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第七部・双子襲来 編

故郷への感傷

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「何はともあれ、俺は香澄が楽しいならそれでいい。脚は心配だけど、お盆休みが終わったら復帰予定だから、無理はしないと思っている。その辺りは信頼するよ」

「うん」

「……繰り返すけど、あいつらは大人で言葉も通じるから、心配しなくて大丈夫だ。香澄の案内がなくても勝手に観光できるだろ。……というのが本音だけど」

「うん、分かってる。でも皆で観光したらきっと楽しいよ?」
「……香澄がそう言うなら」

 仕方がない、というように笑ったあと、佑は香澄の肩を抱き寄せキスをした。



**



 翌日、多少目立つのは仕方がないと諦め、四人は護衛を伴い、歩きで札幌の街を観光した。

 ホテルを出てまず札幌駅の外観を写真に撮り、まっすぐ南に向かって続いている駅前通りを歩く。
 アジア系の観光客がやや目立つ印象だが、東京ほど雑多としておらず、ほとんど日本人で地元民も多い。

 周囲の人は御劔佑と双子に目を引かれ、彼らに挟まれた香澄はどこのお嬢様なのかという目で見てくるので、居たたまれない。

「まっすぐなストリートだね。分かりやすい」

「そうですね。このまっすぐな道の南北を条で数えて、東西を丁目で数えます。住所も比較的分かりやすいと思います。こういう事を言うと憧れの京都人に笑われるかもですが、街の作りが碁盤の目なのは少し似ているかな? って」

 照れくさそうに笑う香澄の顔を、アロイスが覗き込む。

「カスミ、京都好きなんだ! じゃあ、今度俺たちと一緒に行こう。ミサトも誘ってダブルデートだ」
「オイ、俺はどうなった」

 すかさず佑が突っ込む。
 その言い合いを放っておけばエンドレスになると分かっているので、香澄は説明を続ける。

「この道はまっすぐ大通公園まで続いていて、さらに奥は皆さん大好きな歓楽街のすすきの、さらに奥には中島公園があります。とても広い公園で、由緒正しいホテルや音楽ホールもありますし、毎年夏祭りとかも開催されていますよ」

 札幌に戻ってくると、横断歩道の音声案内も懐かしい。
 全国的にカッコーと、ピヨピヨという鳥の鳴き声が多いらしいが、札幌も同じだ。

「冬場は雪が降りますから、地上が雪に覆われて歩きづらくなった時……。ジャジャーン。札幌にはチカホという名前の地下歩行空間が、札幌駅からすすきのまでまっすぐ続いているんです」

 香澄は近くにあった、地下からの階段を示す。

「へぇ、地下ね。確かに雪降った時はラクかも」

 クラウスがうんうんと頷き、階段を覗き込む。

「じゃあ、これ全部チカホに通じるやつなんだ?」
「そうです。なので暑い夏と寒い冬にわざわざ外を歩いている人は、景色を楽しみたい観光客である割合が高いんですよ」

 そのあと、香澄は右手側を示す。

「もう少ししたら右側に旧道庁が見えますよ。赤レンガ庁舎という名前で親しまれています。中は一般公開されていて、北海道の歴史の資料とかが置いてあるはずです」

 香澄が言った通り、信号がある交差点の右側には並木が続いた向こうに赤レンガの建物が見える。

「ふぅん。映えるね。俺、写真撮りたい」
「行きましょうか」

 信号待ちをしている間、香澄が交差点周囲のビルを示す。

「この辺全部、飲食店が入っているビルです。そこの赤レンガテラスにはお高いフレンチもありますし、そっち側のビルにはウニ丼を食べられるお店も入っています。有名なジンギスカンのお店も」

 説明しながら、香澄は八谷グループの店を思い出していた。

 少し前までは、研究としてあちこちレストランに入っていた。
 そこで味わった料理の感想をメモし、料理長と相談して新メニューの案を作る事もあった。

 当時を思い出し、香澄は札幌という故郷に深い感傷を抱く。

 決して今の秘書業がやりがいがないという訳ではない。
 毎日新鮮な気付きがあるし、御劔佑という超大物のスケジュールを管理する仕事に誇りを持っている。

 公では口にしてはいけない事だが、好きな人の側で働けるのも幸せだ。

 それでも、まだ佑と出会っていない〝ただの赤松香澄〟だった頃。

 一人暮らしをして貯金をしつつも節約をして、夜中心に働いているので出会いがないと友人にぐだぐだ零して。

 あの時間を思い出すと、無性に恋しく、愛しく思える。
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