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第八部・イギリス捜索 編
幼馴染みの正体
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『タスクさ、オーパにカスミの迷惑メールの調査頼んだじゃん。あれ、実はもうとっくに割れてるんだよね』
『は!?』
再び座り直した佑は、混乱した顔でアロイスを見る。
『やっぱり東南アジアにいる何でも引き受ける団体でさ。そこから安い端末で指定された言葉をカスミに送ってたワケ。奴らのトコにオーパが人をやって、ちょっと威嚇したら、すぐゲロったんだ。クライアントもフリーメールを使ってニセの名前で接触してきたけど、そのニセの名前がドイツ名だったんだってさ。普段なら金が入るなら他はどうでもいいらしいけど、かなりの退勤が振り込まれたみたいなんだ。大金案件の場合、バックにヤバイ奴がいる場合が多いから、団体もいつでも逃げられるようにしてたみたい』
アロイスの言葉の続きを、クラウスが受け継ぐ。
『で、オーパはそのドイツ名のクライアントを調べた。ニセの名前って言っても、口座を作るには本人と本人のサインが必要だ。勿論、身分証明書もね。そしたら同姓同名の人物に行き当たったけど、そいつは何も関係のない人だった。そいつは名前を盗まれて、偽の身分証明書を使われて誰かに口座を作られたみたいだ。……という所まで分かった』
そしてまた、アロイスが続ける。
『オーパは金融関係の友人に話をつけ、口座の持ち主を調べた。まぁ、ドイツ男だよね。で、特定したそいつの個人情報をごっそり調べて、周りの人間も調べに調べた。そしたら全員ある共通点があったんだ』
ぴ、と人差し指を立て、アロイスが皮肉げに笑った。
『全員、エミの祖父のフランク・メイヤーが会長をやっている、ヨーロッパで有名な保険会社メイヤーズに入っていた。オーパもここんとこ悩みがあってね。メイヤーズで高額の保険金をかけてるから、大事な車で簡単に事故る奴がいるって話だ。オーパとフランク爺さんは既知の仲だけど、いがみ合ってる関係だ。表向きドイツの顔として社交界では当たり障りなくやってるけど、見えない所ではバチバチっぽい雰囲気を感じるね』
フランク・メイヤー、そしてメイヤーズという単語が出て、佑は頷いた。
『それは俺も感じている。エミリアの両親とクラウザーの人間はそれほどギスギスしていないが、祖父たちが関わってくると急にピリッとする。俺がドイツにいた時も、皆で過ごしていた時にフランク爺さんが来ると、嫌な雰囲気になったのを覚えている』
佑は十代の記憶にある、エミリアの祖父を思い出していた。
日本で長期休暇の時、ドイツに向かってクラウザー家所有の牧場に行き、双子やエミリアと乗馬をする事もあった。
学生時代、兄弟でドイツに行くと祖父母の方針で、乗馬やスキーのレッスンをつけられ、ヨーロッパ各地へオペラやバレエ鑑賞にも連れて行かれた。
その時にエミリアやマティアスも同行していたのだ。
劇場へ行った帰りにエミリアをメイヤー家に送ると、必ず怖い顔をしたフランクに睨まれた。
当時から「良く思われていないな」と思っていたが、そこまで根深いものだとは思わなかった。
ドイツで暮らしていた双子はもっとその空気を感じていたかもしれない。
だが日本に住んでいる佑は、何となくの雰囲気しか察する事しかできなかった。
クラウスはサンドウィッチに手を伸ばし、冷笑する。
『今回は直接フランク爺さんがどうこうって話じゃないけどね。メイヤー家に繋がる人物で、カスミに嫌がらせのメールを送りそうな存在って言ったら……、一人しかいないでしょ』
エミリアの顔を思い浮かべ、佑は深い溜め息をつく。
『俺には……そんな風に映らなかった。……本当に気付かなかった』
『御劔家で最初に結婚したリツは、意外とそうじゃないかもよ?』
『え?』
兄の名前が出て、佑はハッと顔を上げた。
『僕らは直接リツに何も聞いてないけどね。ただ、ここ数年リツとヒナに会ってエミの話をしたら、二人はぎこちない表情で受け答えをしてた。〝あ、こりゃ何かあったな〟ってピーンときたよ』
『律からは何も聞いてない』
兄夫婦のところは、二人とも穏やかな性格をしているのもあって、不穏な空気とは無縁なものと思い込んでいた。
今まで頻繁に会っていても、兄や陽菜にエミリアについての相談事をされた事もなかった。
『心配させたくなかったんだろ。タスクやショウは、リツよりもエミと年齢が近いし、もっと仲が良かった。せっかく仲良くしていた女の子に、実は嫌がらせをされているかもしれない……なんて、フツー聞きたくないでしょ』
佑は何も言えなくなり、唇を引き結ぶ。
『まぁ、タスクは日本に住んでるから、エミの毒って言われてもピンとこないだろうね』
『……毒?』
佑はいまだに信じられない思いで聞き返す。
マティアスからエミリアが黒幕だと聞き、双子もここまで話を合わせるのなら、彼女が香澄に加害した犯人で間違いないのだろう。
