上 下
406 / 1,550
第八部・イギリス捜索 編

幼馴染みの正体

しおりを挟む
『タスクさ、オーパにカスミの迷惑メールの調査頼んだじゃん。あれ、実はもうとっくに割れてるんだよね』

『は!?』

 再び座り直した佑は、混乱した顔でアロイスを見る。

『やっぱり東南アジアにいる何でも引き受ける団体でさ。そこから安い端末で指定された言葉をカスミに送ってたワケ。奴らのトコにオーパが人をやって、ちょっと威嚇したら、すぐゲロったんだ。クライアントもフリーメールを使ってニセの名前で接触してきたけど、そのニセの名前がドイツ名だったんだってさ。普段なら金が入るなら他はどうでもいいらしいけど、かなりの退勤が振り込まれたみたいなんだ。大金案件の場合、バックにヤバイ奴がいる場合が多いから、団体もいつでも逃げられるようにしてたみたい』

 アロイスの言葉の続きを、クラウスが受け継ぐ。

『で、オーパはそのドイツ名のクライアントを調べた。ニセの名前って言っても、口座を作るには本人と本人のサインが必要だ。勿論、身分証明書もね。そしたら同姓同名の人物に行き当たったけど、そいつは何も関係のない人だった。そいつは名前を盗まれて、偽の身分証明書を使われて誰かに口座を作られたみたいだ。……という所まで分かった』

 そしてまた、アロイスが続ける。

『オーパは金融関係の友人に話をつけ、口座の持ち主を調べた。まぁ、ドイツ男だよね。で、特定したそいつの個人情報をごっそり調べて、周りの人間も調べに調べた。そしたら全員ある共通点があったんだ』

 ぴ、と人差し指を立て、アロイスが皮肉げに笑った。

『全員、エミの祖父のフランク・メイヤーが会長をやっている、ヨーロッパで有名な保険会社メイヤーズに入っていた。オーパもここんとこ悩みがあってね。メイヤーズで高額の保険金をかけてるから、大事な車で簡単に事故る奴がいるって話だ。オーパとフランク爺さんは既知の仲だけど、いがみ合ってる関係だ。表向きドイツの顔として社交界では当たり障りなくやってるけど、見えない所ではバチバチっぽい雰囲気を感じるね』

 フランク・メイヤー、そしてメイヤーズという単語が出て、佑は頷いた。

『それは俺も感じている。エミリアの両親とクラウザーの人間はそれほどギスギスしていないが、祖父たちが関わってくると急にピリッとする。俺がドイツにいた時も、皆で過ごしていた時にフランク爺さんが来ると、嫌な雰囲気になったのを覚えている』

 佑は十代の記憶にある、エミリアの祖父を思い出していた。

 日本で長期休暇の時、ドイツに向かってクラウザー家所有の牧場に行き、双子やエミリアと乗馬をする事もあった。
 学生時代、兄弟でドイツに行くと祖父母の方針で、乗馬やスキーのレッスンをつけられ、ヨーロッパ各地へオペラやバレエ鑑賞にも連れて行かれた。

 その時にエミリアやマティアスも同行していたのだ。

 劇場へ行った帰りにエミリアをメイヤー家に送ると、必ず怖い顔をしたフランクに睨まれた。
 当時から「良く思われていないな」と思っていたが、そこまで根深いものだとは思わなかった。

 ドイツで暮らしていた双子はもっとその空気を感じていたかもしれない。
 だが日本に住んでいる佑は、何となくの雰囲気しか察する事しかできなかった。

 クラウスはサンドウィッチに手を伸ばし、冷笑する。

『今回は直接フランク爺さんがどうこうって話じゃないけどね。メイヤー家に繋がる人物で、カスミに嫌がらせのメールを送りそうな存在って言ったら……、一人しかいないでしょ』

 エミリアの顔を思い浮かべ、佑は深い溜め息をつく。

『俺には……そんな風に映らなかった。……本当に気付かなかった』

『御劔家で最初に結婚したリツは、意外とそうじゃないかもよ?』

『え?』

 兄の名前が出て、佑はハッと顔を上げた。

『僕らは直接リツに何も聞いてないけどね。ただ、ここ数年リツとヒナに会ってエミの話をしたら、二人はぎこちない表情で受け答えをしてた。〝あ、こりゃ何かあったな〟ってピーンときたよ』

『律からは何も聞いてない』

 兄夫婦のところは、二人とも穏やかな性格をしているのもあって、不穏な空気とは無縁なものと思い込んでいた。
 今まで頻繁に会っていても、兄や陽菜にエミリアについての相談事をされた事もなかった。

『心配させたくなかったんだろ。タスクやショウは、リツよりもエミと年齢が近いし、もっと仲が良かった。せっかく仲良くしていた女の子に、実は嫌がらせをされているかもしれない……なんて、フツー聞きたくないでしょ』

 佑は何も言えなくなり、唇を引き結ぶ。

『まぁ、タスクは日本に住んでるから、エミの毒って言われてもピンとこないだろうね』
『……毒?』

 佑はいまだに信じられない思いで聞き返す。

 マティアスからエミリアが黒幕だと聞き、双子もここまで話を合わせるのなら、彼女が香澄に加害した犯人で間違いないのだろう。

 だが佑が知っているエミリアは、いつも優雅で上品な上流階級の女性だ。

 それが双子に〝魔女〟と呼ばれ、接点のない香澄を憎んでいると言われても理解が追いつかない。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

処理中です...