420 / 1,544
第八部・イギリス捜索 編
夢 ★
しおりを挟む
『いま、どうしてる?』
マティアスは平静を装ったまま、三人に向かって静かにするよう唇に指を当てた。
《場所を変えて休んでいるわ。日本はいま早朝じゃないの?》
『怒り狂ったカイに殴り殺されそうだから、ドイツに逃げ帰ってきた』
《そう。お気の毒》
自分が命じた事だろうに、エミリアは電話の向こうで楽しげに笑うだけだ。
殴られたマティアスへの罪悪感など、持ち合わせていないらしい。
『フラウ・カスミは連れ出したのか?』
《それはあなたにも秘密よ。私の目的は私だけが知っていればいいの。すべて終わったら連絡をするから、それまでドイツで大人しく待っていなさい》
『あんたに何かあれば、秘書の俺が困る』
なおも食い下がるマティアスに、エミリアは少し考えるそぶりを見せる。
《じゃあ、一週間後にロンドンにいらっしゃい》
『今はロンドンじゃないのか?』
《イギリスにはいるけど、ロンドンではないわね。そこは教えてあげない。いい? 一週間後よ。その時またこちらからコンタクトを取るわ。連絡手段はすべてオフにしておくから、連絡をしても無駄よ》
そこで電話が切れた。
息を殺していた三人は、はぁー……と溜め息をつく。
それから佑が困惑した声を出した。
『ロンドンじゃないのか? じゃあ、どこにいる?』
『ロンドン近郊じゃないかな。バーミンガム、シェフィールド、マンチェスター。リバプールまで行けば、アイルランドに行く船も出てる』
『地方には雰囲気のある綺麗なホテルもあるしな。……くそっ』
自分の膝を拳で打った佑に、アロイスが解決案を出す。
『タスク、もうなりふり構ってられないよ。オーパに連絡して、知り合いのホテルの支配人全員に確認してもらおう。俺たちもそれなりに顔が広いけど、オーパの顔の広さは比にならない』
言われてその通りだと思うものの、こうなった元凶にさらに頼るのかと佑は唇を噛む。
『意地張ってる場合じゃないだろ。オーパに文句を言いたいなら、まずカスミを取り戻してからだ』
だがクラウスにもっともな事を言われ、すぐに決めた。
『分かった』
『気まずいだろうから、俺が連絡するよ。いつもなら一個貸しだけど、今回ばかりは贖罪だ』
アロイスはまた電話をかけ、佑は何度目になるか分からない溜め息をついた。
**
食事が終わって着替えた香澄は、意識がぼんやりとしてきたのに気づき、疲れを自覚した。
『すみません、エミリアさん。私、もう休ませてもらっていいですか?』
『ええ、時差や移動の疲れもあると思うし、ゆっくり休んで』
歯磨きや洗顔などを終えてから、香澄は自分用のベッドにばったりと倒れ込んだ。
ベッドカバーを外して中に潜り込むのももどかしく、あっという間に眠気が襲ってくる。
気がつくと、深く深く眠っていた。
ゆら、ゆら、と体が揺れて、香澄は自分が夢を見ているのだと感じた。
何せ体は動かないし、舌も動かせず何も言えない。
それでもうっすらと目を開けると、エミリアの美しい裸体が上下していた。
視線だけ横にやると、自分の隣に全裸の男性が仰向けになっている。
体つきや声の感じからして、エミリアの護衛かもしれない。
――いや、それだけではない。
彼に跨がって腰を振っているエミリアを、他の護衛が取り囲み、まるで女王に傅くように愛撫しては彼女の寵愛を乞うていた。
『ああ、レディ・エミリア。あなたは誰よりも美しい』
護衛なので必要最低限しか話しておらず、彼らの声を初めて聞いた気がする。
汗だくになった彼らは、高級なベッドをギシギシと軋ませてエミリアをただ悦ばせる。
エミリアの艶めかしい肢体に汗が伝い、形のいい乳房が跳ねる。
グチュグチュという水音を、香澄はぼんやりと聞いていた。
(エッチな夢、見ちゃってる……。それに、エミリアさんの夢だなんて……)
そう思うものの、恩人の嬌態を夢に見てしまって申し訳ないと思う思考能力はなかった。
何せ、これは夢だ。
体を上下させながら、エミリアは憎々しげに声を張り上げた。
『カイは私よりこの子がいいんですって。アロもクラも、みぃんなこの子がいいと言ったわ』
奔放に腰を振るエミリアは、今まで見せなかった烈しさで香澄を睨み、手に持った何かを浴びせかけた。
