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第八部・イギリス捜索 編
第三秘書の協力
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そして夕方近くになり、部屋のチャイムが鳴ったかと思うと河野が姿を現したのだ。
いつもと変わらないスーツ姿の彼は、冷静に佑を見て忖度しない言葉を口にする。
「社長、酷い顔色ですね」
彼の言葉に佑は息をつき、Chief Everyで一人社長秘書業務をこなしている松井の事を尋ねる。
「……松井さんは一人で大丈夫なのか?」
「赤松さんや私が入る前は、お一人で秘書業を請け負っていたでしょう。『少しのあいだ一人に戻るぐらい、どうって事はありません。赤松さんを無事に連れ戻してください。貴重な戦力ですから』とのお言葉です」
「……ありがとうございます」
日本にいる長年の仕事のパートナーに、佑は礼を言う。
「それはそうと、今すぐ私にできる事はありますか? できればこれまでの流れも説明して頂けると、円滑に動けます」
立ち話だったので佑は河野をリビングのソファに座らせ、ルームサービスで紅茶を頼んだ。
いつもの佑なら、彼が到着する時間を事前に把握し、コンシェルジュに一言言って河野を迎える準備ぐらいしていた。
(いくら自分の秘書とはいえ、開口一番にねぎらいの言葉をかける事もできなかった。今回は俺に同行した訳じゃないから、移動もエコノミーで疲れただろうに)
香澄の事で頭がいっぱいとはいえ、配慮が足りなさすぎた。
紅茶が運ばれるまで河野から会社の事について報告を受けた。
お茶とお茶菓子が運ばれてきたあと、佑は日本でエミリアと一緒に食事をした夜からの事を、できるだけ感情的にならずに淡々と話した。
「なるほど……」
河野は眼鏡を外して少し考える。
眼鏡が曇っていないか確認して、またかけてから彼は尋ねてくる。
「そのエミリア氏の別荘が、ウィンダミア湖近くにあるのですね?」
「ああ」
悄然とした佑を前に、河野は淡々と思った事を口にしてゆく。
「せっかく都市部から離れた場所に、静かな別荘があるのに使わない手はありません。エミリア氏がロンドンに現れると指定した日、裏を掻かれる可能性もあります。その時のために、ヘリをチャーターしておきましょう」
すぐに河野はスマホを開き、調べ物をしたあとに電話をかけた。
そして流暢な英語で土曜日の夜に、ジェットヘリを二台押さえたいと伝える。
「これでいつでも行動できます。ロンドンからウィンダミア湖近くまで約三百km。チャーターしたジェットヘリの最高速度は時速約四百km。単純計算をしても……四十五分ぐらいで着けます」
佑も日本国内で急ぎの移動がある時、ヘリをチャーターする時がある。
一般の人に対して比較的ヘリコプターを身近に感じる生活をしていたのに、考えつかなかったのはそれほど動揺し、精神的に逼迫していたからだろう。
双子もマティアスも自分よりは余裕がありそうだが、責任を感じているため視野が狭くなっている可能性がある。
それに対し、河野の第三者的なものの味方は本当に助かった。
「それから、赤松さんがどこにいるかの確認が必要ですね」
紅茶を一口飲み、河野が言う。
「失礼ですが、社長がお話をしたというフィオーレ社のマルコ氏を利用させて頂く事も考えております。先方もバカンスでロンドンを訪れていらっしゃると思いますので、借りを作るつもりで、何らかの取り引きをする可能性を視野に入れてください。あちらもやり手の経営者なら、美味い話には乗るでしょう。それこそ、お祖父様のアドラー氏を利用する事もお考えください」
「分かった。取り引き材料に何でも用意しよう」
河野が姿を現して秘書らしい対応をし、佑もようやく社長としての落ち着きを取り戻してきた。
「私的な勘で恐縮ですが、私がエミリア氏なら高確率でその別荘を使います。静かな私有地であれば他人が立ち入る恐れがない上、ある程度騒いでも苦情がこないからです」
「確かに……そうだな。どれだけ騒いでも誰にも気付かれないのなら、香澄が悲鳴を上げても意味をなさないだろう」
最悪の事態を考え、佑は視線を落とす。
「社長がこれだけ都市部を探しても手がかりが見つけられないのなら、恐らくお二人はロンドンにいないでしょう。考えられる犯罪として、人気のない場所で監禁する。または闇オークションのようなもので赤松さんを売り飛ばす可能性もあります」
非人道的な単語を耳にし、佑は歯を食いしばる。
「ここで問題となるのが、エミリア氏の性格です。静かな場所で赤松さんを放置し、それで満足するか。はたまた、大勢の前で人としての尊厳を奪って喜ぶか」
言われて、佑はすぐに後者だと思った。
「過去にエミリアが双子を好きになった女性にした仕打ちを考えて、監禁して放置はないだろう。自分は直接手を下さなくても、相手が悲鳴を上げ泣き叫び、許しを乞いながら滅茶苦茶にされる姿を望むと思う」
