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第八部・イギリス捜索 編

ドラゴンエナジー

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『サンキュー。ドラエナ?』

 世界中で販売されている有名なエナジードリンク、ドラゴンエナジーかと問いながら、アロイスがビニール袋の中に手を入れる。

『ん?』

 だが出てきたのは想像していたロング缶ではなく、小瓶タイプのドリンクだ。

『なにこ……ぶふぅっ!!』

 しげしげと見てみたその瓶には、デカデカと〝泣く子も黙るマカ大王〟、〝絶倫大魔王赤マムシ〟など書いてあったのだ。

『ぶくくくっ!! っひ、あはははははは!!』

 双子は堪らず笑いだし、佑も不覚ながら少し口元を笑わせ肩を震わせた。
 こんな時に笑ってはいけないと思ってたものの、予想外の単語が飛び込んできて、笑わざるを得ない。

『間違えたか? 一番強いエナジードリンクをと尋ねたんだが』

 そのあと、マティアスは日本語で「ギンギン!」と言ったものだから、全員で笑い崩れた。

 しかし日本語が読めないマティアスは、テーブルの上に並んだ精力剤を見て、何がおかしいのか分からない顔をしている。

(こういう奴だった)

 しばらく忘れていたマティアスという男の本質を思い出し、佑は不本意にも和む。

 良くも悪くもマイペースな彼は、気にくわないから嫌がらせをしてやろうとか、誰かを貶めたり悪口を言うような人物ではない。

 何か思うところがあればストレートに口にする。
 それがストレートすぎて物議を醸し出す事はあるが、マティアスが腹に一物持っていて、「あいつは信用ならない」と警戒されている場面を、今まで想像する事はできなかった。

 だからこそ、すっかり騙されたとも言えるのだが……。

 彼がエミリアを密かに憎み続けていたのなら、それなりの理由があるのだろう。

 香澄がそれに巻き込まれた事については、許すつもりはない。
 マティアスだってエミリアに命令されたとはいえ、香澄に危害を与える事に気乗りではなかっただろう。

 しかし彼が「こうするしかない」と思った策をとり、〝今〟がある。

 絶対に許さない。

 ――けれど、彼が置かれた状況や、そうせざるを得ない理由はちゃんと理解しなければと思った。

 むかし十代の頃に、マティアスはエミリアに命令され、彼女を肩車して三十分近く歩いた。
 そのあと彼は肩や首に湿布を貼り、動けなくなってしまった。

 子供時代からマティアスは、誰かに何かをお願いされれば、まず断らず素直に言う事を聞く性格だった。

 そんな彼が、自分から進んで誰かに危害を加える訳がない。

 図らずもエナジードリンクの件で、彼が本当はどんな人物だったかを思い出した。

 憎むべくはマティアスではなく、命令したエミリアだ。
 解決するべきなのは、彼が心の奥底にしまう〝理由〟の方だ。

(問題をはき違えてはいけない。感情に呑まれるな。冷静になれ)

 今までどす黒い怒りに支配され続けていた佑は、笑いという思いも寄らない感情を経て、ようやくいつもの自分に戻れた気がした。

 ずっと笑い続けていたクラウスが、涙を拭ってマティアスに話しかける。

『精力剤は飲まないけど、気持ちはあんがと。でさ、行き先はイギリスに落ち着いたんだけど』
『精力剤』

 マティアスはまず自分が買ってきた物の正体を知り、固まった。
 それから一つ頷き、自分もソファに座る。

『荷物はエミの取り巻きに任せるとして、最速でチケットを取ろうか』

 アロイスがスマホを取り出し、操作しだす。
 だがその手を押さえ、佑が言った。

『チケットは必要ない。準備をさせ、すぐ俺のジェットで飛ぶ』

 両手を太腿について立ち上がり、佑はスマホを取り出すと、プライベートジェットの運行支援会社に連絡を取った。





 プライベートジェットの準備を進めさせ、四人はホテルを引き払ってすぐ白金台の家へ向かった。

 広げてある双子の荷物をすぐ纏めるのは無理なので、必要な物だけをコンパクトに纏めてもらった。
 勿論、佑も必要な物があれば都度向こうでそろえるつもりで、必要最低限の荷物をバッグに詰める。

 支度をしている途中、佑は書斎に入りデスクの上に置いてある封筒を見つけた。

「…………っ、香澄……?」

 短い距離を急いで移動し、彼は封筒を手にする。
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