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第八部・イギリス捜索 編
エミリアのもう一つの犯行
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『妹に犯されるなんて最低だよ。女に犯されるだけでも男として屈辱的なのに、妹に襲われて中で果てた。俺はしばらく女が嫌いになり、ろくな恋愛もできなかった』
『……結婚できて良かったな』
佑の言葉に、テオはうっすら笑う。
『本当に、妻は地獄で出会った女神だ。……ただ妻がイギリス貴族の娘であると知って、エミリアがまた変な方向にこじれた。自分を周りに〝レディ〟と言わせたり、イングランド女性を理由なく嫌うようになった。俺は結婚して以来、一度もエミリアに家族への接近を許していない。妻と小さい子供たちに何かあったら、俺はエミリアを殺すだろう』
本来兄が妹に向けるべきではない言葉を聞き、全員がテオの妹への拒絶心を知る。
『自分の周りを顔のいい男たちで固め、逆ハーレムのようにしたのも、俺への想いが届かない事へのうさ晴らしだろう。少しでも金に弱みのある美形を見つけたら、爺さんの会社の保険金を盾にして、自分に従うよう要求する。それがあいつのやり口だ。それもこれも、メイヤーズの知名度が高かったのも災いしたんだろう』
佑はエミリアの周りにいた顔のいい護衛を思い出し、息をつく。
『カイや兄弟、アロクラがお気に入りだったのも、出自や見目が良かったからだろう。女性が憧れるセレブ男性を側に置き、自分だけが特別にお前たちと過ごす権利のある存在だと思い込んでいた。自分を女王だと思っているエミリアは、カイたち兄弟やアロクラにも、好きな人ができるのが許せなかったのだと思う』
『だからと言って……!』
語気を強める佑にテオは『分かってる』と目を伏せる。
『お前たち……特にカイが怒るのは当たり前だ。怒って当然だ。あいつの精神はすでに壊れていて、普通の感覚がなかったのだと思う。ファッション系の会社を立ち上げたのも、〝幼馴染みだからお揃い〟という仲間意識からだろう。実際そのデザインも目立つものはなく、業界から辛辣な評価をされていた。〝金持ちのお遊びだ〟とな』
この煮えたぎる怒りをどこにぶつけたらいいのか、分からない。
エミリアに贖罪を求めたくても、彼女の精神がすでに壊れていて、反省するつもりなどもさらさらないのだったら――。
『……僕たちはエミの所有物じゃないって、何回も言ったのにね』
ポツリとクラウスが呟き、アロイスも疲れた様子で溜め息をつく。
『……香澄は関係ないだろう……』
絞り出すように呟いた佑の言葉に、誰も何も言えなかった。
やがて空気を変えるように、アロイスがマティアスに問う。
『言いにくいけどさ、マティアスはエミから直接被害を受けてないのか?』
それにマティアスは軽く首を横に振る。
『俺はエミリアと性的な関係にはない。だがパワハラ……なんて可愛い言葉じゃ済まない、それこそ俺の事を物か家畜みたいにしか思っていない扱いを受けた。上辺だけあいつを〝美しい〟〝完璧だ〟と褒め称えるうちに、もう何も感情が動かなくなった』
『もうこれで一応カタついたんだからさ、訴訟起こせよ』
クラウスに言われ、マティアスは『そのつもりだ』と頷く。
暗い表情をしていたテオは、ゆら……と視線を佑にやり深く頭を下げた。
『カイ、本当に済まない。お前とフラウ・カスミには何と詫びればいいのか……』
疲れ切った佑はソファの背もたれにもたれかかり、力なく言う。
