437 / 1,536
第八部・イギリス捜索 編
テオ
しおりを挟む
『君たちの事は黙っていてあげるから、代わりに招待状を私に渡したまえ。ん? もう湖水地方にいる? ならばこれから我々が向かうから、ウィンダミア湖のボウネスで待っていたまえ。これからヘリで向かい、一時間もせずにそちらに着く』
イタリアの車業界のドンと言っていい人物に逆らえる訳もなく、電話の向こうで二人のモデルはマルコの言う事を聞く気になったようだ。
『ああ、分かっている。君らがどこへ行こうとしていたかは、誰にも言わない。君らはパーティー会場には向かわず、どこか別の場所でバカンスの続きを楽しみたまえ』
そしてマルコはウィンダミア湖畔にある町、ボウネスでの待ち合わせ場所を決め、電話を切った。
『さあ、あまり時間がない。アレッサンドロが言うには、〝パーティー〟は夕方かららしい。正式な開始時刻はないようだが、スィニョリーナ・カスミを助けるためには早い方がいい。君と一緒にいた従兄にも、今すぐ声を掛けたまえ。スィニョール・ユキオ。君はすぐにヘリ業者に連絡を』
『はい』
佑はすぐにアロイスに電話をかけた。
**
また時は遡り、佑が河野の訪問を受けていた頃、アロイスとクラウス、マティアスはロンドン内の別のホテルである人物に会っていた。
『久しぶりだな、テオ』
ホテルのロビーにいたのは、スラリと背の高い金髪碧眼の美男だ。
年の頃は三人とも同じぐらいで、双子、マティアスとしっかり握手をして背中を叩いている姿は親しさを感じさせる。
『まったく、緊急事態だから今すぐロンドンに来いって……。俺はここずっとNYから動いてないから、五時間の時差も辛いんだ』
『ジジ臭いなぁ、テオ』
テオはエミリアの兄で、三十一歳だ。
マティアスは三十歳なので、この中で一番年下になる。
『結婚生活はうまくいってるの? 電撃結婚してから数年経つけど』
クラウスの質問に、テオは微笑んでスマホを見せる。
『上の子は五歳、下の子が一歳になったんだ。可愛いだろ。初めての女の子だから右往左往しているが、もう毎日家に帰るのが楽しみで楽しみで』
テオはスマホの写真を見せ、デレデレとしている。
『ソフィアは育児で大変なんじゃないの?』
『だから俺もあまり来たくなかったんだけどな。マティアスが一生の頼みというから』
チラリとマティアスを見て、テオは仕方ないと肩をすくめる。
『少しでも悪いと思うなら、今度NYに遊びに来てくれ。なかなか会えないから、俺もたまには会いたくなる』
『たまにはだろ。いつも話してたら〝うるさい〟って言う癖に』
ケラケラとアロイスが笑い、テオも否定しない。
『……で、何の用だ? 分かっていると思うが、実家関係なら関わりたくない』
テオはドイツ国内でも有名な大学を卒業するまで、ミュンヘンで一人暮らしをしていた。
周りの誰もが大学を卒業したら家業を継ぐと思っていたのだが、大学卒業とともにいきなり就職先をNYに変えた。
NYではスマホやタブレットで有名なコスモス・レイン社に入社し、メキメキと出世して現在は管理職にいるらしい。
数年後にはアメリカで現在の妻ソフィアと劇的な出会いをし、結婚に至る。
双子やマティアスもNYで行われた結婚式に招待されたが、テオがドイツに戻る事はなかった。
子供が二人生まれた今でも、ドイツに連れて行った事は一度もないらしい。
三人とも、テオが家族と何かあって疎遠になっていると分かっているが、深く突っ込んで聞いていない。
いつでも聞くと酒の席で言った事はあったのだが、テオは曖昧に微笑んでいつもごまかしていた。
その彼が、昔馴染みのマティアスに懇願され、やっとイギリスまで来てくれたのは僥倖だ。
『うーん……。それは分かってるから、悪いなーっていう気持ちはすっごいあるんだけど』
クラウスの言葉にテオは相談の内容が実家絡みである事を察し、苦い顔になる。
四人はロビーから一階にあるレストランに移動し、コーヒーを飲んでいた。
『爺さんか?』
『いや、エミだ』
マティアスが口にした名前に、テオはあからさまに顔をしかめた。
『……あいつが何かしたか? ……いつか何かやらかすとは思っていたが』
『いやぁ、直接俺たちに関係しないなら、何しててもいいんだよね。でも今回、被害者がタスク……カイの婚約者に向いちゃってさ』
『カイって……日本のあのカイか? Chief Everyの』
アロイスの説明にテオの表情はみるみる曇り、『詳しく聞かせてくれ』と溜め息交じりに言った。
イタリアの車業界のドンと言っていい人物に逆らえる訳もなく、電話の向こうで二人のモデルはマルコの言う事を聞く気になったようだ。
『ああ、分かっている。君らがどこへ行こうとしていたかは、誰にも言わない。君らはパーティー会場には向かわず、どこか別の場所でバカンスの続きを楽しみたまえ』
そしてマルコはウィンダミア湖畔にある町、ボウネスでの待ち合わせ場所を決め、電話を切った。
『さあ、あまり時間がない。アレッサンドロが言うには、〝パーティー〟は夕方かららしい。正式な開始時刻はないようだが、スィニョリーナ・カスミを助けるためには早い方がいい。君と一緒にいた従兄にも、今すぐ声を掛けたまえ。スィニョール・ユキオ。君はすぐにヘリ業者に連絡を』