マティアスは平静を装ったまま、三人に向かって静かにするよう唇に指を当てた。
《場所を変えて休んでいるわ。日本はいま早朝じゃないの?》
『怒り狂ったカイに殴り殺されそうだから、ドイツに逃げ帰ってきた』
《そう。お気の毒》
自分が命じた事だろうに、エミリアは電話の向こうで楽しげに笑うだけだ。
殴られたマティアスへの罪悪感など、持ち合わせていないらしい。
『フラウ・カスミは連れ出したのか?』
《それはあなたにも秘密よ。私の目的は私だけが知っていればいいの。すべて終わったら連絡をするから、それまでドイツで大人しく待っていなさい》
『あんたに何かあれば、秘書の俺が困る』
なおも食い下がるマティアスに、エミリアは少し考えるそぶりを見せる。
《じゃあ、一週間後にロンドンにいらっしゃい》
『今はロンドンじゃないのか?』
《イギリスにはいるけど、ロンドンではないわね。そこは教えてあげない。いい? 一週間後よ。その時またこちらからコンタクトを取るわ。連絡手段はすべてオフにしておくから、連絡をしても無駄よ》
そこで電話が切れた。
息を殺していた三人は、はぁー……と溜め息をつく。
それから佑が困惑した声を出した。
『ロンドンじゃないのか? じゃあ、どこにいる?』
『ロンドン近郊じゃないかな。バーミンガム、シェフィールド、マンチェスター。リバプールまで行けば、アイルランドに行く船も出てる』
『地方には雰囲気のある綺麗なホテルもあるしな。……くそっ』
自分の膝を拳で打った佑に、アロイスが解決案を出す。
『タスク、もうなりふり構ってられないよ。オーパに連絡して、知り合いのホテルの支配人全員に確認してもらおう。俺たちもそれなりに顔が広いけど、オーパの顔の広さは比にならない』
言われてその通りだと思うものの、こうなった元凶にさらに頼るのかと佑は唇を噛む。
『意地張ってる場合じゃないだろ。オーパに文句を言いたいなら、まずカスミを取り戻してからだ』
だがクラウスにもっともな事を言われ、すぐに決めた。
『分かった』
『気まずいだろうから、俺が連絡するよ。いつもなら一個貸しだけど、今回ばかりは贖罪だ』
アロイスはまた電話をかけ、佑は何度目になるか分からない溜め息をついた。
**
食事が終わって着替えた香澄は、意識がぼんやりとしてきたのに気づき、疲れを自覚した。
『すみません、エミリアさん。私、もう休ませてもらっていいですか?』
『ええ、時差や移動の疲れもあると思うし、ゆっくり休んで』
歯磨きや洗顔などを終えてから、香澄は自分用のベッドにばったりと倒れ込んだ。
ベッドカバーを外して中に潜り込むのももどかしく、あっという間に眠気が襲ってくる。
気がつくと、深く深く眠っていた。
ゆら、ゆら、と体が揺れて、香澄は自分が夢を見ているのだと感じた。
何せ体は動かないし、舌も動かせず何も言えない。
それでもうっすらと目を開けると、エミリアの美しい裸体が上下していた。
視線だけ横にやると、自分の隣に全裸の男性が仰向けになっている。
体つきや声の感じからして、エミリアの護衛かもしれない。
――いや、それだけではない。
彼に跨がって腰を振っているエミリアを、他の護衛が取り囲み、まるで女王に傅くように愛撫しては彼女の寵愛を乞うていた。
『ああ、レディ・エミリア。あなたは誰よりも美しい』
護衛なので必要最低限しか話しておらず、彼らの声を初めて聞いた気がする。
汗だくになった彼らは、高級なベッドをギシギシと軋ませてエミリアをただ悦ばせる。
エミリアの艶めかしい肢体に汗が伝い、形のいい乳房が跳ねる。
グチュグチュという水音を、香澄はぼんやりと聞いていた。
(エッチな夢、見ちゃってる……。それに、エミリアさんの夢だなんて……)
そう思うものの、恩人の嬌態を夢に見てしまって申し訳ないと思う思考能力はなかった。
何せ、これは夢だ。
体を上下させながら、エミリアは憎々しげに声を張り上げた。
『カイは私よりこの子がいいんですって。アロもクラも、みぃんなこの子がいいと言ったわ』
奔放に腰を振るエミリアは、今まで見せなかった烈しさで香澄を睨み、手に持った何かを浴びせかけた。
32
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる