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第八部・イギリス捜索 編
致命的な落とし穴
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『彼女は普段、どのような服を着ているかね? 彼女が好む色や服の種類などは?』
マルコの質問に、佑は淀みなく答える。
『なんでも着こなしますが、あまり露出する服は好みません。俺と一緒にいる時はスカートやワンピースが多いです。普段家にいる時は、シンプルなTシャツやパンツ姿が多いです』
『ふむ……。…………ん?』
頷いて話を聞いていたマルコは、不意に茶色い目を瞬かせ何かに気付いた素振りを見せた。
『何か?』
佑はその変化を鋭敏に察し、彼に尋ねる。
『もう一度彼女の写真を見せてくれないか?』
『はい』
佑はスマホを取り出し、香澄単体を取った画像を開く。
一番顔が分かりやすいのは、二人でデートをした時のバストアップ写真だ。
香澄はターコイズブルーのワンピースを着て、髪をアップにして照れくさそうに微笑んでいる。
しかしマルコの反応は鈍い。
『あぁ……その、髪を下ろした写真はあるかね?』
『はい。何枚でも』
すぐに佑はスマホをスワイプし、髪が下りたままのものを見せた。
マルコはしばらく写真を見て、丸眼鏡を外したり掛けたり、目をすがめたりする。
そして、申し訳なさそうに首を横に振った。
『すまない。私にはアジア人女性の顔はどうも似ているように見えて』
『いえ、それは承知の上です』
海外でアジア人を探すという事はこういう事だと、佑も理解している。
落胆した時、マルコが希望へ続く言葉を口にした。
『だが、もし思い出した彼女が成人女性なら、スィニョリーナ・カスミかもしれない。私が彼女を見かけた時は、Tシャツにデニム姿の十二歳ぐらいの子供かと思ったんだ』
『あ……!』
彼の言葉を聞いた瞬間、全身の毛穴がブワッと開いた気がし、冷や汗を掻いた。
落とし穴だ。
佑から見れば、香澄は二十七歳の魅力的な大人の女性だ。
しかし欧米では、アジア人はことさら若く見られてしまう。
骨格や体つき、顔立ちもまったく違う。
しかも前髪を作る髪型は、欧米ではより幼さを強調してしまう。
香澄の外見で一人にバーに行っても、酒を出してもらえるか分からないほどだ。
パスポートなど身分証明書を提示して、やっと成人女性だと理解してもらえるぐらいの認識の差がある。
こちらの人に二十七歳の女性を探していると説明すれば、匂い立つような妖艶な色気の女性を想像しただろう。
しかし、もしエミリアに同行している香澄が、すっぴんでカジュアルな格好をしていたのなら、子供と認識されていてもおかしくない。
愕然として自分のミスを認識したあと、佑は縋るようにマルコを見た。
『それで……、香澄を見たんですか?』
彼の質問に、マルコは今度は迷わずに返事をする。
『ああ、もし私が認識した人がスィニョリーナ・カスミなら、金髪美女を追いかけて、おっかなびっくり部屋へ向かっていたよ』
その言葉を聞いた瞬間、今度は全身の血の気が引いていく心地を味わう。
『……ここに、……いた?』
足下が真っ暗になり、底知れない闇の中へ体が吸い込まれていく幻想を抱いた。
――また、致命的なミスを冒した。
急に動悸が激しくなり、呼吸が乱れてくる。
叫んでしまいそうになるのを必死に堪え、佑はさらにマルコに質問する。
『ここ数日、彼女を見かけましたか? どこかへ行った様子は?』
それにマルコは首をひねり、懸命に思い出そうとしてくれる。
が、望んだ答えは得られない。
『私も一日中ここに座っている訳ではないからな。……だが朝食後や夕食後にここでのんびり座っていて、スィニョリーナ・カスミとおぼしき女性を見かけた覚えはない。同行していた金髪美女もだ』
佑は頭を抱えて考え込む。
(一日の宿泊で移動した? それとも、まだここに滞在している――?)
