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第八部・イギリス捜索 編
第八部・序章4 思いがけない待ち人
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「社長、飲み会の時、赤松さん借りますね。常識範囲の時間には帰しますから」
「ああ、分かった」
相手が女性だと佑のガードが緩くなるのは、仕方がないのだろう。
何せ今まで香澄の周囲にいたのは、元彼や双子だ。
それに比べれば、社員の女子と居酒屋でコイバナをするぐらい可愛いものだ。
「さて……。時間に遅れても困るし、そろそろカフェに向かいますね。カフェの混雑やエレベーターの混み具合も気になりますし」
小さなバッグを手にした香澄は、「コーヒーごちそうさまです」と立ち上がる。
「ああ。じゃあ俺も早い内に戻っておく」
「赤松さん、またねー」
立ち上がってトレーを返却すると、まずトイレに寄って歯磨きをする。
軽く化粧直しをして、エレベーターで地上に向かった。
一階まで下りてIDをリーダーに読ませ、そのまま近くのカフェに向かおうとした時だった。
「あの……、赤松さん」
「えっ?」
いきなり声を掛けられて足を止めれば、ビルのすぐ外に明野が立っていた。
瞬時に温泉での事や双子と行ったカフェの事を思い出し、香澄の表情が曇る。
確か明野は飯山と一緒に、今月末で退職という事になっているはずだが……。
「な、何でしょう?」
明野は日傘を差し、ここでずっと待っていたようだ。
そこまでして自分を待っていたのかと思うと、執念深さに恐怖すら感じる。
「あの……ちょっと話せる?」
だがどちらかというと、明野の態度は香澄を強く恨んでいるというより、ご機嫌伺いをしている様子に思えた。
「…………。私もいま昼休憩で、十三時から社長にアポイントがあるんです。それまでに買い物をしなければいけませんし」
佑に「クビを撤回してほしい」と伝えてほしいという願いだろうか?
気持ちは分かるが、時間に余裕がある訳ではないので話が長引くと困る。
「そ、そうじゃないの。先日表参道のカフェで会ったでしょ? あの時の……格好いい……」
「ああ、アロイスさんとクラウスさんですか?」
あの二人に文句があるのだろうか? と、それはそれで心配になる。
確かにあの時双子は三人に好き放題言ったが、香澄を庇っての事もある。
それで傷付いたと言われても、どうしようもできない。
「そう! その二人! ……の、ね。連絡先、教えてもらえないかな? って……」
「は?」
思いも寄らない方向に話が進み、香澄は思わず少し高い声を出す。
「確かに色々言われたけど、そもそもは私も飯山さんにつられて色々言っちゃったのが原因だし。これでも反省してるんだよ? ごめんね?」
「は、はぁ……」
「でね? あの二人に言われて目が覚めたっていうか……。私の事、あんな風に叱ってくれる男の人ってとても新鮮で。外人で格好いいし、金髪碧眼でしょ? それに社長の従兄であの二人もデザイナーで経営者って……。魅力を感じて」
(あああ……。駄目だ。駄目な方に嵌まっちゃったやつだ)
香澄は内心額に手を当て、激しく落ち込んでいた。
「もちろん恋人いるだろうし、日本に来た時だけの……、言っちゃえばセフレとかでもいいから、繋がっておきたいなって」
すっかり恋する乙女の顔になった明野を見て、香澄は静かに息をつく。
誤解のないようにちゃんと説明をしなければいけない。
トラブルメーカーでも、有名人の彼らに迷惑がかかる事があってはいけない。
「あの……。先に結論を言いますが、お断りします」
「は?」
明野の目に僅かに険が宿る。
「こんなに自分が下手に出たのに」という顔だ。
彼女がどんな反応をするのか分かっていながら、香澄はまっすぐ明野を見て言葉を続けた。
温泉やカフェでは佑や双子が庇ってくれたが、三度目は自分で立ち向かわなければいけない。
困難に遭うたびに守られるお姫様ではいけない。
自分は佑の秘書で、双子の『家族』になる。
『家族』は自分で守るのだ。