言いながら、なんてひどい事だろうと唇を引き結ぶ。
いつもと変わらないスーツ姿の彼は、冷静に佑を見て忖度しない言葉を口にする。
「社長、酷い顔色ですね」
彼の言葉に佑は息をつき、Chief Everyで一人社長秘書業務をこなしている松井の事を尋ねる。
「……松井さんは一人で大丈夫なのか?」
「赤松さんや私が入る前は、お一人で秘書業を請け負っていたでしょう。『少しのあいだ一人に戻るぐらい、どうって事はありません。赤松さんを無事に連れ戻してください。貴重な戦力ですから』とのお言葉です」
「……ありがとうございます」
日本にいる長年の仕事のパートナーに、佑は礼を言う。
「それはそうと、今すぐ私にできる事はありますか? できればこれまでの流れも説明して頂けると、円滑に動けます」
立ち話だったので佑は河野をリビングのソファに座らせ、ルームサービスで紅茶を頼んだ。
いつもの佑なら、彼が到着する時間を事前に把握し、コンシェルジュに一言言って河野を迎える準備ぐらいしていた。
(いくら自分の秘書とはいえ、開口一番にねぎらいの言葉をかける事もできなかった。今回は俺に同行した訳じゃないから、移動もエコノミーで疲れただろうに)
香澄の事で頭がいっぱいとはいえ、配慮が足りなさすぎた。
紅茶が運ばれるまで河野から会社の事について報告を受けた。
お茶とお茶菓子が運ばれてきたあと、佑は日本でエミリアと一緒に食事をした夜からの事を、できるだけ感情的にならずに淡々と話した。
「なるほど……」
河野は眼鏡を外して少し考える。
眼鏡が曇っていないか確認して、またかけてから彼は尋ねてくる。
「そのエミリア氏の別荘が、ウィンダミア湖近くにあるのですね?」
「ああ」
悄然とした佑を前に、河野は淡々と思った事を口にしてゆく。
「せっかく都市部から離れた場所に、静かな別荘があるのに使わない手はありません。エミリア氏がロンドンに現れると指定した日、裏を掻かれる可能性もあります。その時のために、ヘリをチャーターしておきましょう」
すぐに河野はスマホを開き、調べ物をしたあとに電話をかけた。
そして流暢な英語で土曜日の夜に、ジェットヘリを二台押さえたいと伝える。
「これでいつでも行動できます。ロンドンからウィンダミア湖近くまで約三百km。チャーターしたジェットヘリの最高速度は時速約四百km。単純計算をしても……四十五分ぐらいで着けます」
佑も日本国内で急ぎの移動がある時、ヘリをチャーターする時がある。
一般の人に対して比較的ヘリコプターを身近に感じる生活をしていたのに、考えつかなかったのはそれほど動揺し、精神的に逼迫していたからだろう。
双子もマティアスも自分よりは余裕がありそうだが、責任を感じているため視野が狭くなっている可能性がある。
それに対し、河野の第三者的なものの味方は本当に助かった。
「それから、赤松さんがどこにいるかの確認が必要ですね」
紅茶を一口飲み、河野が言う。
「失礼ですが、社長がお話をしたというフィオーレ社のマルコ氏を利用させて頂く事も考えております。先方もバカンスでロンドンを訪れていらっしゃると思いますので、借りを作るつもりで、何らかの取り引きをする可能性を視野に入れてください。あちらもやり手の経営者なら、美味い話には乗るでしょう。それこそ、お祖父様のアドラー氏を利用する事もお考えください」
「分かった。取り引き材料に何でも用意しよう」
河野が姿を現して秘書らしい対応をし、佑もようやく社長としての落ち着きを取り戻してきた。
「私的な勘で恐縮ですが、私がエミリア氏なら高確率でその別荘を使います。静かな私有地であれば他人が立ち入る恐れがない上、ある程度騒いでも苦情がこないからです」
「確かに……そうだな。どれだけ騒いでも誰にも気付かれないのなら、香澄が悲鳴を上げても意味をなさないだろう」
最悪の事態を考え、佑は視線を落とす。
「社長がこれだけ都市部を探しても手がかりが見つけられないのなら、恐らくお二人はロンドンにいないでしょう。考えられる犯罪として、人気のない場所で監禁する。または闇オークションのようなもので赤松さんを売り飛ばす可能性もあります」
非人道的な単語を耳にし、佑は歯を食いしばる。
「ここで問題となるのが、エミリア氏の性格です。静かな場所で赤松さんを放置し、それで満足するか。はたまた、大勢の前で人としての尊厳を奪って喜ぶか」
言われて、佑はすぐに後者だと思った。
「過去にエミリアが双子を好きになった女性にした仕打ちを考えて、監禁して放置はないだろう。自分は直接手を下さなくても、相手が悲鳴を上げ泣き叫び、許しを乞いながら滅茶苦茶にされる姿を望むと思う」
言いながら、なんてひどい事だろうと唇を引き結ぶ。
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