまだ足りない』
「!!」
香澄は知らない内に自分のために使われた医療費の額を知り、目をまん丸にして息を止めた。
『私も香澄さんへの謝罪が一千万で済むとは思っていない』
アドラーが言い、香澄は頭を抱える。
(あああ……。金銭感覚が狂っている人たちの乱闘だ……)
こうなったらもう、香澄には止められない。
払ってほしい佑と、ぜひ払いたいアドラーたち。
香澄が「いいですから」と言っても、絶対に聞き入れてもらえない。
チラッと助けを求めて節子を見たが、彼女はにっこり笑って「好きなようにさせておきなさい」という顔をしている。
『剣崎さん』
佑がそれまで脇に控えていた、顧問弁護士の剣崎を呼ぶ。
彼はスッと近づいてくると、香澄が恐れていた事を口にした。
『示談金に上限はありません。また示談金に税金はかかりませんので、どうぞ思う存分』
(あああああ!!)
本当に頭を抱えてプルプル震える香澄をよそに、佑は満足げに頷いてからアドラー達に示談金をふっかけた。
『それじゃあ、香澄の言い値をベースにして、マティアスには一億。アロクラはそれぞれ五千万。爺さんには、これから俺がまたオーパと呼ぶ条件もつけて、五億」
「ちょ……っ、ごっ、ごおく!? ま、待って! 経営者の方は別かもだけど、マティアスさんは一般人でしょう!」
思わず日本語で言い、佑の袖を掴む。
が、あっさりと双子に否定された。
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