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第八部・イギリス捜索 編

疑いもなく飲み下す、薬

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『アロクラのお父様やその兄弟は、フラウ・セツコの遺伝子を継いで目や髪にダークカラーを持つ人がが多いわ。でもアロクラはお母様の遺伝子が強くて金髪碧眼になったのよね。彼らに初めて会う人は、アジアの血が入っているってあまり分からないと思うわ』

『確かに、お二人は日本の血が入っているように見えませんよね。初めてお会いした時、佑さんの従兄さんって聞いて……』

 ふ……、とブルーメンブラットヴィルに行ってクラウザー家の人たちに挨拶をした事を思い出し、香澄の言葉が途切れた。
 それを察し、エミリアは苦笑した。

『ごめんなさい。無神経な事を言ったわ』
『いいえ。気にしないでください』

『さ、できたわ。レストランに向かいましょう』
『はい』

 エミリアに促され、香澄は彼女と一緒にホテル内のレストランに向かった。



 レストランで出たコース料理はどれも美味しく、少し食欲を取り戻した香澄は、ご馳走してくれるエミリアの手前もあり、努めて味わって食べた。



 そして香澄は、今回の薬も疑わずに飲んだ。

 鎮痛剤以外の薬の名前など、香澄は知らない。

 完全に自分の味方だと思っているエミリアが用意してくれたのだから、その薬を疑う気持ちなど、欠片もなかった。



**



 佑のプライベートジェットがヒースロー空港に降り立ったのは、どれだけ最短ルートを飛ばさせても現地で十九時近くになってからだ。

 アドラーが手配してくれ、空港にはすでにクラウザー社の車がつけられていた。
 すぐに佑、双子、マティアスは車に乗り込み、ロンドンに向かう。

 佑は日本から護衛も連れて来ていた。

『ロンドンにいると思うか? まっすぐ別荘に行ったかな?』
『どうだろう……。確率は半々だな』

 十二時間近くのフライトでもろくに眠れなかった佑は、酷い人相をしていた。

『アロ、車をもう少し貸してもらうよう、アドラーさんに言ってくれないか? 最低限の台数で、肝心な時に動けなかったら話にならない。どんな事にもすぐ対応できる運転手つきがいい。人数を分け、ロンドンと別荘を当たろう』

 マティアスの提案にアロイスが『よし』と頷き、すぐに電話を掛ける。

『……本当にイギリスで合ってたのか?』

 独り言を言う佑の肩を、クラウスがポンと叩く。

『勘を信じるしかないだろ。防犯カメラの映像や、航空会社やホテルの個人情報守秘義務については、僕らでも立ち入れない。特に相手が上客ならなおさらだ。人海戦術でカスミを見た事がある奴がいないか捜索しても、空港で日本人の女の子を一人捜すなんて無理な話だ。全部、自分を頼るしかないんだよ』

 窓からだだっ広いイギリスの空を見上げ、佑は息をついた。

『ロンドンのホテルと言ってもピンキリだな。エミリアが泊まりそうな高級ホテルでも十件以上はある。マティアス、心当たりはないか?』

 佑に尋ねられ、マティアスはすぐホテルの名前を出す。

『リッチ・カーティスやザ・ゴールトンとか、有名な五つ星ホテルの会員ではある。だがああいう場所は、俺たちが潜り込んでフラウ・カスミを探すには守備が固いぞ』

 その言葉に、アドラーとの電話を終わらせたアロイスが答える。

『分散して泊まって見張るにも、人数に限りがあるね』

 言われて、佑は同行者を数える。

 自分たち四人の他には、日本から連れて来た小山内、呉代、久住、佐野。それに小金井と瀬尾だ。
 双子の女性秘書に、護衛が四人。

 総勢十五人で、個人として見ればそれなりの人数だが、イギリスという国からたった一人を探すには少なすぎる。

『さっきオーパに連絡をした時、動かせる人員があったらこっちに協力してもらうよう言っといたよ』
『助かる』

 アロイスに礼を言い、佑はマティアスに尋ねる。

『マティアス、エミリアに連絡は取れないのか? 俺たちと結託していると気取られず、まだ計画が進行している体で居場所を突き止められないか?』

 そう言ったが、マティアスは微妙な顔だ。

『……ダメだろうと思うが、一応連絡してみる』

 彼がスマホを出して電話を掛けたので、全員静かにする。
 マティアスはスマホを耳に宛がい、エミリアが出るまで待った。

《どうしたの? マティアス》

 音量を大きくしたスピーカー越しに、エミリアの声が聞こえた。
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