迷惑メールの事でアドラーが無条件で自分の味方をしてくれた事を思い出し、自分もそうありたいと香澄は強く決意した。
「ああ、分かった」
相手が女性だと佑のガードが緩くなるのは、仕方がないのだろう。
何せ今まで香澄の周囲にいたのは、元彼や双子だ。
それに比べれば、社員の女子と居酒屋でコイバナをするぐらい可愛いものだ。
「さて……。時間に遅れても困るし、そろそろカフェに向かいますね。カフェの混雑やエレベーターの混み具合も気になりますし」
小さなバッグを手にした香澄は、「コーヒーごちそうさまです」と立ち上がる。
「ああ。じゃあ俺も早い内に戻っておく」
「赤松さん、またねー」
立ち上がってトレーを返却すると、まずトイレに寄って歯磨きをする。
軽く化粧直しをして、エレベーターで地上に向かった。
一階まで下りてIDをリーダーに読ませ、そのまま近くのカフェに向かおうとした時だった。
「あの……、赤松さん」
「えっ?」
いきなり声を掛けられて足を止めれば、ビルのすぐ外に明野が立っていた。
瞬時に温泉での事や双子と行ったカフェの事を思い出し、香澄の表情が曇る。
確か明野は飯山と一緒に、今月末で退職という事になっているはずだが……。
「な、何でしょう?」
明野は日傘を差し、ここでずっと待っていたようだ。
そこまでして自分を待っていたのかと思うと、執念深さに恐怖すら感じる。
「あの……ちょっと話せる?」
だがどちらかというと、明野の態度は香澄を強く恨んでいるというより、ご機嫌伺いをしている様子に思えた。
「…………。私もいま昼休憩で、十三時から社長にアポイントがあるんです。それまでに買い物をしなければいけませんし」
佑に「クビを撤回してほしい」と伝えてほしいという願いだろうか?
気持ちは分かるが、時間に余裕がある訳ではないので話が長引くと困る。
「そ、そうじゃないの。先日表参道のカフェで会ったでしょ? あの時の……格好いい……」
「ああ、アロイスさんとクラウスさんですか?」
あの二人に文句があるのだろうか? と、それはそれで心配になる。
確かにあの時双子は三人に好き放題言ったが、香澄を庇っての事もある。
それで傷付いたと言われても、どうしようもできない。
「そう! その二人! ……の、ね。連絡先、教えてもらえないかな? って……」
「は?」
思いも寄らない方向に話が進み、香澄は思わず少し高い声を出す。
「確かに色々言われたけど、そもそもは私も飯山さんにつられて色々言っちゃったのが原因だし。これでも反省してるんだよ? ごめんね?」
「は、はぁ……」
「でね? あの二人に言われて目が覚めたっていうか……。私の事、あんな風に叱ってくれる男の人ってとても新鮮で。外人で格好いいし、金髪碧眼でしょ? それに社長の従兄であの二人もデザイナーで経営者って……。魅力を感じて」
(あああ……。駄目だ。駄目な方に嵌まっちゃったやつだ)
香澄は内心額に手を当て、激しく落ち込んでいた。
「もちろん恋人いるだろうし、日本に来た時だけの……、言っちゃえばセフレとかでもいいから、繋がっておきたいなって」
すっかり恋する乙女の顔になった明野を見て、香澄は静かに息をつく。
誤解のないようにちゃんと説明をしなければいけない。
トラブルメーカーでも、有名人の彼らに迷惑がかかる事があってはいけない。
「あの……。先に結論を言いますが、お断りします」
「は?」
明野の目に僅かに険が宿る。
「こんなに自分が下手に出たのに」という顔だ。
彼女がどんな反応をするのか分かっていながら、香澄はまっすぐ明野を見て言葉を続けた。
温泉やカフェでは佑や双子が庇ってくれたが、三度目は自分で立ち向かわなければいけない。
困難に遭うたびに守られるお姫様ではいけない。
自分は佑の秘書で、双子の『家族』になる。
『家族』は自分で守るのだ。
迷惑メールの事でアドラーが無条件で自分の味方をしてくれた事を思い出し、自分もそうありたいと香澄は強く決意した。
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