『はい』
佑はすぐにアロイスに電話をかけた。
**
また時は遡り、佑が河野の訪問を受けていた頃、アロイスとクラウス、マティアスはロンドン内の別のホテルである人物に会っていた。
『久しぶりだな、テオ』
ホテルのロビーにいたのは、スラリと背の高い金髪碧眼の美男だ。
年の頃は三人とも同じぐらいで、双子、マティアスとしっかり握手をして背中を叩いている姿は親しさを感じさせる。
『まったく、緊急事態だから今すぐロンドンに来いって……。俺はここずっとNYから動いてないから、五時間の時差も辛いんだ』
『ジジ臭いなぁ、テオ』
テオはエミリアの兄で、三十一歳だ。
マティアスは三十歳なので、この中で一番年下になる。
『結婚生活はうまくいってるの? 電撃結婚してから数年経つけど』
クラウスの質問に、テオは微笑んでスマホを見せる。
『上の子は五歳、下の子が一歳になったんだ。可愛いだろ。初めての女の子だから右往左往しているが、もう毎日家に帰るのが楽しみで楽しみで』
テオはスマホの写真を見せ、デレデレとしている。
『ソフィアは育児で大変なんじゃないの?』
『だから俺もあまり来たくなかったんだけどな。マティアスが一生の頼みというから』
チラリとマティアスを見て、テオは仕方ないと肩をすくめる。
『少しでも悪いと思うなら、今度NYに遊びに来てくれ。なかなか会えないから、俺もたまには会いたくなる』
『たまにはだろ。いつも話してたら〝うるさい〟って言う癖に』
ケラケラとアロイスが笑い、テオも否定しない。
『……で、何の用だ? 分かっていると思うが、実家関係なら関わりたくない』
テオはドイツ国内でも有名な大学を卒業するまで、ミュンヘンで一人暮らしをしていた。
周りの誰もが大学を卒業したら家業を継ぐと思っていたのだが、大学卒業とともにいきなり就職先をNYに変えた。
NYではスマホやタブレットで有名なコスモス・レイン社に入社し、メキメキと出世して現在は管理職にいるらしい。
数年後にはアメリカで現在の妻ソフィアと劇的な出会いをし、結婚に至る。
双子やマティアスもNYで行われた結婚式に招待されたが、テオがドイツに戻る事はなかった。
子供が二人生まれた今でも、ドイツに連れて行った事は一度もないらしい。
三人とも、テオが家族と何かあって疎遠になっていると分かっているが、深く突っ込んで聞いていない。
いつでも聞くと酒の席で言った事はあったのだが、テオは曖昧に微笑んでいつもごまかしていた。
その彼が、昔馴染みのマティアスに懇願され、やっとイギリスまで来てくれたのは僥倖だ。
『うーん……。それは分かってるから、悪いなーっていう気持ちはすっごいあるんだけど』
クラウスの言葉にテオは相談の内容が実家絡みである事を察し、苦い顔になる。
四人はロビーから一階にあるレストランに移動し、コーヒーを飲んでいた。
『爺さんか?』
『いや、エミだ』
マティアスが口にした名前に、テオはあからさまに顔をしかめた。
『……あいつが何かしたか? ……いつか何かやらかすとは思っていたが』
『いやぁ、直接俺たちに関係しないなら、何しててもいいんだよね。でも今回、被害者がタスク……カイの婚約者に向いちゃってさ』
『カイって……日本のあのカイか? Chief Everyの』
アロイスの説明にテオの表情はみるみる曇り、『詳しく聞かせてくれ』と溜め息交じりに言った。
21
お気に入りに追加
2,501
あなたにおすすめの小説
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
隠れ御曹司の愛に絡めとられて
海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた――
彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。
古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。
仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!?
チャラい男はお断り!
けれども彼の作る料理はどれも絶品で……
超大手商社 秘書課勤務
野村 亜矢(のむら あや)
29歳
特技:迷子
×
飲食店勤務(ホスト?)
名も知らぬ男
24歳
特技:家事?
「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて
もう逃げられない――
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。
−−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!!
イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる