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第七部・双子襲来 編

大凶

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「……よし、これ」

 やっとこれだと思った物を引いたあと、佑が何の気負いもなく百円を入れてスッと引いてしまう。
 少しドキドキしながら神経質にのり付けされた部分をめくっていると、側で佑が呟いた。

「あ。俺、大吉だ」
「えっ? 本当? 良かったね! わ、私は……」

 おそるおそるおみくじの折り目を広げ、まずは神様の言葉が書かれてある部分を読む。

(……なんか、困難があるような書き方だけど。調子に乗ってちゃ駄目って言う事かな)

 やや不安になっていよいよ裏をひっくり返し、「あ……」と吐息が零れた。

「どうした?」

 佑がひょ、と覗き込んで黙った。

「……大凶だった……」

 がくぅ、と項垂れる香澄の肩を、佑が苦笑いしてポンポンと叩く。

「気にするなって。俺の大吉と取り替えるか?」
「……ううん、いいの。結んでくからいいの」

 おみくじの良いとされる順番は各地の神社で多々ある。
 だが大まかには大吉、吉、中吉、小吉、末吉、凶、大凶の順番だ。

 ここで凶を引いた事がなかったので、ショックである。

 祖母が病気をしてから、割と頻繁にお参りするようになったが、大体の印象で大吉を引いたのが二、三割で残りが中吉以下の印象だ。

 それぞれの項目を読んでからもう一度溜め息をつき、香澄は結び所へ歩いて行く。
 どこかで利き手の反対の手だけで結べたら、引いたおみくじよりもう一段階昇格すると聞いたことがあるが、そこまではしない。

 細く折り畳んでキュッと結んでしまうと、「まぁ、いっか」と笑う。

「私の分も佑さんたちの運が上がったんだと思えば、大凶引いて良かったなって思えるし」

「そんなこと思わなくていいよ。俺は香澄の運が心配だ。事故にも遭ってしまうし、もし今後また何かがあったら心配だ」

 ザリ、ザリ、と白い砂利を踏みつつ、もう一度門の前で本殿に向かってお辞儀をする。

「カスミ、俺たちの大吉分けてあげようか?」

「そうそう。勝利の女神のキスって言うし、どこの祭りだっけ? フクオトコ? とかいたじゃん。あんな感じで、僕らからカスミにキスしたげようか?」

「……遠慮しておきます……」

 数多くの恋人と手を切ったらしいが、双子の本質は変わらない。

「あーあ。じゃあ、ちょっと落ち込んでるから、佑さんにご馳走してもらおっかな?」
「本当か? 何でもご馳走するぞ?」

 香澄の声に佑がパッと笑顔になり、その反応がおかしくて堪らない。

「ふふ……ふっ。もうちょっと歩いた所にお店あるから、そこで、ね?」

 果たしてこの近くにお洒落なカフェやレストランでもあるのかと佑が思っているうちに、駐車場に戻る手前で香澄が「あそこ!」と店を指差した。

「あれって……『浜梨亭』じゃないか」

 北海道と言えば、な菓子ブランドの店舗があり、佑が目を瞬かせる。

「いいからいいから。あそこで焼きたてお餅の『判官さま』があるの。全道に浜梨亭が多々あれど、判官さまを売ってるのはここと円山店しかないんだよ?」

 店の外にはテーブルとベンチがあり、人々がそこに座って餅と紙コップに入ったお茶を飲んでいる。
 店内では少し並んでいて、香澄はその最後尾に並んだ。

「幾ら? 六百円ぐらい?」
「税込み百円です。ワンコインですよ」

 さきほど双子が口にしていた言葉を香澄が言い、にっこり笑ってみせる。

「――だからか。珍しく香澄がご馳走してほしいだなんて言ったのは……」

 苦笑しつつ財布を取り出す佑に、香澄は笑う。

「確かに安いけど、美味しいよ? 本当に。びっくりするから。幾ら出したか、より、私が喜ぶか、でしょ?」

 ちょっと偉ぶってみると、「その通りだ」と佑が笑った。

「判官さま、四つお願いします」

 店員に佑が声を掛け、四百円の会計を済ませる。

「あれっ? タスク俺らの分も出してくれんの?」
「ラッキー。あんがと」
「ついでだ」

 相変わらずな三人の会話を微笑ましく聞きつつ、香澄は目の前の鉄板で餅が焼かれるのを見ている。
 やがてペーパーナプキンに挟まれた判官さまを「どうぞ」と手渡され、佑は「本当に焼きたてだな。熱い」と呟く。

「佑さん、私の分ちょっと持ってて。アロイスさんも、クラウスさんの分を持っててください。クラウスさんはこっち」

「なに? カスミ」

 呼ばれて嬉しさを隠さないクラウスの手に、香澄は「はい」と紙コップを手渡した。

――――――――――

 例によって、多分本当の北海道神宮では大凶を置いていない肌感覚ですが、フィクションとして捉えてください。
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