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第八部・イギリス捜索 編

久しぶりに思える会話

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『その後、部下のそのまた知り合いを介して、遠回りなやり方でフラウ・カスミに嫌がらせのメールを送ったようだ。……気づけなかった事とは言え、本当にすまない』

 テオからエミリアの犯行を聞き、佑は痛みを耐えるようにギュッと目を閉じ、唇を引き結ぶ。
 幼馴染みと思い込んでいた女性の凶行を見切れなかった情けなさと、何もしていない香澄がなぜここまで酷い目に遭わなければならないかと思い、また泣きそうになった。

 呼吸を整え、佑はテオを睨みつける。

『――――他は』
『え?』

『もう他にエミリアの罪はないのか? 俺と香澄に告げるべき事は他にないのか?』

 佑の厳しい目にテオは申し訳なさそうに視線を泳がせる。
 しばし考えるように沈黙していたが、やがてきっぱりと首を振った。

『あとはない。……と思う』

 双子とマティアスは視線を交わして溜め息をつく。河野だけ、表情は変わらない。

『……テオ。俺は問答無用でメイヤー家を訴える。悪く思うな』
『当然だ。俺はもう実家と手を切ったつもりでいるから、好きにしてほしい』

 また沈黙が落ち、とても気まずい。
 佑は酷い頭痛を覚えて、指で眉間を揉んだ。

 そこで河野が口を開く。

『もし宜しければ、今日はもう解散しませんか? 皆様お疲れでしょう。社長も赤松さんと二人きりになりたいでしょうし』

 彼の言葉が緩和剤になったのか、ふ……と緊張した空気が緩む。

『分かった。タスク、気が利かなくてごめん』

 クラウスが立ち上がり、アロイス、マティアス、テオも立ち上がった。

 河野も含め全員が部屋から出て行くと、佑は大きな溜め息をついてベッドルームに戻った。

 キングサイズのベッドに一人眠っている香澄は、昏々と眠り静かだ。
 不安に駆られた佑は、香澄の隣に寝そべる。

「……香澄」

 名前を呼び、掌を顔の上にかざしてみた。
 呼吸がある事を確認し、ほ……と息をつく。

「……香澄」

 もう一度彼女を呼び、ずっと触りたかった黒髪をサラサラと撫でた。
 するとその感触に刺激を受けたのか、香澄の睫毛が震えて微かに目が開く。

「香澄? ……香澄」

 佑は起き上がり、彼女の顔を覗き込む。
 震える手で頬を包み、親指を肌に滑らせる。
 宝石でも扱うかのような手つきに、香澄は微かに笑った。

「……たすく、さん」

 香澄は自分の隣に寝ている佑を見て、何とか寝返りを打つ。
 手を伸ばして佑の胸板に触れ、肩、首、頬……と手を這わしてきた。

 サラサラと髪の毛を撫でられ、佑はまた泣いてしまいそうになる。

「香澄。俺はここにいるよ」

「……うん。……眠たい……なぁ。……何か、佑さんととても久しぶりに会う気がするの。……寝るの、……もったいない」

 トロンとした目で何度も瞬きをし、香澄が微笑む。

「つらいなら寝ていていいよ。俺は側にいるから」
「……うん。……でも、もったいない。……佑さんが減っちゃう」

 香澄の言い方に、佑は随分久しぶりに心からの笑みを浮かべた。

「俺は減らないよ。むしろ香澄を愛したい欲求が増えて増えて、ゲージを振り切ってる」
「……ね、疲れて……ない? 顔が……つかれてる」

 頬を撫でられ、佑は心配させてなるものかと首を振る。

「ピンピンしてるよ。香澄が側にいるから俺は元気だ」

 佑の言葉に香澄は目を細め、彼の手をやんわりと握って自身の胸に当てる。

「……疲れた時はおっぱい揉むといいんだって」
「……っ、ふ、ふふ……。そんなの一体誰が言ったんだ」

 思わず笑った佑は、素直に「揉みたい」と思った。

 だが脳裏に浮かんだのは、香澄の乳首から薬の副作用としての乳汁が出た光景だ。
 素直に喜んではいけないのに、不謹慎にも今の香澄の胸から擬似的に母乳が出ると思うと変な気分になる。

「……佑さんが好きだって、……言ったんじゃない。揉むと、疲れが取れるって」
「言ったかな?」

 そう言えば、何気ない幸せな日常でそんな会話をした記憶がある。

 香澄が「疲れてるでしょう。肩揉んであげる」と言って、肩を揉んでくれた。
 そのうち手が疲れたのか、肘でぐりぐりと肩を刺激してくる。

 その時に背中に胸が当たってとてもムラムラしたのだ。

 そして「揉まれるより香澄の胸を揉んだ方が、疲れが取れる」と、頭の悪い事を口走ったかもしれない。
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