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第八部・イギリス捜索 編
空の上、彼女の心
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確かにそれは〝事実〟だ。
(エミリアが危険な人物なら、香澄に何もしないはずがない)
双子を好きになった女性が悉く不幸になったというなら、香澄だって相当危ない。
現時点でもマティアスに犯されそうになっている。
彼がアドラー側に寝返っていなければ、本当に強姦されていただろう。
エミリアは恐らく、マティアスが香澄をレイプしたと信じている。
その上でホテルから連れ去り、彼女を甘やかして癒やす……などあり得ない。
人のいい女性のふりをして香澄の懐に入り込み、もっとひどい事をしてやろうと考えている可能性がとても高い。
(今は自分の個人的な感情、怒りを脇に置く必要がある。香澄を助けるためにオーパたちの策に乗る必要があるのなら、それを利用してやるぐらいに考えなければ)
アドラーたちに文句を言うのなら、後で幾らでもできる。
今はマティアスの言う通り、香澄の安全を確保するのが一番だ。
『分かった。香澄を取り戻すまで協力する』
頷くと、マティアスも頷き返した。
『俺はひとまず銀行に行かなければいけない。至急、用を済ませてくるから、そのあとフラウ・カスミの行き先を考えよう。俺が出かけている間も、エミの行き先を考えておいてほしい。俺は何も聞かされていないから、恐らく役には立てない気がする』
そう言ってマティアスは、必要な物を持って部屋から出て行った。
室内には佑と双子が残され、テーブルの上には冷えたコーヒーと中途半端に残された軽食がのっている。
やがてクラウスが溜め息混じりに言った。
「……僕らも後でちゃんと怒られるよ。こうなる事を分かっておきながら、黙っていたのはさすがに反省してる。カスミが傷付いてもどうなっても構わないなんて思っていない。本当にあの子を可愛がっていたつもりだし、幸せになってほしいと思っている。……けど今は何を言っても言い訳にしかならない」
アロイスも続ける。
「俺たちはこれでエミを破滅させ、復讐したい。あの女の呪縛が完全に解けたあとは、本当に何をしてでも贖罪する。マティアスは今、エミを破滅させるための爆弾を仕掛けに行った。いずれエミは自滅する。その前にあいつの自棄にカスミが巻き込まれる前に、取り戻す」
「僕らはエミの怒りがカスミに向かうと分かっていて、あいつがカスミを巻き込んで決定的な犯罪行為を起こすチャンスを待っていた。その他にもマティアスは秘書として爆弾を撒く。僕らはエミが犯罪行為を起こす、ギリギリのタイミングでカスミを救い出す」
何をどう聞いても、香澄が巻き込まれるのは大前提だった。
言い返したい気持ちをグッと押し込み、今は一刻も早く彼女を取り戻し、安全を確認するのが先決だと己に言い聞かせる。
「……分かった」
心の奥底でマグマのように沸き立つ怒りを努めて凍てつかせ、佑はなるべく頭をクリアにし、冷静に物事を判断できるよう己を落ち着かせていった、
**
香澄は機内で映画を見てから目を閉じ、ウトウトとしていた。
夕食の時間になると陶器の皿でコース料理が提供され、食欲がないものの「勿体ない」の意識で食事を胃に押し込んだ。
そして、早めにシートを倒して寝る準備をしてもらい、パジャマに着替えて目を閉じる。
幸いにもファーストクラスだったので、フルフラットで眠れるのがとてもありがたかった。
今まで自分で旅行する際にはエコノミークラスばかりだったし、乗る予定もなかったのでビジネスクラス、ファーストクラスの値段を知らない。
最近は佑のプライベートジェットに乗ってばかりなので、余計にだ。
(高いんだろうけど、あとで貯金を切り崩してでも支払わないと)
寝ようとしているのだが、頭がまだ興奮していてなかなか寝付けない。
頭痛も続いていて、夕食後にエミリアからまた頭痛薬をもらった。
どうやらホテルで全裸のまま過ごしていたせいか、風邪気味になっていたようだ。
少し咳き込む事もあるし、くしゃみや鼻水も出る。
エミリアも気にしてくれて、イギリスに着いたら医者を手配すると言ってくれた。
ヨーロッパに渡航する際、ロシア上空はとても時間がかかる。
映画を見終わった時にマップを確認すると、飛行機はまだロシア上空に入ったばかりだった。
(ブルーメンブラットヴィルに向かった時も同じ事を考えたよなぁ……)
そう考え、自ら別れを切り出したくせに、未練がましく佑との思い出に縋ろうとする自分に呆れる。
(私はもうクラウザー家の皆さんと会う資格はない。婚前にレイプされた女なんて、誰も望まないに決まってる)
