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第九部・贖罪 編
贅沢なボディケア
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その合わなかった化粧水をただ捨てるのは勿体ないので、体に塗っておこうと思いついたのは香澄だった。
それでもやはり一万円前後する化粧水を、ジャンジャン使って体に塗るのは気が引ける。
「この使わないシリーズ無くなったら、ドラッグストアで罪悪感なく使えるお値段のにしよう」
「でも、肌の調子はすごくいいんだろう?」
「う……うん」
確かに体にも化粧水を塗って、その上にジョン・アルクールのボディクリームを塗ると、肌がツルツルのすべすべで自分でもテンションが上がってしまう。
「ならこのまま使っていればいいんだよ。大した金額でもないし」
最後に足の裏や指にまで化粧水を塗り込み、佑はジョン・アルクールのボディクリームが並んだ前で悩む。
黒い蓋にストライプのガラスの容器を少しずらし、何の香りかをラベルで見て香澄に「何にしようか?」と尋ねた。
「やっぱりネクタリンがいいな」
「了解」
ガラスの重たい容器を手に取り、佑は大きな手で蓋を回して開ける。
白いクリームを掌ですり合わせて温めると、香澄の背中から塗り始めた。
「ん……、いい匂い」
フワッと桃と蜂蜜の香りがし、香澄が微笑む。
「俺は一生、香澄の体のケアをする係をしていたいな」
「うん……」
一生この人の側にいられたらいいな、とどこか乖離した気持ちで思い、香澄は微笑む。
ボディクリームを塗り終わると、パンティを穿いてキャミソールとタップパンツを着る。
湯冷めしないようにとその上にバスローブも羽織らされた。
フェイスケアは先にしてあるので、籐の椅子に座ると佑が髪にクリームを塗り込む。
それからドライヤーをかけるのも佑の役目だ。
風の音がし、鏡を見ると佑がご機嫌に香澄の髪を乾かしているのが見える。
(完璧な人なのにな……。どうしてこんな凄い人が私の世話をしてるんだろう)
佑と別れたいと思っているでもないのに、ついそんな事を考えてしまう。
(駄目だ……。考えたら負けだ。疲れてるの。きっと、とても疲れてる。変な時間だし、佑さんと一緒に寝て起きたら、きっと大丈夫……)
溜め息をつき、香澄はミネラルウォーターのペットボトルを手にした。
「う……ん」
目覚めてそれほど経っていないのに、とても疲れた気がする。
大きなベッドに倒れ込むと、佑がすぐ隣に潜り込みタオルケットを掛けてくれた。
「ゆっくり寝よう。もう何も不安な事はないから」
二つの香りが交じりあう。
体温に混じってまろやかになった香りは、いつしか佑のベッドルームの匂いに変わっていた。
**
「…………」
ふぅ……っと意識が引き上がり、香澄は瞬きをする。
――ここは、どこだろう。
――今は、いつだろう。
――私は、どうしたんだっけ。
ぼんやりとして、何もかも分からない。
「……たすく……さん」
ただ、隣に寝ている人の名前は分かる。
とてもとても、大切で愛しい人。
目を閉じていると、驚くほど睫毛が長い。
彼の頬に触れ――唇を指でそっとなぞった。手に彼の呼気がかかる。
(珍しい。……深く眠ってるんだな)
香澄の腰に腕をまわしたまま、佑は静かに寝息をたてていた。
いつも、目覚めると彼は先に起きているか、ベッドにいても端末を弄っているイメージがある。
(疲れてるのかな……)
香澄の意識がハッキリして初めて、佑はいま安心して眠れている。
けれど香澄はそれを知らない。
(寝かせてあげよう)
佑の腕はしっかりと香澄を抱いていて、動いたら起こしてしまいそうだ。
ぬくもりにまた香澄はもウトウトとし、自然に目を閉じていた。
それでもやはり一万円前後する化粧水を、ジャンジャン使って体に塗るのは気が引ける。
「この使わないシリーズ無くなったら、ドラッグストアで罪悪感なく使えるお値段のにしよう」
「でも、肌の調子はすごくいいんだろう?」
「う……うん」
確かに体にも化粧水を塗って、その上にジョン・アルクールのボディクリームを塗ると、肌がツルツルのすべすべで自分でもテンションが上がってしまう。
「ならこのまま使っていればいいんだよ。大した金額でもないし」
最後に足の裏や指にまで化粧水を塗り込み、佑はジョン・アルクールのボディクリームが並んだ前で悩む。
黒い蓋にストライプのガラスの容器を少しずらし、何の香りかをラベルで見て香澄に「何にしようか?」と尋ねた。
「やっぱりネクタリンがいいな」
「了解」
ガラスの重たい容器を手に取り、佑は大きな手で蓋を回して開ける。
白いクリームを掌ですり合わせて温めると、香澄の背中から塗り始めた。
「ん……、いい匂い」
フワッと桃と蜂蜜の香りがし、香澄が微笑む。
「俺は一生、香澄の体のケアをする係をしていたいな」
「うん……」
一生この人の側にいられたらいいな、とどこか乖離した気持ちで思い、香澄は微笑む。
ボディクリームを塗り終わると、パンティを穿いてキャミソールとタップパンツを着る。
湯冷めしないようにとその上にバスローブも羽織らされた。
フェイスケアは先にしてあるので、籐の椅子に座ると佑が髪にクリームを塗り込む。
それからドライヤーをかけるのも佑の役目だ。
風の音がし、鏡を見ると佑がご機嫌に香澄の髪を乾かしているのが見える。
(完璧な人なのにな……。どうしてこんな凄い人が私の世話をしてるんだろう)
佑と別れたいと思っているでもないのに、ついそんな事を考えてしまう。
(駄目だ……。考えたら負けだ。疲れてるの。きっと、とても疲れてる。変な時間だし、佑さんと一緒に寝て起きたら、きっと大丈夫……)
溜め息をつき、香澄はミネラルウォーターのペットボトルを手にした。
「う……ん」
目覚めてそれほど経っていないのに、とても疲れた気がする。
大きなベッドに倒れ込むと、佑がすぐ隣に潜り込みタオルケットを掛けてくれた。
「ゆっくり寝よう。もう何も不安な事はないから」
二つの香りが交じりあう。
体温に混じってまろやかになった香りは、いつしか佑のベッドルームの匂いに変わっていた。
**
「…………」
ふぅ……っと意識が引き上がり、香澄は瞬きをする。
――ここは、どこだろう。
――今は、いつだろう。
――私は、どうしたんだっけ。
ぼんやりとして、何もかも分からない。
「……たすく……さん」
ただ、隣に寝ている人の名前は分かる。
とてもとても、大切で愛しい人。
目を閉じていると、驚くほど睫毛が長い。
彼の頬に触れ――唇を指でそっとなぞった。手に彼の呼気がかかる。
(珍しい。……深く眠ってるんだな)
香澄の腰に腕をまわしたまま、佑は静かに寝息をたてていた。
いつも、目覚めると彼は先に起きているか、ベッドにいても端末を弄っているイメージがある。
(疲れてるのかな……)
香澄の意識がハッキリして初めて、佑はいま安心して眠れている。
けれど香澄はそれを知らない。
(寝かせてあげよう)
佑の腕はしっかりと香澄を抱いていて、動いたら起こしてしまいそうだ。
ぬくもりにまた香澄はもウトウトとし、自然に目を閉じていた。
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