382 / 1,550
第八部・イギリス捜索 編
初対面の挨拶
しおりを挟む
「御劔様ですね? お連れ様がお待ちです」
タキシードを着た男性は上品に微笑み、先を歩き出した。
佑の腕に手をかけた香澄は、黒のオフショルダートップスに白いフレアスカートをはいている。
こういう時にこそと、佑から贈られたジョルダンのパンプスを履き、アクセサリー類は本物の宝石を着けている。
本当は無くしたり傷付けたりを思うと、あまり宝石は身につけたくない。
それでもこういう場所で佑たちと同席するには、何もしなければ平凡そのものの香澄は、多少飾り立てないといけない。
ロビーを歩く時も佑がエスコートしてくれたが、正直「あれ、御劔佑だ。でも隣にいる普通の女は何?」という視線を頂いた。
分かっていても、自分の存在が佑を貶めていないかとても心配になるし申し訳ない。
「〝世界の御劔〟が選んだ女は、とても平凡で彼に似合わない人でした」という評価が、もしかしたら世界中に回っているかも分からない。
だが極力エゴサーチはしないようにしているし、ネットニュースも必要な記事しか見ない。
弱気になりそうな自分に活を入れ、香澄はレッスンで習った事を思い出し、できるだけ美しいウォーキングで双子が待つ個室に向かった。
だが香澄自身も気付いていない事だが、ホテルのロビーを含めレストランでも、佑にエスコートされ優雅に歩く香澄を、誰もが羨望の眼差しで見ていた。
この一年近くで磨き上げられた香澄は、姿勢もすっかり良くなり所作も上品になった。
もともと顔立ちも透明感のある美しさがあり、それにTPOに合わせたメイクもきちんと施し、〝高嶺の花〟的な女性に大変身している。
ただ、本人だけは自分に劣等感を持ち、第三者がそのように思っているとはつゆとも知らないのだった。
「香澄ちゃん、こんばんは」
「香澄さん、こんばんは。佑も!」
夜景を見下ろす個室に入ると、すでに席に着いていた律と陽菜、翔と澪が挨拶をしてきた。
律と翔はダークスーツで、澪はロングヘアをポニーテールにして黒いレースのオールインワンを着ている。陽菜はアイボリーのワンピースだ。
『こんばんは』
勿論双子も席についていて、初対面になる金髪美女のエミリアがこちらを見て微笑みを浮かべていた。
「こ、こんばんは!」
先に日本語で挨拶したあと、香澄はエミリアを向いて頭を下げる。
いま彼女から掛けられた言葉は英語だったので、今日の会話は英語で統一されるのだろうと察した。
『初めまして、エミリアさん。赤松香澄と申します。お会いできて光栄です』
お辞儀をして挨拶をすると、座ってシャンパングラスを傾けていた彼女も立ち上がり、テーブルを回り込んで軽いハグをしてきた。
『初めまして、カスミさん。私も会えて嬉しいわ』
間近で見たエミリアは、まさにセレブ美女という感じだ。
身長がスラッと高くて、百七十センチメートル以上はある。
以前写真で見た時はウエーブした髪を胸元まで垂らしていたが、今はレストランだからかきちんとまとめ髪にしていた。
細身の体型に合った胸のラインも美しく、黒いIラインワンピースがよく似合っている。
耳や首、指などにジュエリーが輝き、手首にも実用重視というよりはアクセサリー感覚の繊細な高級時計があるが、それが実にハマっている。
佑たち兄弟と、双子の幼馴染みというだけあって、上流階級の女性という雰囲気がした。
香澄に挨拶をしたあと、エミリアは佑に歩み寄って自然にハグをした。
『先日会ったばかりなのに、やっぱり久しぶりな気がするわ。カイ』
長身の美男美女がハグをして挨拶をしている姿を見て、思わず「お似合いだ」という感情が生まれて胸の奥に暗いものが落ちる。
そのあと、エミリアの連れらしい、やはり高身長のドイツ人男性が挨拶をしてきた。
『マティアス・シュナイダーだ。彼女の秘書をしている』
彼は握手を求めてきたので、香澄は微笑んで悪手をし返す。
『マティアスさん、宜しくお願いします』
初対面の人にきちんと挨拶ができて胸をなで下ろしたものの、心の奥には佑とエミリアのハグが魚の小骨のように引っ掛かっている。
「何なら、私たちもハグしよっか」
「ふぇっ!」
急に耳元で声がしたかと思うと、いつの間にか側に立っていた澪にギューッと抱き締められた。
「み、澪さん」
びっくりした……と笑おうとした時、耳元で澪がボソッと呟いた。