飛行機に乗っていろいろ考えるようになってから、自分がピルを飲んでいた事を思い出した。
だからと言って他の男とセックスしていい訳がない。
(エミリアが危険な人物なら、香澄に何もしないはずがない)
双子を好きになった女性が悉く不幸になったというなら、香澄だって相当危ない。
現時点でもマティアスに犯されそうになっている。
彼がアドラー側に寝返っていなければ、本当に強姦されていただろう。
エミリアは恐らく、マティアスが香澄をレイプしたと信じている。
その上でホテルから連れ去り、彼女を甘やかして癒やす……などあり得ない。
人のいい女性のふりをして香澄の懐に入り込み、もっとひどい事をしてやろうと考えている可能性がとても高い。
(今は自分の個人的な感情、怒りを脇に置く必要がある。香澄を助けるためにオーパたちの策に乗る必要があるのなら、それを利用してやるぐらいに考えなければ)
アドラーたちに文句を言うのなら、後で幾らでもできる。
今はマティアスの言う通り、香澄の安全を確保するのが一番だ。
『分かった。香澄を取り戻すまで協力する』
頷くと、マティアスも頷き返した。
『俺はひとまず銀行に行かなければいけない。至急、用を済ませてくるから、そのあとフラウ・カスミの行き先を考えよう。俺が出かけている間も、エミの行き先を考えておいてほしい。俺は何も聞かされていないから、恐らく役には立てない気がする』
そう言ってマティアスは、必要な物を持って部屋から出て行った。
室内には佑と双子が残され、テーブルの上には冷えたコーヒーと中途半端に残された軽食がのっている。
やがてクラウスが溜め息混じりに言った。
「……僕らも後でちゃんと怒られるよ。こうなる事を分かっておきながら、黙っていたのはさすがに反省してる。カスミが傷付いてもどうなっても構わないなんて思っていない。本当にあの子を可愛がっていたつもりだし、幸せになってほしいと思っている。……けど今は何を言っても言い訳にしかならない」
アロイスも続ける。
「俺たちはこれでエミを破滅させ、復讐したい。あの女の呪縛が完全に解けたあとは、本当に何をしてでも贖罪する。マティアスは今、エミを破滅させるための爆弾を仕掛けに行った。いずれエミは自滅する。その前にあいつの自棄にカスミが巻き込まれる前に、取り戻す」
「僕らはエミの怒りがカスミに向かうと分かっていて、あいつがカスミを巻き込んで決定的な犯罪行為を起こすチャンスを待っていた。その他にもマティアスは秘書として爆弾を撒く。僕らはエミが犯罪行為を起こす、ギリギリのタイミングでカスミを救い出す」
何をどう聞いても、香澄が巻き込まれるのは大前提だった。
言い返したい気持ちをグッと押し込み、今は一刻も早く彼女を取り戻し、安全を確認するのが先決だと己に言い聞かせる。
「……分かった」
心の奥底でマグマのように沸き立つ怒りを努めて凍てつかせ、佑はなるべく頭をクリアにし、冷静に物事を判断できるよう己を落ち着かせていった、
**
香澄は機内で映画を見てから目を閉じ、ウトウトとしていた。
夕食の時間になると陶器の皿でコース料理が提供され、食欲がないものの「勿体ない」の意識で食事を胃に押し込んだ。
そして、早めにシートを倒して寝る準備をしてもらい、パジャマに着替えて目を閉じる。
幸いにもファーストクラスだったので、フルフラットで眠れるのがとてもありがたかった。
今まで自分で旅行する際にはエコノミークラスばかりだったし、乗る予定もなかったのでビジネスクラス、ファーストクラスの値段を知らない。
最近は佑のプライベートジェットに乗ってばかりなので、余計にだ。
(高いんだろうけど、あとで貯金を切り崩してでも支払わないと)
寝ようとしているのだが、頭がまだ興奮していてなかなか寝付けない。
頭痛も続いていて、夕食後にエミリアからまた頭痛薬をもらった。
どうやらホテルで全裸のまま過ごしていたせいか、風邪気味になっていたようだ。
少し咳き込む事もあるし、くしゃみや鼻水も出る。
エミリアも気にしてくれて、イギリスに着いたら医者を手配すると言ってくれた。
ヨーロッパに渡航する際、ロシア上空はとても時間がかかる。
映画を見終わった時にマップを確認すると、飛行機はまだロシア上空に入ったばかりだった。
(ブルーメンブラットヴィルに向かった時も同じ事を考えたよなぁ……)
そう考え、自ら別れを切り出したくせに、未練がましく佑との思い出に縋ろうとする自分に呆れる。
(私はもうクラウザー家の皆さんと会う資格はない。婚前にレイプされた女なんて、誰も望まないに決まってる)
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