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第九部・贖罪 編

勃つしかない

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 ニヤァ……と笑って彼を見ると、ばつの悪そうな顔をしていた。

「ふふふ、意地悪言っちゃったね。ごめんごめん」
「一生懸命香澄に奉仕するから、もうあの事は勘弁してくれ」

 苦笑交じりに言った佑は、ボディスクラブを手に取ると香澄の足から丹念に手を滑らせていく。
 本当に奉仕という言葉が似合うほど、佑は丹念にケアをしてくれる。

「……佑さんってマゾじゃないよね?」
「いきなり何だ?」

 面食らった顔をして、佑は顔を上げる。

「だ……だって、その……。ソレ。何もしてないのに、私の髪を洗ってスクラブかけてるだけなのに、……げ、元気になってるし」

 香澄がちょんちょんと指差した先には、佑の股間で半分漲っているモノがある。

「そりゃあ、香澄の裸を見たら勃つのはデフォルトだろ」

 しかし真顔で返事をしてくるので、香澄は困惑するしかできない。

「それって異常反応じゃない? 見ただけで反応って……」

「男なんて単純なものだよ。俺は好きでもない女性のグラビア写真を見せられても、反応しないと思う。でも目の前に大好きで堪らない香澄がいるんだ。勃つしかないだろ」

(勃つしかないって……)

 思わず香澄は心の中で突っ込みを入れる。

「ぐっ……グラビア……。興奮しないの? 私は見た事ないからどんなものか分からないけど、あれってその……、おっぱいモロ出しとかするの?」

「局部は出さないよ。そこは色々基準が厳しいと思う。あと俺は紙や画面の中より、本物の恋人が好きだ」

 香澄の太腿までスクラブをかけ、佑は至近距離から彼女を見つめ、お腹に手を這わせる。
 久しぶりに親密な雰囲気になり、香澄はドキドキして仕方ない。

「ふぅん……。た、佑さんってどこまで私に奉仕できるの?」
「え? どこまでも」

 迷いなく返事をした佑に、香澄はやはり困惑してしまう。

「私がいきなり……うーん、女王様になって鞭とか蝋燭が趣味になっても?」

 彼が引くような事を言ってみたが、彼はまったくたじろがない。

「ふ……っ、ははっ。どうだろう。香澄になら攻められてもいいけど、基本的には愛す側でいたいな。でもこういう、慈しむ時にはどこまでも尽くしたい」

 佑は香澄の胸や腋、二の腕へとスクラブを滑らせる。

「尽くしたいと思っている時は、香澄がOKサインを出さなければ挿入しないよ。気持ちよくなりたいって思っているなら、舐めて、指で達かせてあげたいけど」

 言われて、香澄は赤面する。
 佑は香澄の背中にもスクラブをかけ、立ち上がらせて入念に臀部や内腿にも手を滑らせる。

「はい、流します」

 佑はシャワーを出し、丁寧に香澄の肌を洗い流していく。
 優しく肌を撫でられるのが気持ち良く、香澄はうっとりと目を閉じた。

「しかし本当にこのボディスクラブっていうのは凄いな。流した時点で肌がツルツルになるんだから」
「角質を取ってくれるんだよ。顔用のもあるけど、肌に負担を掛けるから週に二回ぐらいだって」

「俺が買った化粧品は、幾らか役に立ってる?」

 佑が嬉しそうに尋ね、香澄はクスクス笑う。

「とっても立ってます。佑さんのために褒められ肌になれ……てると思う」

 佑はシャワーを止め、ジョン・アルクールのボディソープからネクタリンを選んで手に取った。
 両手で泡立てたあと、彼はまた香澄の肌に手を滑らせる。

「普段は言ってないけど、いつも香澄の肌に触るだけで勃起しそうになってるよ」
「えぇ?」

 肌に触れるだけで勃起すると言われても、困ってしまう。

「本当だよ。産毛一本なくてツルツルだから、あまりにも気持ちよくて触っただけで勃つ」
「うそぉ……。何だかとんでもない秘密兵器みたいじゃない」

 呆れて笑うが、まんざらでもない。

「……他の人に言われたら気持ち悪いけど、佑さんなら嬉しいな」
「香澄は、色んな男に褒められるよな」

「何それ? 私、そんな覚えないけど」
「アロクラにだってベタベタされてるだろ。マティアスも『礼儀正しくていい子だ』って言っていた」

「え……」

 双子はともかく、マティアスにも褒められていたのは意外だ。

「取引先と話をしても、よく『綺麗で品のいい秘書ですね』って褒められるよ」
「……聞いて、ない」

 香澄の体に泡立った手を滑らせ、佑は溜め息をつく。
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