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第八部・イギリス捜索 編

ホテルを脱出し、湖水地方へ

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『そう。カイもしつこいわね。こんな子もういらないでしょう。彼ならよりどりみどりなのに、何でこんなにこだわるのかしら』

 たとえ佑が香澄を諦め、新しい恋人を作ったしても、絶対に邪魔をするエミリアがそんな事を言う。

 ホテルに滞在している間、基本的にエミリアは部屋にいて香澄を見張っていた。
 だが護衛にはさりげなくホテル内やロンドンを歩き、追っ手が掛かっていないか目を光らせていたのだ。

 案の定同じホテルに佑の姿があったと報告を受けた。
 尾行させればアロイスまで出てくる始末だ。

 秘書のマティアスが、自分と彼らのどちらについているかは分からない。
 しかし裏切ったなら、祖父ごしにきつい制裁が加わるのを彼は理解しているはずだ。

 無事にホテルを抜け、香澄とエミリアを乗せた車は、ロンドンを抜けて湖水地方の別荘に向かっていた。

『そろそろマティアスに連絡をしないとね。約束の時には私はロンドンにいる事になっているんだもの。……ふふ、その時こそ別荘で〝パーティー〟を開くのだけれどね』

 ルージュを塗った唇で微笑を浮かべ、エミリアはマティアスに電話をかけた。
 一度コール音が鳴っただけで、エミリアの有能な秘書はすぐに電話に出る。

《エミ?》

『もしもしマティアス? 私よ。そろそろロンドンに向かおうと思っているから、あなたもドイツを発ちなさい。二日後の夜にまた連絡をするわ』

《フラウ・カスミを知らないか?》

『んー……。白状すると一緒にいるわ。でも今は女二人でバカンス中だから邪魔しないでほしいの。特にあなたやカイがいると、カスミさんも気が休まらないでしょう? 彼女の心の傷が癒えた頃合いで、カイのもとに戻すわよ』

 普通なら、レイプされて中出しされた女性が、一週間やそこらで立ち直るなど不可能だ。

 だがエミリアは別荘でのパーティーを成功させたいがため、どうしても彼らをロンドンにおびき寄せる必要があった。

《……二日後の夜にロンドンだな?》

『そうよ。じゃあね』

 一方的に通話を切り、エミリアはぞんざいに溜め息をつく。

 そして小さく舌打ちをした。

 香澄を犯したあとのマティアスは、日本での用事を終えてすみやかにドイツに戻る予定だった。
 スケジュール通りの行動を取っているが、エミリアには分かった。

 普段寡黙で仕事や関係者以外に興味のないマティアスが、自分の命令で犯したとはいえ、日本人の初対面の女性を気に掛けるはずがない。

(絶対に後ろにカイやアロクラがいるわね。殴られて脅されて彼らに下ったか、それとも……)

 青い目で車外の景色をジッと見ながら、エミリアは思考を巡らせる。

(まぁいいわ。あんな駄犬、いつ手放しても構わないもの。子供の頃から一緒で、私に忠実だというしか利点がないわ。私に忠実な駒というのなら、ボディガードたちだって同じだし)

 心の中でマティアスを敵に回し、エミリアは軽い口調で言った。

『オーパに連絡しよっと』

 エミリアはバッグからスマホを取り出して操作し、耳に宛がう。
 数回コール音が鳴ったあと、老齢男性の声がした。

 相手はヨーロッパで有名な保険会社メイヤーズの会長で、ドイツの貴族メイヤー家の当主・フランクだ。

《おお、エミか? どうした。オーパに用か?》

 誰もが恐れるフランクは、孫娘からの電話にデレッとした声を出す。

『オーパ? お願いがあるの』

 エミリアは孫らしい可愛い声を出し微笑んだ。

『私の秘書のマティアス・シュナイダーいるでしょう? 彼が私を裏切ったの。彼の父親ってパパの会社で働いてるじゃない? 何かしらのペナルティを与えておいて? もういっその事、クビでもいいんじゃないかしら?』

 孫の可愛いおねだりに、フランクは苦笑する。

《おいおい、随分と過激なお願いだな? 一応シュナイダーの先代は私に尽くしてくれた秘書だぞ?》

『昔は昔、今は今よ? 可愛い孫のお願いを聞いてくれないの?』

 つんと顎をそびやかして我が儘を言うエミリアに、電話の向こうのフランクはまんざらでもない声で言う。

《聞いてあげないでもないが、お前こそ結婚の話はどうしたんだ? 条件のいい相手だと思うがな? 勤勉でルックスも悪くない。多少つまらない男かもしれないが、家柄もいいし私は最高の相手だと思うぞ?》

 いま一番されたくない話題を出され、エミリアはぞんざいに息をつく。
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