『テオはいい。テオは被害者だ。だがアロクラとマティアス、そしてオーパ……いや、爺さんにはちゃんと話をつけたい。勿論、大事な事だから感情にまかせて怒鳴りつけて済ませたくない。それに一番の被害者は香澄だ。彼女の回復を待って、改めて話し合いの場を設ける。クラウザー家の人間に香澄を二度と近付かせないよう約束させ、裁判を起こす事も視野に入れている』
乾いた声を聞き、クラウスがおずおずと言う。
『僕、てっきり思いっきり殴られるのかと思った』
その言葉を聞いた佑はジロリとクラウスを睨み、怒りを剥き出しにする。
『ああ、殴ってやりたいよ。お前ら三人、爺さんも含めて無抵抗な状態でサンドバッグにしてやりたい』
低く冷えた声で怒りを表してから、佑はフ……と力を抜く。
『……だがそれは俺の感情だ。俺は香澄にどうしたいかをまず聞きたい。彼女の声が聞きたい。…………だから、イギリスで色々やるべき事を済ませたらすぐ帰国する。それから香澄が回復するまで、一切関わらないでくれ。連絡もするな』
ピシャリとシャットアウトされ、さすがに双子たちも頷いた。
『分かったよ。タスクとカスミがどういう決断をくだしても、俺たちは受け入れる』
やや沈黙があったあと、テオが非常に言いづらそうに口を開く。
『……カイ。警察からエミリアの様子を少し聞いて、新たに分かった事があるんだが、落ち着いて聞いてくれるか?』
こんな口調で言われるなら、ろくでもない事に決まっている。
だがロンドンで河野に言われた通り、最悪の状況は脱したと思っている。
香澄は手元にいて安全だし、今なら〝おまけ〟が多少きても耐えられる気がした。
テオに向かって頷いてみせると、彼が心底申し訳なさそうに視線を落とし、言う。
『フラウ・カスミは以前ブルーメンブラットヴィルで事故に遭ったと言ったな?』
ドクッと胸が嫌な音を立てて鳴る。
『ああ。年寄りの踏み間違えで撥ねられた』
『……あれも、エミリアが命じた事だそうだ。犯人の男の弱みを掴み、事故を起こしても自分たちが庇うからと言ってフラウ・カスミを殺すつもりで狙ったらしい』
『…………っっ!!』
ギリッと強く奥歯を噛みしめ、佑は大きく深く息を吸い込む。
『……結婚できて良かったな』
佑の言葉に、テオはうっすら笑う。
『本当に、妻は地獄で出会った女神だ。……ただ妻がイギリス貴族の娘であると知って、エミリアがまた変な方向にこじれた。自分を周りに〝レディ〟と言わせたり、イングランド女性を理由なく嫌うようになった。俺は結婚して以来、一度もエミリアに家族への接近を許していない。妻と小さい子供たちに何かあったら、俺はエミリアを殺すだろう』
本来兄が妹に向けるべきではない言葉を聞き、全員がテオの妹への拒絶心を知る。
『自分の周りを顔のいい男たちで固め、逆ハーレムのようにしたのも、俺への想いが届かない事へのうさ晴らしだろう。少しでも金に弱みのある美形を見つけたら、爺さんの会社の保険金を盾にして、自分に従うよう要求する。それがあいつのやり口だ。それもこれも、メイヤーズの知名度が高かったのも災いしたんだろう』
佑はエミリアの周りにいた顔のいい護衛を思い出し、息をつく。
『カイや兄弟、アロクラがお気に入りだったのも、出自や見目が良かったからだろう。女性が憧れるセレブ男性を側に置き、自分だけが特別にお前たちと過ごす権利のある存在だと思い込んでいた。自分を女王だと思っているエミリアは、カイたち兄弟やアロクラにも、好きな人ができるのが許せなかったのだと思う』
『だからと言って……!』
語気を強める佑にテオは『分かってる』と目を伏せる。
『お前たち……特にカイが怒るのは当たり前だ。怒って当然だ。あいつの精神はすでに壊れていて、普通の感覚がなかったのだと思う。ファッション系の会社を立ち上げたのも、〝幼馴染みだからお揃い〟という仲間意識からだろう。実際そのデザインも目立つものはなく、業界から辛辣な評価をされていた。〝金持ちのお遊びだ〟とな』