だが佑が知っているエミリアは、いつも優雅で上品な上流階級の女性だ。
それが双子に〝魔女〟と呼ばれ、接点のない香澄を憎んでいると言われても理解が追いつかない。
『は!?』
再び座り直した佑は、混乱した顔でアロイスを見る。
『やっぱり東南アジアにいる何でも引き受ける団体でさ。そこから安い端末で指定された言葉をカスミに送ってたワケ。奴らのトコにオーパが人をやって、ちょっと威嚇したら、すぐゲロったんだ。クライアントもフリーメールを使ってニセの名前で接触してきたけど、そのニセの名前がドイツ名だったんだってさ。普段なら金が入るなら他はどうでもいいらしいけど、かなりの退勤が振り込まれたみたいなんだ。大金案件の場合、バックにヤバイ奴がいる場合が多いから、団体もいつでも逃げられるようにしてたみたい』
アロイスの言葉の続きを、クラウスが受け継ぐ。
『で、オーパはそのドイツ名のクライアントを調べた。ニセの名前って言っても、口座を作るには本人と本人のサインが必要だ。勿論、身分証明書もね。そしたら同姓同名の人物に行き当たったけど、そいつは何も関係のない人だった。そいつは名前を盗まれて、偽の身分証明書を使われて誰かに口座を作られたみたいだ。……という所まで分かった』
そしてまた、アロイスが続ける。
『オーパは金融関係の友人に話をつけ、口座の持ち主を調べた。まぁ、ドイツ男だよね。で、特定したそいつの個人情報をごっそり調べて、周りの人間も調べに調べた。そしたら全員ある共通点があったんだ』
ぴ、と人差し指を立て、アロイスが皮肉げに笑った。
『全員、エミの祖父のフランク・メイヤーが会長をやっている、ヨーロッパで有名な保険会社メイヤーズに入っていた。オーパもここんとこ悩みがあってね。メイヤーズで高額の保険金をかけてるから、大事な車で簡単に事故る奴がいるって話だ。オーパとフランク爺さんは既知の仲だけど、いがみ合ってる関係だ。表向きドイツの顔として社交界では当たり障りなくやってるけど、見えない所ではバチバチっぽい雰囲気を感じるね』
フランク・メイヤー、そしてメイヤーズという単語が出て、佑は頷いた。
『それは俺も感じている。エミリアの両親とクラウザーの人間はそれほどギスギスしていないが、祖父たちが関わってくると急にピリッとする。俺がドイツにいた時も、皆で過ごしていた時にフランク爺さんが来ると、嫌な雰囲気になったのを覚えている』
佑は十代の記憶にある、エミリアの祖父を思い出していた。
日本で長期休暇の時、ドイツに向かってクラウザー家所有の牧場に行き、双子やエミリアと乗馬をする事もあった。
学生時代、兄弟でドイツに行くと祖父母の方針で、乗馬やスキーのレッスンをつけられ、ヨーロッパ各地へオペラやバレエ鑑賞にも連れて行かれた。
その時にエミリアやマティアスも同行していたのだ。
劇場へ行った帰りにエミリアをメイヤー家に送ると、必ず怖い顔をしたフランクに睨まれた。
当時から「良く思われていないな」と思っていたが、そこまで根深いものだとは思わなかった。
ドイツで暮らしていた双子はもっとその空気を感じていたかもしれない。
だが日本に住んでいる佑は、何となくの雰囲気しか察する事しかできなかった。
クラウスはサンドウィッチに手を伸ばし、冷笑する。
『今回は直接フランク爺さんがどうこうって話じゃないけどね。メイヤー家に繋がる人物で、カスミに嫌がらせのメールを送りそうな存在って言ったら……、一人しかいないでしょ』
エミリアの顔を思い浮かべ、佑は深い溜め息をつく。
『俺には……そんな風に映らなかった。……本当に気付かなかった』
『御劔家で最初に結婚したリツは、意外とそうじゃないかもよ?』
『え?』
兄の名前が出て、佑はハッと顔を上げた。
『僕らは直接リツに何も聞いてないけどね。ただ、ここ数年リツとヒナに会ってエミの話をしたら、二人はぎこちない表情で受け答えをしてた。〝あ、こりゃ何かあったな〟ってピーンときたよ』
『律からは何も聞いてない』
兄夫婦のところは、二人とも穏やかな性格をしているのもあって、不穏な空気とは無縁なものと思い込んでいた。
今まで頻繁に会っていても、兄や陽菜にエミリアについての相談事をされた事もなかった。
『心配させたくなかったんだろ。タスクやショウは、リツよりもエミと年齢が近いし、もっと仲が良かった。せっかく仲良くしていた女の子に、実は嫌がらせをされているかもしれない……なんて、フツー聞きたくないでしょ』
佑は何も言えなくなり、唇を引き結ぶ。
『まぁ、タスクは日本に住んでるから、エミの毒って言われてもピンとこないだろうね』
『……毒?』
佑はいまだに信じられない思いで聞き返す。
マティアスからエミリアが黒幕だと聞き、双子もここまで話を合わせるのなら、彼女が香澄に加害した犯人で間違いないのだろう。
だが佑が知っているエミリアは、いつも優雅で上品な上流階級の女性だ。
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