タキシードを着た男性は上品に微笑み、先を歩き出した。
佑の腕に手をかけた香澄は、黒のオフショルダートップスに白いフレアスカートをはいている。
こういう時にこそと、佑から贈られたジョルダンのパンプスを履き、アクセサリー類は本物の宝石を着けている。
本当は無くしたり傷付けたりを思うと、あまり宝石は身につけたくない。
それでもこういう場所で佑たちと同席するには、何もしなければ平凡そのものの香澄は、多少飾り立てないといけない。
ロビーを歩く時も佑がエスコートしてくれたが、正直「あれ、御劔佑だ。でも隣にいる普通の女は何?」という視線を頂いた。
分かっていても、自分の存在が佑を貶めていないかとても心配になるし申し訳ない。
「〝世界の御劔〟が選んだ女は、とても平凡で彼に似合わない人でした」という評価が、もしかしたら世界中に回っているかも分からない。
だが極力エゴサーチはしないようにしているし、ネットニュースも必要な記事しか見ない。
弱気になりそうな自分に活を入れ、香澄はレッスンで習った事を思い出し、できるだけ美しいウォーキングで双子が待つ個室に向かった。
だが香澄自身も気付いていない事だが、ホテルのロビーを含めレストランでも、佑にエスコートされ優雅に歩く香澄を、誰もが羨望の眼差しで見ていた。
この一年近くで磨き上げられた香澄は、姿勢もすっかり良くなり所作も上品になった。
もともと顔立ちも透明感のある美しさがあり、それにTPOに合わせたメイクもきちんと施し、〝高嶺の花〟的な女性に大変身している。
ただ、本人だけは自分に劣等感を持ち、第三者がそのように思っているとはつゆとも知らないのだった。
「香澄ちゃん、こんばんは」
「香澄さん、こんばんは。佑も!」
夜景を見下ろす個室に入ると、すでに席に着いていた律と陽菜、翔と澪が挨拶をしてきた。
律と翔はダークスーツで、澪はロングヘアをポニーテールにして黒いレースのオールインワンを着ている。陽菜はアイボリーのワンピースだ。
『こんばんは』
勿論双子も席についていて、初対面になる金髪美女のエミリアがこちらを見て微笑みを浮かべていた。
「こ、こんばんは!」
先に日本語で挨拶したあと、香澄はエミリアを向いて頭を下げる。
いま彼女から掛けられた言葉は英語だったので、今日の会話は英語で統一されるのだろうと察した。
『初めまして、エミリアさん。赤松香澄と申します。お会いできて光栄です』
お辞儀をして挨拶をすると、座ってシャンパングラスを傾けていた彼女も立ち上がり、テーブルを回り込んで軽いハグをしてきた。
『初めまして、カスミさん。私も会えて嬉しいわ』
間近で見たエミリアは、まさにセレブ美女という感じだ。
身長がスラッと高くて、百七十センチメートル以上はある。
以前写真で見た時はウエーブした髪を胸元まで垂らしていたが、今はレストランだからかきちんとまとめ髪にしていた。
細身の体型に合った胸のラインも美しく、黒いIラインワンピースがよく似合っている。
耳や首、指などにジュエリーが輝き、手首にも実用重視というよりはアクセサリー感覚の繊細な高級時計があるが、それが実にハマっている。
佑たち兄弟と、双子の幼馴染みというだけあって、上流階級の女性という雰囲気がした。
香澄に挨拶をしたあと、エミリアは佑に歩み寄って自然にハグをした。
『先日会ったばかりなのに、やっぱり久しぶりな気がするわ。カイ』
長身の美男美女がハグをして挨拶をしている姿を見て、思わず「お似合いだ」という感情が生まれて胸の奥に暗いものが落ちる。
そのあと、エミリアの連れらしい、やはり高身長のドイツ人男性が挨拶をしてきた。
『マティアス・シュナイダーだ。彼女の秘書をしている』
彼は握手を求めてきたので、香澄は微笑んで悪手をし返す。
『マティアスさん、宜しくお願いします』
初対面の人にきちんと挨拶ができて胸をなで下ろしたものの、心の奥には佑とエミリアのハグが魚の小骨のように引っ掛かっている。
「何なら、私たちもハグしよっか」
「ふぇっ!」
急に耳元で声がしたかと思うと、いつの間にか側に立っていた澪にギューッと抱き締められた。
「み、澪さん」
びっくりした……と笑おうとした時、耳元で澪がボソッと呟いた。
34
お気に入りに追加
2,552
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる