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第八部・イギリス捜索 編

テオ

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『君たちの事は黙っていてあげるから、代わりに招待状を私に渡したまえ。ん? もう湖水地方にいる? ならばこれから我々が向かうから、ウィンダミア湖のボウネスで待っていたまえ。これからヘリで向かい、一時間もせずにそちらに着く』

 イタリアの車業界のドンと言っていい人物に逆らえる訳もなく、電話の向こうで二人のモデルはマルコの言う事を聞く気になったようだ。

『ああ、分かっている。君らがどこへ行こうとしていたかは、誰にも言わない。君らはパーティー会場には向かわず、どこか別の場所でバカンスの続きを楽しみたまえ』

 そしてマルコはウィンダミア湖畔にある町、ボウネスでの待ち合わせ場所を決め、電話を切った。

『さあ、あまり時間がない。アレッサンドロが言うには、〝パーティー〟は夕方かららしい。正式な開始時刻はないようだが、スィニョリーナ・カスミを助けるためには早い方がいい。君と一緒にいた従兄にも、今すぐ声を掛けたまえ。スィニョール・ユキオ。君はすぐにヘリ業者に連絡を』

『はい』

 佑はすぐにアロイスに電話をかけた。



**



 また時は遡り、佑が河野の訪問を受けていた頃、アロイスとクラウス、マティアスはロンドン内の別のホテルである人物に会っていた。

『久しぶりだな、テオ』

 ホテルのロビーにいたのは、スラリと背の高い金髪碧眼の美男だ。
 年の頃は三人とも同じぐらいで、双子、マティアスとしっかり握手をして背中を叩いている姿は親しさを感じさせる。

『まったく、緊急事態だから今すぐロンドンに来いって……。俺はここずっとNYから動いてないから、五時間の時差も辛いんだ』

『ジジ臭いなぁ、テオ』

 テオはエミリアの兄で、三十一歳だ。
 マティアスは三十歳なので、この中で一番年下になる。

『結婚生活はうまくいってるの? 電撃結婚してから数年経つけど』

 クラウスの質問に、テオは微笑んでスマホを見せる。

『上の子は五歳、下の子が一歳になったんだ。可愛いだろ。初めての女の子だから右往左往しているが、もう毎日家に帰るのが楽しみで楽しみで』

 テオはスマホの写真を見せ、デレデレとしている。

『ソフィアは育児で大変なんじゃないの?』
『だから俺もあまり来たくなかったんだけどな。マティアスが一生の頼みというから』

 チラリとマティアスを見て、テオは仕方ないと肩をすくめる。

『少しでも悪いと思うなら、今度NYに遊びに来てくれ。なかなか会えないから、俺もたまには会いたくなる』
『たまにはだろ。いつも話してたら〝うるさい〟って言う癖に』

 ケラケラとアロイスが笑い、テオも否定しない。

『……で、何の用だ? 分かっていると思うが、実家関係なら関わりたくない』

 テオはドイツ国内でも有名な大学を卒業するまで、ミュンヘンで一人暮らしをしていた。
 周りの誰もが大学を卒業したら家業を継ぐと思っていたのだが、大学卒業とともにいきなり就職先をNYに変えた。
 NYではスマホやタブレットで有名なコスモス・レイン社に入社し、メキメキと出世して現在は管理職にいるらしい。
 数年後にはアメリカで現在の妻ソフィアと劇的な出会いをし、結婚に至る。

 双子やマティアスもNYで行われた結婚式に招待されたが、テオがドイツに戻る事はなかった。
 子供が二人生まれた今でも、ドイツに連れて行った事は一度もないらしい。

 三人とも、テオが家族と何かあって疎遠になっていると分かっているが、深く突っ込んで聞いていない。
 いつでも聞くと酒の席で言った事はあったのだが、テオは曖昧に微笑んでいつもごまかしていた。

 その彼が、昔馴染みのマティアスに懇願され、やっとイギリスまで来てくれたのは僥倖だ。

『うーん……。それは分かってるから、悪いなーっていう気持ちはすっごいあるんだけど』

 クラウスの言葉にテオは相談の内容が実家絡みである事を察し、苦い顔になる。
 四人はロビーから一階にあるレストランに移動し、コーヒーを飲んでいた。

『爺さんか?』
『いや、エミだ』

 マティアスが口にした名前に、テオはあからさまに顔をしかめた。

『……あいつが何かしたか? ……いつか何かやらかすとは思っていたが』

『いやぁ、直接俺たちに関係しないなら、何しててもいいんだよね。でも今回、被害者がタスク……カイの婚約者に向いちゃってさ』

『カイって……日本のあのカイか? Chief Everyの』

 アロイスの説明にテオの表情はみるみる曇り、『詳しく聞かせてくれ』と溜め息交じりに言った。
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