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第七部・双子襲来 編

普通の口説き方を知らない二人

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「あ、カスミだ」

 クラウスが香澄に気づき、手を挙げる。
 香澄は二人に近づき、話しかける。

「あまり飲み過ぎたら駄目ですよ?」
「分かってるよ」

 バーテンダーの女性が香澄を見て微笑みかけ、会釈をしてくれたので、香澄も会釈を返す。

「カスミ、この子はミサト。可愛いでしょ」

 アロイスがバーテンダーの女の子を紹介してくれ、香澄は「もう名前を聞き出したのか。さすがだな」と思いながらもう一度会釈をする。

「ミサト、この子はカスミ。ミツルギタスクの婚約者。で、俺らはタスクの従兄だよ」
「へ……っ?」

 恐らく美里と書くだろう彼女はかなり驚いたらしく、カクテルをマドラーで掻き混ぜていた手が止まる。

(美形の双子とは思っていただろうけど、まさか佑さんの従兄とは思わないようね……)

 驚いただろう彼女に少し同情し、香澄は少し助け船を出す。

「美里さん、このお二人は悪い人ではありません。多少うるさいと思いますが、その時はどうぞ遠慮なくお店から放り出してください」

「カスミ、酷いなぁ」

 クラウスがケタケタと笑う。

「ねぇ、カスミ。俺たちこの子を好きになってみようって思ったんだ」

 アロイスにいきなりな事を言われ、さすがに香澄と美里の口から「え!?」という声が漏れた。

「さっき、今まで関係のあった女の子たち全員と手を切ったんだ。会うのは仕事だけ。僕たちもタスクみたいにきちんとした恋人がほしいから」

「そんな……、思いつきみたいじゃないですか」

「Nein(ううん)思いつきじゃないよ。俺ら、本気になれる子がほしいって思っていたのは本当なんだ。それに結婚するなら日本人の女の子がいいって思ってたし」

「突然ですね!?」

 カウンターの奥から美里が突っ込み、香澄も心の中で「その通り!」と頷く。

「でもさ。僕ら、人を見る目はあるつもりなの。この子を見て話してみて、ビビッときたんだよね。だから本気になってみようかって思ったんだ」

(うわああ……)

 美里に憐憫の目を向けると、彼女は顔を引き攣らせて固まっている。
 その手だけは動いて、シェイカーの中に次のカクテルの材料を入れているので、大したものだ。

「私の意思は無視ですか?」

 美里の問いに、クラウスは逆に質問する。

「僕らの事、嫌? 生理的にムリ? 恋人にしたくない?」

 その「選ばれないはずがない」という口調に、美里は黙り込む。
 堪らず香澄は口を挟んだ。

「あの、こういうお二人なんです。天上天下唯我独尊というか……。非常にマイペースで、私は〝双子ルール〟と呼んでいます」

「カスミ、それ初耳」

 双子がケタケタと笑い、両手を胸の前で打つほど大ウケしている。

「まぁ、僕たちも今までが今までだったし、信用されなくても仕方ないよ。ミサトだって初対面だし、いきなり『付き合おう』って言われてもびびるのは分かる」

 譲歩したクラウスの言葉に、やや我に返ったらしい美里が返事をする。

「本当に初対面ですね。それにお客様とのお付き合いは御法度ですので」

 努めて営業スマイルを浮かべる美里に、アロイスが「同じの」とウィスキーのグラスを差した。

「でも、服を汚したオワビをしてくれるんでしょ?」

 クラウスの言葉に、美里がビキッと固まる。

(あ……、そんなミスを……)

 香澄はいよいよ頭が痛くなり、手洗いどころではなくなった。

「お二人とも。幾ら美里さんを気に入ったからといって、弱みにつけ込むのは卑怯です。それぐらい分かっていますよね?」

 ぴし、と人差し指を立てて諫めたが、ちっとも意味をなさない。

「分かってるけどさ。ワンチャン、ミサトが嫌じゃないならチャンスがほしい」
「そうそう」

 諦めない双子に、香澄は溜め息をつく。

「普通に働いていたのに、いきなり初対面の人に『付き合おう』って言われる女性の身にもなってください」

 そう言うと、双子は子供のように唇を突き出して膨れた。

「Boo……難しいな。じゃあ、カスミが口説き方を教えて? 日本人の女の子って、何をしたら喜ぶの? 僕たちが常識知らずなら、カスミたちの常識を教えてよ」

「……あの」

 疲れを覚えた香澄は、一旦クラウスの隣のスツールに腰掛けた。
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