この煮えたぎる怒りをどこにぶつけたらいいのか、分からない。
エミリアに贖罪を求めたくても、彼女の精神がすでに壊れていて、反省するつもりなどもさらさらないのだったら――。
『……僕たちはエミの所有物じゃないって、何回も言ったのにね』
ポツリとクラウスが呟き、アロイスも疲れた様子で溜め息をつく。
『……香澄は関係ないだろう……』
絞り出すように呟いた佑の言葉に、誰も何も言えなかった。
やがて空気を変えるように、アロイスがマティアスに問う。
『言いにくいけどさ、マティアスはエミから直接被害を受けてないのか?』
それにマティアスは軽く首を横に振る。
『俺はエミリアと性的な関係にはない。だがパワハラ……なんて可愛い言葉じゃ済まない、それこそ俺の事を物か家畜みたいにしか思っていない扱いを受けた。上辺だけあいつを〝美しい〟〝完璧だ〟と褒め称えるうちに、もう何も感情が動かなくなった』
『もうこれで一応カタついたんだからさ、訴訟起こせよ』
クラウスに言われ、マティアスは『そのつもりだ』と頷く。
暗い表情をしていたテオは、ゆら……と視線を佑にやり深く頭を下げた。
『カイ、本当に済まない。お前とフラウ・カスミには何と詫びればいいのか……』
疲れ切った佑はソファの背もたれにもたれかかり、力なく言う。
『テオはいい。テオは被害者だ。だがアロクラとマティアス、そしてオーパ……いや、爺さんにはちゃんと話をつけたい。勿論、大事な事だから感情にまかせて怒鳴りつけて済ませたくない。それに一番の被害者は香澄だ。彼女の回復を待って、改めて話し合いの場を設ける。クラウザー家の人間に香澄を二度と近付かせないよう約束させ、裁判を起こす事も視野に入れている』
乾いた声を聞き、クラウスがおずおずと言う。
『僕、てっきり思いっきり殴られるのかと思った』
その言葉を聞いた佑はジロリとクラウスを睨み、怒りを剥き出しにする。
『ああ、殴ってやりたいよ。お前ら三人、爺さんも含めて無抵抗な状態でサンドバッグにしてやりたい』
低く冷えた声で怒りを表してから、佑はフ……と力を抜く。
『……だがそれは俺の感情だ。俺は香澄にどうしたいかをまず聞きたい。彼女の声が聞きたい。…………だから、イギリスで色々やるべき事を済ませたらすぐ帰国する。それから香澄が回復するまで、一切関わらないでくれ。連絡もするな』
ピシャリとシャットアウトされ、さすがに双子たちも頷いた。
『分かったよ。タスクとカスミがどういう決断をくだしても、俺たちは受け入れる』
やや沈黙があったあと、テオが非常に言いづらそうに口を開く。
『……カイ。警察からエミリアの様子を少し聞いて、新たに分かった事があるんだが、落ち着いて聞いてくれるか?』
こんな口調で言われるなら、ろくでもない事に決まっている。
だがロンドンで河野に言われた通り、最悪の状況は脱したと思っている。
香澄は手元にいて安全だし、今なら〝おまけ〟が多少きても耐えられる気がした。
テオに向かって頷いてみせると、彼が心底申し訳なさそうに視線を落とし、言う。
『フラウ・カスミは以前ブルーメンブラットヴィルで事故に遭ったと言ったな?』
ドクッと胸が嫌な音を立てて鳴る。
『ああ。年寄りの踏み間違えで撥ねられた』
『……あれも、エミリアが命じた事だそうだ。犯人の男の弱みを掴み、事故を起こしても自分たちが庇うからと言ってフラウ・カスミを殺すつもりで狙ったらしい』
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