上 下
367 / 1,544
第七部・双子襲来 編

第七部・終章 買い物帰りの双子、襲来

しおりを挟む
「食べないとやってられない」
「ふふ。美味しそうだから私も食べよっと」

 上品にカットされたサンドウィッチは、二口ぐらいでなくなりそうだ。
 食パンのフワフワな感触は高級感があり、香澄は大事に味わおうと思いながら囓った。

「そうは言うけど、佑さんだって学生時代に彼女いたんでしょ? 私は知っている」

 少し冗談めかして言う香澄は、佑の学生時代の話ぐらいでは嫉妬しないと決めている。
 大人になって性的な関係になったならともかく、自分と同じ手を繋いだり子供キスをする程度で、嫉妬をするのは大人げない。――と、言い聞かせていた。

「ん、……まぁ……。いたはいたけど……」

 視線を泳がせる佑は、嫉妬しているくせに自分の事を棚に上げている。
 その子供っぽさが愛しくて、香澄はケタケタと笑い出した。

「よぉし。じゃあ今度、二人で卒業アルバムとか見せ合いしよっか。それでその時にたっくさん学生時代の話をして、全部モヤモヤをなくすの。大人の修学旅行です」

「……よし。乗った」

 香澄の提案に佑は頷き、今はもうこれで終わりとティーカップの紅茶をクイッと飲む。

 決着がついたと香澄がにっこり笑った時、スマホが通知を告げた。

「ん?」

 香澄が手帳型のスマホケースを開くと、コネクターナウにバッジが溜まっている。
 どうやらシャワーボックスで過ごしていた間、連絡が来ていたようだ。

「しかも通知数56って……」

 こんな常識はずれな通知をよこす相手は、あの二人しかいない。

「えぇと……。今度は何かな」

 当惑しつつアプリを開けば、目もくらむような宝石類の写真がずらりと並んでいた。

「えーっ?」

 焦って遡ってゆくと、途中には洋服やコスメ類の写真もたくさんあった。
 最初まで写真を確認した間にメッセージがあり、「香澄はどれがほしい? 美里はどれが似合うと思う?」と意見を聞いている。

「……またあいつらか?」

 二人の時間を邪魔された佑が不機嫌な顔になり、香澄の横に座るとスマホを覗き込んできた。

「どうやらお買い物中みたい。私、これ以上洋服や化粧品があっても困るんだけど……。ただでさえ佑さんにもらった物を使いきれていないのに」

 そもそも口紅なんて、気分を変えるために三本ぐらいあれば十分だと思っている。
 アイシャドウも基本的に仕事で使うブラウン系のパレットと、ちょっと出掛ける様にピンクやボルドーの混じったパレットの二つがあればいい。

 どうして金持ち男というのは、こうもプレゼントしたがるのか……。

 苦笑していた時、ピンポンピンポンと部屋のチャイムをせわしなく鳴らす音が聞こえた。

「っひえっ!?」

 びくんっと背筋を伸ばして振り返った隣で、佑がチッと舌打ちをする。

「対応致しましょうか?」

 動じないコンシェルジュが申し出てくれるが、佑が自ら立ち上がり「俺が行きます」とドアに向かった。

 ドアの向こうには、思った通りの顔が二つある。
 その後ろには護衛たちが数人で大きな紙袋を両手に幾つも提げていた。

「カスミ! 適当に買ってきたから、好きな物選びなよ!」
「僕、カスミに似合いそうな色適当に買ってきたよ! 褒めて!」

 佑を押しのけて双子がぐいぐいと室内に入り込み、護衛が床に荷物を並べてゆく。

「ミサトも呼ぼっか」
「そうだね! 夕飯食ってバーに行って、上がるまで待って色々見せよう!」

 潔いまでに自分中心の双子に、香澄は気の抜けた笑顔を浮かべる。

「……あ、あのですねぇ……」

 思わず脱力しかけた香澄に構わず、アロイスが手近にあった紙袋のリボンを引く。
 それは香澄もよく知っている紙袋だ。

「カスミ、タスクと二人で使ってるコロンここのでしょ? ジョン・アルクール。カスミの香りを辿って同じの買ってきたけど、今ここでつけて嗅がせて!」

 おなじみのオフホワイトとブラックのデザインの箱から、百ミリリットルのコロンを出し、アロイスがじりじりと近付いてくる。

「ちょ……」
「アロ!」

 佑が噛みつくように制止するが、その反対側から手にハイブランドコスメの口紅を持ったクラウスが出てくる。

「僕にこのリップつけさせて? 半分ちょうだいとは言わないけどさ」

 半分ちょうだい=キスと瞬間で理解した佑が、不動明王リターンズの表情になった。

「あ……あの。えーっと……。お、お二人とも紅茶飲みますか?」

 とっさにかわそうとした香澄がアフターヌーンティーに誘い、コンシェルジュが「ティーカップを持って参ります」とにこやかに退室してゆく。

「美里さんが好きなんですよね? じゃあ私に構わず、正攻法の作戦を練らないとなりませんね?」

 ニコニコしながら、香澄はどうやってこの双子から逃げ切ろうかと、内心冷や汗タラタラだ。

「そう! そうなんだよねぇ。ミサト、受け取ってくれるかな?」

「さっき買ったブルートパーズなんて、ミサトに似合うと思うんだけど。あれ、僕ミサトの誕生日知らないや。誕生石贈らないと」

 何をしても変わらない双子に苦笑した香澄は、ロックオンされた美里を気の毒に思いつつも、彼らが本気ならその気持ちが届けばいいなと思っていた。

 溜め息をつく佑を手招きし、香澄は自分の隣をポンポンと叩いた。

「じゃあ、作戦会議のお茶会しましょうか」

 今回、札幌に帰省できて本当に良かった。

 双子がいると少しドタバタしがちだが、それでも人数が多いとやっぱり楽しい。

 明日は東京に戻り、明後日からはまた気持ちをしっかり持って職場に復帰しなければ。

 そう思いつつ、香澄はミニグラタンパイが温かいうちに、手でつまんでパクッと口に入れるのだった。

 第七部・完
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

処理中です...