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第八部・イギリス捜索 編

夢 ★

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『いま、どうしてる?』

 マティアスは平静を装ったまま、三人に向かって静かにするよう唇に指を当てた。

《場所を変えて休んでいるわ。日本はいま早朝じゃないの?》
『怒り狂ったカイに殴り殺されそうだから、ドイツに逃げ帰ってきた』

《そう。お気の毒》

 自分が命じた事だろうに、エミリアは電話の向こうで楽しげに笑うだけだ。
 殴られたマティアスへの罪悪感など、持ち合わせていないらしい。

『フラウ・カスミは連れ出したのか?』

《それはあなたにも秘密よ。私の目的は私だけが知っていればいいの。すべて終わったら連絡をするから、それまでドイツで大人しく待っていなさい》

『あんたに何かあれば、秘書の俺が困る』

 なおも食い下がるマティアスに、エミリアは少し考えるそぶりを見せる。

《じゃあ、一週間後にロンドンにいらっしゃい》
『今はロンドンじゃないのか?』

《イギリスにはいるけど、ロンドンではないわね。そこは教えてあげない。いい? 一週間後よ。その時またこちらからコンタクトを取るわ。連絡手段はすべてオフにしておくから、連絡をしても無駄よ》

 そこで電話が切れた。

 息を殺していた三人は、はぁー……と溜め息をつく。
 それから佑が困惑した声を出した。

『ロンドンじゃないのか? じゃあ、どこにいる?』

『ロンドン近郊じゃないかな。バーミンガム、シェフィールド、マンチェスター。リバプールまで行けば、アイルランドに行く船も出てる』

『地方には雰囲気のある綺麗なホテルもあるしな。……くそっ』

 自分の膝を拳で打った佑に、アロイスが解決案を出す。

『タスク、もうなりふり構ってられないよ。オーパに連絡して、知り合いのホテルの支配人全員に確認してもらおう。俺たちもそれなりに顔が広いけど、オーパの顔の広さは比にならない』

 言われてその通りだと思うものの、こうなった元凶にさらに頼るのかと佑は唇を噛む。

『意地張ってる場合じゃないだろ。オーパに文句を言いたいなら、まずカスミを取り戻してからだ』

 だがクラウスにもっともな事を言われ、すぐに決めた。

『分かった』
『気まずいだろうから、俺が連絡するよ。いつもなら一個貸しだけど、今回ばかりは贖罪だ』

 アロイスはまた電話をかけ、佑は何度目になるか分からない溜め息をついた。



**



 食事が終わって着替えた香澄は、意識がぼんやりとしてきたのに気づき、疲れを自覚した。

『すみません、エミリアさん。私、もう休ませてもらっていいですか?』
『ええ、時差や移動の疲れもあると思うし、ゆっくり休んで』

 歯磨きや洗顔などを終えてから、香澄は自分用のベッドにばったりと倒れ込んだ。

 ベッドカバーを外して中に潜り込むのももどかしく、あっという間に眠気が襲ってくる。

 気がつくと、深く深く眠っていた。





 ゆら、ゆら、と体が揺れて、香澄は自分が夢を見ているのだと感じた。

 何せ体は動かないし、舌も動かせず何も言えない。

 それでもうっすらと目を開けると、エミリアの美しい裸体が上下していた。

 視線だけ横にやると、自分の隣に全裸の男性が仰向けになっている。
 体つきや声の感じからして、エミリアの護衛かもしれない。

 ――いや、それだけではない。

 彼に跨がって腰を振っているエミリアを、他の護衛が取り囲み、まるで女王に傅くように愛撫しては彼女の寵愛を乞うていた。

『ああ、レディ・エミリア。あなたは誰よりも美しい』

 護衛なので必要最低限しか話しておらず、彼らの声を初めて聞いた気がする。
 汗だくになった彼らは、高級なベッドをギシギシと軋ませてエミリアをただ悦ばせる。
 エミリアの艶めかしい肢体に汗が伝い、形のいい乳房が跳ねる。

 グチュグチュという水音を、香澄はぼんやりと聞いていた。

(エッチな夢、見ちゃってる……。それに、エミリアさんの夢だなんて……)

 そう思うものの、恩人の嬌態を夢に見てしまって申し訳ないと思う思考能力はなかった。

 何せ、これは夢だ。

 体を上下させながら、エミリアは憎々しげに声を張り上げた。

『カイは私よりこの子がいいんですって。アロもクラも、みぃんなこの子がいいと言ったわ』

 奔放に腰を振るエミリアは、今まで見せなかった烈しさで香澄を睨み、手に持った何かを浴びせかけた。
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