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第七部・双子襲来 編

アフターヌーンティー

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「アフターヌーンティー、楽しみだな。なんだかんだで、ちょっと小腹空いちゃったし。夕食はアロイスさんとクラウスさんと一緒するの?」

「……さあ。今のところ何も言われていないが、あいつらは嵐みたいな奴らだから、突然予定が変わる事もあるかもな?」

 呆れたように言う佑に、香澄も笑みを深めた。

「ふふっ。じゃあ、サンドウィッチとか控えめにしておきます。でも残さないようにしないと。佑さんも一緒に食べてね?」

「ん、分かった」

 そうしてシャワーで軽く体を流してしまうと、お互いに体を拭きっこしてドライヤーもかけ合った。





 リビングまで戻ると、テーブルにアフターヌーンティーの準備ができていた。

 出入り口に近い場所にコンシェルジュが立っていて、二人が姿を現すと「紅茶をお淹れしても宜しいでしょうか?」とにこやかに尋ねてくる。

 その姿を見て、シャワーボックスからの嬌声が筒抜けだったのでは……と、香澄の顔面がカーッと赤くなる。
 だが佑は一向に気にしていない様子で、「お願いします」とTシャツにハーフパンツという非常にラフな格好で促した。

 香澄は一応ワンピースを着ているが、目の前にある立派なティースタンドやティーセットを前に、果たしてこんな気軽に挑んでいいのだろうか? と不安になる。

「あの、佑さん。ちゃんとした格好しなくても大丈夫?」

「部屋の中で楽しむんだから、別にいいよ。部屋の外のラウンジやレストランで過ごすなら、そりゃ俺だって相応の格好をするけど」

「う、うーん……」

 納得したようなしていないような。そんな声を出し、香澄はおしぼりで手を拭く。

「けど、……すごい……。しゃ、写真撮ってもいい?」

 キラリと照明に反射する金色のスタンドには、三段の白いプレートがあり、それぞれサンドウィッチにスコーン、ペストリーとお決まりの物がのっている。

 だがそこはホテルのアフターヌーンティーらしく、サンドウィッチは様々な切り方をされて揃えられ、ミニハンバーガーもある。
 スコーンの段には恐らく小さなグラタンパイとおぼしき物もあり、グラタンが大好きな香澄の目が光った。
 一番上の段には、夏らしいオレンジソースを用いたミニケーキや、桃のコンポートが載ったムース、小さなココットに入っているのは、チョコレートのスイーツだろうか。

 昼に寿司を食べて小さな餅も食べ、豪華であろう夕食に備えて腹具合をキープしたかったが、これはこれで我慢できない。

「映える、か?」

 向かいに座っていた佑が立ち上がり、写真の邪魔にならないようにしてくれる。

「ありがとう。すっごい映える」
「お写真を撮られるなら、紅茶も一緒にどうぞ」

 ふとコンシェルジュの声がし、ホカホカと湯気の立つ琥珀色の紅茶を出してくれた。
 優雅な絵付けがされたティーカップと揃いのティーポットも置かれ、本当に英国貴族にでもなった気分だ。

「ありがとうございます」

 ティースタンドに焦点を合わせるために一度画面をタップし、香澄はシャッターを切る。
 カシャッと軽快な音がしたあと、少し角度を変えてもう数枚撮った。

「香澄のジャフォットのフォロワーは、香澄を食いしん坊だと思ってるだろうな」

 撮影が終わってまた向かいに座った佑が、そう言って笑う。

「んもう……。学生時代からの友達がメインだから、否定はしないけど……」
「香澄の学生時代ってどんな子だったんだ?」

 紅茶を一口飲んだ佑に尋ねられ、香澄は「んー……」と視線を斜め上にやる。

「特に普通だったけど……。成績は中の上で、特に頭がいいでも悪いでもなし。運動神経も抜群っていう訳じゃなくて、走るのは嫌いだったなぁ。特に長距離」

「へぇ。男友達は?」

 何も興味を引く話題ではないのに、佑は前傾姿勢で耳を澄ます。

「男友達はー……。も、普通。いつも仲のいい女の子とつるむのがメインだったし、必要があったら普通に話すけど、そうじゃない時は特に会話する理由もないし……」

「放課後に誰かと寄り道したか? 男と」

「もう。佑さん、やっぱりお父さんみたい」
「おとう……」

 香澄の文句に、佑が分かりやすく脱力する。
 項垂れた彼の姿を見てクスクス笑い、香澄は軽く首を振った。

「一応、彼氏っぽい人はいた事あるけど、手を繋ぐだけで精一杯の清い交際だよ?」

 彼氏と聞いて、佑が物凄い顔をする。

「……やりたい盛りの中高生が、手を繋いで終わりな訳ないだろ。キスぐらいしたんじゃないか? ん?」

 剣呑な目でねちねちと尋ねる佑は、やはり思春期の娘を持つ父親のようだ。

「もー……。……ちょっとは……したけど」

 呆れて白状すれば、佑は手で顔を覆ってはぁ、と溜め息をつきサンドウィッチに手を伸ばす。
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