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第八部・イギリス捜索 編

テオとエミリア

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「香澄、おんぶするよ。掴まって」

 車椅子を買い取る事も考えたが、香澄を休ませてからロンドンに移り、すぐ帰国する事を考えるとそれほど必要ではないかもしれない。
 もし必要なら帰国してから日本で買えばいい。

 背中を向けてしゃがんだ佑に、香澄は看護師に手伝われおずおずとおぶさってきた。

「……ごめんね。……わたし、重い……」

 まだどこかぼんやりとした声で言う香澄は、しっかり掴まれず少し脱力気味だ。

「香澄は軽いよ」

 愛しい女性をしっかりと背負い、佑は病院を出る。

 そこには河野が立っていて、残る三人の代表なのかアロイスもいた。
 少し離れた所には、沈痛な面持ちをした護衛たちもいる。
 アロイスは香澄を見て一瞬顔を歪ませ――、ごまかすように笑ってみせる。

 そのあと車に乗り、ランカスターのホテルに向かった。





 河野が押さえたランカスターのホテルは、広い敷地にコテージタイプの部屋があるタイプだった。
 勿論、佑と香澄がゆったり泊まれるよう、広い部屋を予約してくれている。

 佑はベッドに香澄を寝かせたあと、シャワーを浴びて髪のカラーワックスを落とし着替えた。
 朝食もとっていないので、軽食をモソモソと口に入れてぼんやりしていると、コテージのチャイムが鳴った。

 もう少し放っておいてほしいと思いつつ立ち上がり、ドアを開く。
 そこには河野、双子、マティアスがいる。
 テオはランカスターに到着したばかりのようだ。

 護衛たちは部屋の隅に立ち、リビングのソファに五人を座らせルームサービスのお茶を頼む。
 全員、疲れきった、淀んだ空気を醸し出していた。

 Tシャツにジーパンというカジュアルな格好になったテオは、まず佑に頭を下げた。

『……すまなかった』

 彼は黒髪に染めていたのを洗い流し、もとの金髪に戻っている。

『まぁ、エミの性格がひん曲がってるのは、テオのせいじゃないよね』

 クラウスが助け船を出してアロイスも頷くが、テオは首を横に振る。

『聞いてしまっただろうが、エミリアは異常だ。実の兄である俺を好きだと言っている。子供の頃ならまだ可愛いと思えていただろう。だが幾つになっても同じ事を言うので、次第に気持ち悪く思うようになった』

 この広い世の中、秘密裏に近親で愛を育む者は当然いる。
 だが一般的にタブーとされている以上、テオが〝異常〟と言い〝気持ち悪い〟と不快を表すのも無理はない。

『あいつは祖父に甘やかされて育った。祖父は男系家族だったから、エミリアが余計可愛かったんだろう。文字通り目に入れても痛くないほど可愛がっていた』

『まぁ、それは想像できるね』

 紅茶を飲み、クラウスが脚を組む。

『エミリアの外見が整っているのは兄である俺も認める。爺さんもそりゃあ可愛がったし、周りもちやほやして育てた。その結果、エミリアは自分が万人から愛されていると信じて疑わなかった。家が貴族な上に金持ちで、ほとんどの者が強く言えないのも拍車をかけた。およそ自分の言う通りにならない事など、何もないと思っていたんだろう。そもそもの発端は、家族の溺愛ぶりも原因だ』

『キャンプでの突き落とし事件は、やっぱり嫉妬だろ?』

 アロイスの問いに、当時同じキャンプ場にいたテオが頷く。

『あのあと、エミリアは酷い癇癪を起こしていたよ。〝アロクラは自分のものだ〟と言ってきかなかった。アロクラの母親がうちに来てエミリアを気にしてくれたが、うちの愚かな祖父は〝エミリアとアロクラを仲良くさせてくれ。うちの孫が可哀想だ〟と脅す始末でね』

 吐き捨てるように言い、テオは前屈みになり、組んだ手を額に当てた。

『そういう風に歪んで育ったエミリアが十七歳の時……。俺が二十一歳の時だ。夏休みに別荘に出掛けて、両親も別の用事で別荘を空けた時――俺とエミリアは二人きりになった。……俺は夜寝ている時に、エミリアに襲われたよ。……レイプされた』

 まさかの一線を越えた事実に、全員が顔を引き攣らせた。

『中に出したのか?』

 真顔のままのマティアスの問いに、テオは重苦しく頷く。

『……だがエミリアは妊娠しなかった。それ以降、俺は家を出てエミリアを徹底的に避けた。幸い仕事先のアメリカで今の妻と出会い、結婚した。よほどの事がない限り、ドイツには戻らないと誓っていたんだが……』

 テオの隣に座っていたマティアスが彼の背中をさすった。
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