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第七部・双子襲来 編

何もかも佑さんが初めて ☆

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 よほど神経が図太くなければ、できない相談である。

 だがそれを口にしてしまえば、本当に〝最後〟になってしまう気がした。

 言ってしまえば、「あなたとは住む世界が違うの」だ。

 目に涙を溜めて黙っている香澄を見て、佑は苛立ちを隠せない表情をする。

「俺は香澄を尊重したい。確かに閉じ込めて愛でていたいという想いはあるけれど、実際問題無理だ。香澄の意思を無視して、買い与えた服を着せて何から何まで面倒を見て、外出もさせない、付き合う人も決めるだなんて異常だと分かってる」

「…………っ、うん」

 頷くと、涙が零れた。
 佑は香澄を抱き締め、溜め息をつく。

「オーパと結婚したオーマは、しばらくそういう生活だったそうだ。オーマも古い時代の女性だから、夫の言われるがままになっていた。だがその関係に異を唱えたのは、母たち子供世代だ。オーパは子供に言われてやっと、自分の愛し方が異常なんだと気付いたらしい。愛するあまり大事にしすぎて、オーマが窒息寸前だったのも気付けなかったそうだ」

「……そんな、……事が」

 少し体を離して佑を見ると、彼は苦く笑う。

「少なからず俺にも、アロクラにも、他のクラウザー家の男たちにも、そういう血は流れていると思う。惚れた女は囲い込んで、自分しか見させない。ある意味病んだ愛し方しかできない」

 呪われた血筋のような言い方をされ、「大げさだよ」と言いたいのだが、佑があまりに真剣な顔をしているので何も言えない。

「……だから俺は香澄の意見を聞いて、普通に愛したい。確かに俺の存在は普通じゃないのかもしれない。香澄が俺に遠慮してしまうのも、ある意味分かる。でも俺だって、香澄のバニーガール姿にコロッとやられたとか、香澄が他の男と話してると、すぐ嫉妬するとか、その辺の男と一緒で、普通だ。そんなに特別視する必要はないんだよ。『釣り合わない』なんて考えなくていい」

 肯定され、香澄は震える声で尋ねる。

「……それは、私にだけなの?」
「そんな訳ない」といつもなら逃げ出す気持ちが、震えながら立ち向かおうとしている。

「私は……、佑さんの〝特別〟だって考えていいの? ……っごめんなさい。何度も言わせてるけど。でも、何回も言ってもらって、確かめないと安心できないの。自分に、……っ自信がないのっ」

 情けなさで自分が嫌になりながらも、香澄は懸命に尋ねる。

 それに対し、佑は面倒臭そうな顔もせず、まっすぐに返事をした。

「香澄は特別だよ。後にも先にも、こんなに愛した女はいない」
「――――っ」

 天から一滴の慈雨が降り、額に落ちた気がした。

 そこからじんわりと温かさと優しさが染み渡り、香澄の荒れた心を癒やしていこうとする。

 だが砂漠のような香澄の心は、我慢をしながらももっと多くの言葉と愛情、態度を欲していた。

 どれだけ注がれても満たされない。

 それが分かっているからこそ、香澄は自分から求めることをほぼ禁じていたのだ。

「……っ私もっ、初めてなのっ。こんなに好きになったのも、欲しくて堪らないのも、誰にも渡したくないって思ったのも、人生の絶頂にいると思うほど幸せを感じたのも、何もかも佑さんが初めてなのっ。…………だから、……怖いっ」

 震える香澄を抱き締め、佑は何度も唇を与えた。

「俺も怖いよ。せっかく手に入れた宝石が、誰かに横取りされないかいつも怯えてる。本当は誰の目にも触れない所に隠して、自分一人だけで愛でたいぐらいだ」

 濡れた手に頬を撫でられ、香澄は自ら頬ずりをする。

「……同じ、なの?」
「同じだよ。俺たちはお互いに恋をして、嫉妬して、失う事を恐れている。そこに何の差もない」

 低い声が耳朶に心地良く響く。香澄は佑の胸板にぺたりと掌を押し当てた。

「……私と、佑さんが、……同じ……」

 掌の奥では、トクントクンと佑の鼓動が鳴っている。
 佑も香澄の左の乳房をグッと押し上げ、掌で心臓を探った。

「同じだ。好き合ってどこか気持ちのタガが外れてる。それぐらい、俺たちは想い合っているんだよ」

 浸透していった言葉が、香澄の目に涙を零させる。

「……好き、……だよ」

 泣きながら不器用に笑った香澄は、自ら佑の頬を包み顔を傾けてキスをした。

「ン……」

 ちゅ、ちゅ……と佑の唇を食むと、すぐに彼の舌が香澄を迎えてくれる。
 舌先同士がスリスリと挨拶をしている間、香澄は深々と刺さった熱杭を蜜壷でぐちゅりと喰い締めた。

「ァ……、あ……。ン、あ……っん、ぅ」

 ゆるりゆるりと腰を上下させ、ジェットバスの水面が波立つ。
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