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第七部・双子襲来 編

写真撮影

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「タスク、余裕なさすぎ」
「余裕ない男って、女に逃げられるよ」

「黙れ」

 ムスッとした佑を無視し、アロイスが頭上を見る。

「ここ、気持ちいいね。ドイツに比べて札幌って高いビルが多くて空が狭いけど、緑がある場所は好きだよ。他にもこういう場所ってないの?」

 風に吹かれて緑が揺れ、赤レンガの上に落ちた木漏れ日がチラチラと揺れる。

「んー……。そうですね。まっすぐ行ったらさっきもご紹介した中島公園があります。でももし車を出せるなら、北海道神宮なんかも気持ちいいですよ? ここら辺からなら、二十分もかからないと思います」

「ジングウ? カミサマのトコでしょ? 拍手するやつ。僕、パワースポット行きたい!」

「柏手って言うんですよ。じゃあ、ここと時計台と、大通公園辺りをなんとなく歩いたら、円山公園に向かいますか? 佑さん、いい?」

「構わない。俺たちのこれからの事も拝もうか」

 冗談めかした言い方にどこかホッとし、香澄も微笑する。
 するとアロイスが「あ!」と叫んで指をパキンと鳴らした。

「じゃあ、俺たちもミサトとエンムスビする!」
「それ名案! 日本のカミサマなら、日本人のミサトと相性いいかもね?」

 横断歩道を渡ると、両側に蓮の葉が浮かんだ池がある。
 真ん中を進んでいくとドンとした建物の全貌が分かり、双子がスマホ片手に香澄を呼ぶ。

「カスミ! スリーショットしよ。タスク、写真撮って」
「はい。僕とアロのスマホ」

 まだ佑は何も言っていないのに、クラウスが二人分のスマホを押しつけて香澄の肩を抱く。

「……この」

 口元で何か罵りながらも、佑はしぶしぶとスマホを構える。

「見切らせたら後で嫌がらせするからね!」

 佑が何かする前にアロイスが言う。
 そのあと、佑は素直に写真を撮った

「……あんまり佑さんを虐めないでくださいよ?」

 両側から双子に肩を抱かれた香澄は、苦笑いしつつピースサインをしてみせる。

「カスミもあんまりあいつの独占欲に困る時があったら、遠慮なく言っていいんだよ? カスミは何でも我慢するタイプっぽいから」

 ポン、とアロイスの手が頭に載り、クラウスが続ける。

「あーあ。僕らもミサトに本気になったら、タスクみたいにみっともなくなるのかな。それはそれで、ちょっと嫌かな。余裕のある男でいたいよね。……って言っても今まで本気になった事ないから、それがいいか悪いかも分かんないんだけど」

 もう一度カシャッとシャッター音がし、佑が自分のスマホを取り出しつつ歩み寄ってくる。

「アロ、俺と香澄も写してくれ」
「しょーがないな。見切れたらごめんね?」

「お前の誕生日、招待されても行ってやらないぞ?」

 佑の妙な脅しに、今度は婚約者に肩を抱かれた香澄が首を傾げた。

「行ってやらないぞ? なの?」

 双子なら今回のように突撃してきて、「祝ってー!」と言いそうなイメージがあるので、香澄は首を傾げる。
 するとクラウスが説明してくれた。

「こっちではね、誕生日は本人が周りに振る舞うもんなの。女の子なんかはケーキ作って配ったりしてるし、僕たちはパーティー開いて招待客もてなしてるかな? まぁ、いつもとやってること変わらないんだけど」

「へぇぇ……!」

 これでも一応ドイツについて少し詳しくなったつもりだったが、まだまだ知らない事が沢山ある。
 新たに知った文化の違いに、香澄は目をキラキラさせて何度も頷いた。

「『ここまで成長できたのは、皆さんのお陰です』っていう意味なんでしょうか?」

「さぁね? どうなんだろ?」
「僕ら、生まれた時からこういう風に育ってるから、そこまで分からないな」

 双子に言われ、そりゃそうかと思った。

 何気ない毎日に潜んでいるものについて、改めて「それはどうして?」と尋ねられてもきちんと答えられる気がしない。

 神社の鳥居はなぜ赤い? 狛犬はなぜ二匹いて何をしている? など聞かれても、ぼんやりと分かるような、正確には分からないような……という感じだ。
 馴染み深い味噌についてだって、白味噌と赤味噌の違いを聞かれたら固まってしまう自信がある。

 なので双子がドイツについて何でも知っている訳ではないのは、自分と同じなのだ。

「じゃあ、次は時計台? 行こうか」

 写真を撮って満足したのか、アロイスが来た道を遡り始める。
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