上 下
382 / 1,544
第八部・イギリス捜索 編

初対面の挨拶

しおりを挟む
「御劔様ですね? お連れ様がお待ちです」

 タキシードを着た男性は上品に微笑み、先を歩き出した。

 佑の腕に手をかけた香澄は、黒のオフショルダートップスに白いフレアスカートをはいている。
 こういう時にこそと、佑から贈られたジョルダンのパンプスを履き、アクセサリー類は本物の宝石を着けている。

 本当は無くしたり傷付けたりを思うと、あまり宝石は身につけたくない。
 それでもこういう場所で佑たちと同席するには、何もしなければ平凡そのものの香澄は、多少飾り立てないといけない。

 ロビーを歩く時も佑がエスコートしてくれたが、正直「あれ、御劔佑だ。でも隣にいる普通の女は何?」という視線を頂いた。
 分かっていても、自分の存在が佑を貶めていないかとても心配になるし申し訳ない。
「〝世界の御劔〟が選んだ女は、とても平凡で彼に似合わない人でした」という評価が、もしかしたら世界中に回っているかも分からない。

 だが極力エゴサーチはしないようにしているし、ネットニュースも必要な記事しか見ない。

 弱気になりそうな自分に活を入れ、香澄はレッスンで習った事を思い出し、できるだけ美しいウォーキングで双子が待つ個室に向かった。

 だが香澄自身も気付いていない事だが、ホテルのロビーを含めレストランでも、佑にエスコートされ優雅に歩く香澄を、誰もが羨望の眼差しで見ていた。

 この一年近くで磨き上げられた香澄は、姿勢もすっかり良くなり所作も上品になった。
 もともと顔立ちも透明感のある美しさがあり、それにTPOに合わせたメイクもきちんと施し、〝高嶺の花〟的な女性に大変身している。

 ただ、本人だけは自分に劣等感を持ち、第三者がそのように思っているとはつゆとも知らないのだった。





「香澄ちゃん、こんばんは」
「香澄さん、こんばんは。佑も!」

 夜景を見下ろす個室に入ると、すでに席に着いていた律と陽菜、翔と澪が挨拶をしてきた。

 律と翔はダークスーツで、澪はロングヘアをポニーテールにして黒いレースのオールインワンを着ている。陽菜はアイボリーのワンピースだ。

『こんばんは』

 勿論双子も席についていて、初対面になる金髪美女のエミリアがこちらを見て微笑みを浮かべていた。

「こ、こんばんは!」

 先に日本語で挨拶したあと、香澄はエミリアを向いて頭を下げる。
 いま彼女から掛けられた言葉は英語だったので、今日の会話は英語で統一されるのだろうと察した。

『初めまして、エミリアさん。赤松香澄と申します。お会いできて光栄です』

 お辞儀をして挨拶をすると、座ってシャンパングラスを傾けていた彼女も立ち上がり、テーブルを回り込んで軽いハグをしてきた。

『初めまして、カスミさん。私も会えて嬉しいわ』

 間近で見たエミリアは、まさにセレブ美女という感じだ。

 身長がスラッと高くて、百七十センチメートル以上はある。
 以前写真で見た時はウエーブした髪を胸元まで垂らしていたが、今はレストランだからかきちんとまとめ髪にしていた。
 細身の体型に合った胸のラインも美しく、黒いIラインワンピースがよく似合っている。
 耳や首、指などにジュエリーが輝き、手首にも実用重視というよりはアクセサリー感覚の繊細な高級時計があるが、それが実にハマっている。

 佑たち兄弟と、双子の幼馴染みというだけあって、上流階級の女性という雰囲気がした。

 香澄に挨拶をしたあと、エミリアは佑に歩み寄って自然にハグをした。

『先日会ったばかりなのに、やっぱり久しぶりな気がするわ。カイ』

 長身の美男美女がハグをして挨拶をしている姿を見て、思わず「お似合いだ」という感情が生まれて胸の奥に暗いものが落ちる。

 そのあと、エミリアの連れらしい、やはり高身長のドイツ人男性が挨拶をしてきた。

『マティアス・シュナイダーだ。彼女の秘書をしている』

 彼は握手を求めてきたので、香澄は微笑んで悪手をし返す。

『マティアスさん、宜しくお願いします』

 初対面の人にきちんと挨拶ができて胸をなで下ろしたものの、心の奥には佑とエミリアのハグが魚の小骨のように引っ掛かっている。

「何なら、私たちもハグしよっか」
「ふぇっ!」

 急に耳元で声がしたかと思うと、いつの間にか側に立っていた澪にギューッと抱き締められた。

「み、澪さん」

 びっくりした……と笑おうとした時、耳元で澪がボソッと呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

処理中です...