頭の中で次々に疑問が生まれ、様々な可能性を予測していきながら、さらに尋ねる。
『その金髪美女と一緒に、顔のいい男性数人はいませんでしたか?』
『ああ、いたような気がしたな。女性の代わりにフロントで手続きをしていた。いいところのお嬢さんなんだろうなと思ったよ』
『その男たちは見ませんでしたか?』
佑の質問を聞き、マルコは指で髭をねじる。
マルコの質問に、佑は淀みなく答える。
『なんでも着こなしますが、あまり露出する服は好みません。俺と一緒にいる時はスカートやワンピースが多いです。普段家にいる時は、シンプルなTシャツやパンツ姿が多いです』
『ふむ……。…………ん?』
頷いて話を聞いていたマルコは、不意に茶色い目を瞬かせ何かに気付いた素振りを見せた。
『何か?』
佑はその変化を鋭敏に察し、彼に尋ねる。
『もう一度彼女の写真を見せてくれないか?』
『はい』
佑はスマホを取り出し、香澄単体を取った画像を開く。
一番顔が分かりやすいのは、二人でデートをした時のバストアップ写真だ。
香澄はターコイズブルーのワンピースを着て、髪をアップにして照れくさそうに微笑んでいる。
しかしマルコの反応は鈍い。
『あぁ……その、髪を下ろした写真はあるかね?』
『はい。何枚でも』
すぐに佑はスマホをスワイプし、髪が下りたままのものを見せた。
マルコはしばらく写真を見て、丸眼鏡を外したり掛けたり、目をすがめたりする。
そして、申し訳なさそうに首を横に振った。
『すまない。私にはアジア人女性の顔はどうも似ているように見えて』
『いえ、それは承知の上です』
海外でアジア人を探すという事はこういう事だと、佑も理解している。
落胆した時、マルコが希望へ続く言葉を口にした。
『だが、もし思い出した彼女が成人女性なら、スィニョリーナ・カスミかもしれない。私が彼女を見かけた時は、Tシャツにデニム姿の十二歳ぐらいの子供かと思ったんだ』
『あ……!』
彼の言葉を聞いた瞬間、全身の毛穴がブワッと開いた気がし、冷や汗を掻いた。
落とし穴だ。
佑から見れば、香澄は二十七歳の魅力的な大人の女性だ。
しかし欧米では、アジア人はことさら若く見られてしまう。
骨格や体つき、顔立ちもまったく違う。
しかも前髪を作る髪型は、欧米ではより幼さを強調してしまう。
香澄の外見で一人にバーに行っても、酒を出してもらえるか分からないほどだ。
パスポートなど身分証明書を提示して、やっと成人女性だと理解してもらえるぐらいの認識の差がある。
こちらの人に二十七歳の女性を探していると説明すれば、匂い立つような妖艶な色気の女性を想像しただろう。
しかし、もしエミリアに同行している香澄が、すっぴんでカジュアルな格好をしていたのなら、子供と認識されていてもおかしくない。
愕然として自分のミスを認識したあと、佑は縋るようにマルコを見た。
『それで……、香澄を見たんですか?』
彼の質問に、マルコは今度は迷わずに返事をする。
『ああ、もし私が認識した人がスィニョリーナ・カスミなら、金髪美女を追いかけて、おっかなびっくり部屋へ向かっていたよ』
その言葉を聞いた瞬間、今度は全身の血の気が引いていく心地を味わう。
『……ここに、……いた?』
足下が真っ暗になり、底知れない闇の中へ体が吸い込まれていく幻想を抱いた。
――また、致命的なミスを冒した。
急に動悸が激しくなり、呼吸が乱れてくる。
叫んでしまいそうになるのを必死に堪え、佑はさらにマルコに質問する。
『ここ数日、彼女を見かけましたか? どこかへ行った様子は?』
それにマルコは首をひねり、懸命に思い出そうとしてくれる。
が、望んだ答えは得られない。
『私も一日中ここに座っている訳ではないからな。……だが朝食後や夕食後にここでのんびり座っていて、スィニョリーナ・カスミとおぼしき女性を見かけた覚えはない。同行していた金髪美女もだ』
佑は頭を抱えて考え込む。
(一日の宿泊で移動した? それとも、まだここに滞在している――?)
頭の中で次々に疑問が生まれ、様々な可能性を予測していきながら、さらに尋ねる。
『その金髪美女と一緒に、顔のいい男性数人はいませんでしたか?』
『ああ、いたような気がしたな。女性の代わりにフロントで手続きをしていた。いいところのお嬢さんなんだろうなと思ったよ』
『その男たちは見ませんでしたか?』
佑の質問を聞き、マルコは指で髭をねじる。
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