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第八部・イギリス捜索 編

消えたアモーレ

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『……考えておくわ。私は今仕事が楽しいのよ。バカンスだって頼まれた雑誌のコラムを書いているわ。ワーカーホリックの日本人みたいでしょう?』

『はは。凄いな、私のエミは』

 そのあと祖父と孫の普通の会話が続いたあと、電話を切った彼女は溜め息をつく。

『結婚なんてしたくないわ。私には一生をかけて愛する人がいるんだもの』

 彼女の言葉を聞くのは、エミリアに何も反対しない部下たちだけだった。



**



『エミが動いた』

 バーミンガムのホテルにいたマティアスは、目の前にいるクラウスに頷いてみせる。

『二日後、二十四日土曜日の夜にロンドンだ。フラウ・カスミも一緒だと白状した』
『よし! なんだ、意外とあっさり返してくれるのか?』

 疲れを滲ませていたクラウスの顔に笑顔が戻り、彼はすぐに兄に電話を掛けた。
 すぐにアロイスが電話に出て、《どーした?》といつものように尋ねてくる。

『エミから今マティアスに電話があったよ。二日後の土曜日の夜にロンドンだって。当日になったらまた連絡があるらしいから、二人はそのままロンドンで待機しなよ。僕たちもすぐそっちに向かう』

《分かった。俺たちはこのままリッチ・カーティスに滞在しているから、こっちについたら連絡して》

『OK』

 手短に要件を話すと電話を切り、クラウスは立ち上がった。

『すぐチェックアウトしてロンドンに向かおう。ロンドンについたらちょっと早いけど祝杯挙げようか』

 その言葉に返事をせず、マティアスは荷物を纏め始めながら微妙な顔をしている。

『どうした? マティアス』

 クラウスの問いかけに、彼は少し沈黙したあと目をすがめる。

『いや……。こんなにあっさりしていていいんだろうか、と思って』

 その言葉を聞き、クラウスは『確かに』と瞬きをした。
 腕組みをし、熟考しながらも現在は他に頼る情報がないと再確認する。

『んー……。でも情報はそれしかないんだろ? エミを信じるのも癪だけどさ、本当なら実際カスミにも会える訳だし』

『そうなんだが……』

 マティアスは釈然としないという表情で、顎に手をやる。
 そして溜め息をつき、唇を噛んだ。

『何だか嫌な予感がする。俺が裏切っている事もエミにバレていそうな気がする』

 あまり感情を窺わせない彼が、今ばかりは焦りを見せていた。

『でもさ、他にどうしろって言うんだよ。情報がなさすぎるだろ』

 どちらもこれ以上何も言えず、沈黙が落ちる。

 やがて議論をするより行動をした方が早いという事になり、二人は言い合いをするよりもロンドンに向かう事にした。



**



 方々手を尽くした佑は、リッチ・カーティスのロビーにぼんやりと座っていた。

 コンシェルジュは彼が誰かを探しているのを察していて、特に何も言わない。

『お疲れならルームサービルにもお応えしますが』という気配りは見せるが、宿泊客について何も教えてくれなかった。

 その時、男性に話しかけられた。

『おや、今日も待ちぼうけかね?』

 振り向くと、初日にも言葉を交わしたイタリア人の老紳士だ。

 マルコという名前の彼も、現在バカンス中だ。
 本来はアフリカに行ってサファリパークを楽しむ予定だったのだが、ロンドンにいる孫が産気づいたという事で急遽予定を変更したらしい。

 ここ数日でマルコと顔なじみになった佑は、力なく微笑む。

『愛する人が見つからないんです』

 マルコは佑の背中を何度か叩き、肩を揉んだ。

『君のアモーレが見つかったあかつきには、ぜひ私の家を訪ねなさい。ローマにある、日差したっぷりのいい家だ。シチリアにも別荘があるぞ』

『……ありがとうございます』

 気さくなマルコとは、すでに連絡先を交換していた。
 彼は佑をChief Everyの社長だと知った上で、友好的に接してくれていた。

『君から聞くスィニョリーナ・カスミほど美しい女性なら、私も目を奪われているはずなのにな……』

 顎髭をさするマルコの言葉をぼんやりと聞きながら、佑はロンドンに来てから何回も繰り返した説明を、機械的に繰り返す。

『身長は百六十cmほどの黒髪が綺麗な女性です。目はパッと見ると黒いですが、よく見ると焦げ茶色です。細身ですが引き締まった体をしていて、胸が大きいです』

『聞けば聞くほど、女神のような女性だ』

 顎を撫で、マルコはさらに質問をする。
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