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第七部・双子襲来 編

札幌でお墓参り

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 朝食を終えて出掛けようとした時、双子の部屋の前を通ったが、はまだシンとしている。眠っているようだ。

「よし、この隙に行こう」

 絶好の機会と言わんばかりに佑は香澄の手を引いてエレベーターに乗り込んだ。

 そのまま地下駐車場で運転手と護衛と合流し、札幌市清田区にある霊園へ向かった。

 香澄は移動中に母と連絡を取り、お盆時期なので多少渋滞するが順調に道程を進められていると伝えた。





 霊園は六十六万平米あり、基本的にマイカーで来る事を想定されており、駐車場も広い。
 巨大な公園と言っていい印象で、整然と墓が並んでいる他は緑も多い。

「へぇ、本当に広々とした所だな。さすが北海道だ」

 車から降り、佑がサングラスを外して目を細める。

 佑はよくサングラスを掛けていて、そのバリエーションも多彩だ。
 かなり凝っているようで、気に入ったブランドの物は色違いで揃えるというコレクターぶりを見せている。

 それでも彼の目の色が普通の日本人よりずっと薄い事を考えると、目が光に弱くそれを守るためにサングラスをしているのはすぐ分かる。

 ただのお洒落ではなく健康のためなのだと思うと、純日本人の香澄からすれば「大変なのだな」と思う事も多々ある。

「佑さん、眩しいでしょ。サングラスしていていいよ」
「いや、こういう時ぐらいちゃんとしてたいし」

「そうじゃなくて」

 会話をしながらも、石段を下りて小路を進んでゆく。
 吹き抜ける風が気持ち良く、晴天とはいかないが、雨もギリギリ降らずで御の字だ。

「あ、お母さんたちもう来てるみたい」

 香澄が「あそこ」と示した先には、数人の集まりがある。

「わ。もうお墓の掃除とか終わってるのかな」

 香澄は急ぎ足になり、佑もその後を追う。

「こんにちは!」

 香澄が大きな声を出すと、香澄の両親と弟、赤松家の人々が振り向いた。

「香澄! あんた走っても大丈夫なの?」

 驚いた様子の母に、香澄はピースサインをしてみせる。

「走ってないない。これは急ぎ足です。おじさん、おばさんお久しぶりです」

「香澄ちゃん、久しぶり」
「あっくん、久しぶりー」

 やけにテンション高く香澄に挨拶をしてきたのは、伯父の従兄だ。

 長男の家は男兄弟なため、従兄弟兄弟はいつも「妹がほしい」とぼやいていたそうだ。
 親戚が集まると、香澄はその兄弟に可愛がられるという図式が成立していた。

 従兄とハイタッチをする香澄の後ろで、佑が「こんにちは。初めまして」と綺麗に一礼してみせる。

「きゃああああ……っ! 御劔佑様、麗しい……っ! まさかお墓参りに来て会えるだなんて……っ!」

 黄色い悲鳴を上げているのは、次男のところの従姉妹だ。
 次男の娘たちは佑より少し年上と年下ぐらいの年齢で、それぞれ既婚と独身だ。
 姉は小さい子を抱っこしているが、夫がいようが何だろうがファンはファンらしい。

 叔母のところの姉妹は二十代半ばと大学生で、こちらはもっとファン心理がこじれている表情をしている。

「御劔様、格好いい……!」
「一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」

 まるで芸能人を前にした興奮ぶりに、佑も苦笑する。

「お墓の前はさすがにやめておきましょう。あとでお墓から離れた場所でなら、もちろん歓迎します」

 香澄も従姉妹相手だと嫉妬する気にもならないのか、その姿を見てケラケラと笑っている。

「来るの遅くてごめんね? これでも一応急いで頂いたんだけど」
「いいって。いつも役割分担は決まってるし、掃除って言っても大した事しないし」

 香澄と栄子が話をしていると、仏花を手にした佑がおずおずと前に出る。

「すみません。ホテルで手配してもらって買ったのですが、一緒に飾って頂いてもいいですか?」

 仏花にしては立派すぎる花束に、栄子が「あらーっ」と目を丸くする。

「御劔さん、こんな立派なお花すみません。飾らせて頂きますね」

 花ばさみを持つ栄子に、香澄が「私がやるよ」と言い仏花を受け取る。
 左脚を少しかばってしゃがみ、高さが揃うように花の茎を切る香澄を、佑が後ろから微笑んで見守っていた。

 帰省の目的は墓参りなので、二人とも左手首に略式の数珠をしている。

 崇の両親である祖父母がじんわりと佑に近付き、頭を下げた。
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