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第七部・双子襲来 編

同じ個室で

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 そして双子は迷いのない手つきで誰かに電話を掛けた。
 アロイスは相手が出た途端、イタリア語で話しだす。

『もしもし? ダニエラ? 俺、アロイス。突然だけどさ、もう会わないから』

 スピーカーの向こうで、女性が激しく驚き抗議を示す。

『俺もクラも、もう君とプライベートで会わないし寝ない。でも君はモデルとして最高だと思うから、仕事で縁があったら宜しくね。これが理由で仕事受けたくないなら、別のモデルを探すから、君は君で幸せな人生を歩む事を祈るよ』

 アロイスはカクテル片手にわざと英語以外の言語で話し、こちらをチラッと見た美里をにウインクをする。

『は? 他の子たち? 全員手を切るよ? 君だけを嫌いになった訳じゃないから、心して。ダニエラも俺らの他に何人も恋人がいるでしょ? そっちにいけばいいじゃん。俺たちはもう賞味期限が切れたって事でもう終わりにして? じゃあね、元気で。今までありがとう。チャオ』

 双子は延々と、一時間以上あちこちに電話をかけ続けた。





(わざと英語を使ってないんだろうなぁ。ちょっと気になる……)

 ひっきりなしに電話を掛ける双子を見て、美里は手を動かしながらチラチラ二人を気にする。

(でも私には関係ないし……)

 自分に言い聞かせた時、バーに新しい客が入ってきた。

(え?)

 ここは札幌の中でもランクの高いホテルなので、勿論有名人が訪れる事もある。
 美里だって並大抵の相手では驚かないようにしている。

 けれど出入り口付近でスタッフに迎えられているのは、長身で見るからに美形な男性だ。

(御劔様だ! 今日も麗しいなぁ……)

 札幌に来た時はこのホテルをひいきにしてくれている佑を、バーで何回も見かけている。
 金遣いがいい上にスタッフに優しく、先輩バーテンダーが「綺麗なお酒の飲み方をされる方だね」と嬉しそうに言っていたのをよく覚えている。

(毎度様です。今回もごゆっくり)

 心の中で呟き、美里は佑に向かって会釈をする。

 ところが彼はカウンターにいる双子を見てフリーズし、フロアスタッフに向かって「個室は空いていますか?」と尋ねた。

(あれ? このお二人、それほどうるさくはないと思うんだけど、気になったのかな?)

 時々彼とカウンターで話す事もあったため、ほんの少し残念にも思う。

(でも、お連れ様がいるからかな。ごゆっくりどうぞ……。確か、御劔様は一杯目はハイボールだったよね……)

 そう思って用意をしていると、フロアガールが予想通りのオーダーをとってきた。



**



「お二人……いたね」

 以前使った個室に通されたあと、香澄は小さく笑う。

 バーに入った瞬間佑が固まり、何事かと思って彼の視線を追えばカウンターに双子がいて理解した。
 二人はひっきりなしに電話を掛けていたようで、夜のゆったりした時間なのに違和感を覚えた。

(仕事の電話かな? ああ見えて凄い人だもんね)

 そう思いながら、個室の席に座り遠くにある藻岩山のライトアップを目にする。

 そして佑と出会った時もこの個室だったなと思い、笑ってしまった。

「あの時もこの個室だったっけ」
「だな。懐かしい」

 笑い合ったあとメニューを手に取り、二人で見られるように垂直に置く。
 だが佑は「一杯目はハイボールって決めてるから、じっくり見ていいよ」とメニューを押しやった。

「桃の時期なんだね。私、桃大好き」

 季節のメニューと銘打った写真に、フルーツをふんだんに使った物が載っている。
 確か初めてここに来た時は、洋梨のカクテルだった。

 あの美味しさを思い出し、香澄は自然と笑顔になる。

「白桃のカクテルにしよっと」
「フードメニューはいいか?」
「今日はもう先にレストランでしっかり食べちゃったし、おつまみ程度なら」

 ひとまず一杯目のドリンクを頼み、二人は何とはなしに夜景を見る。

「……今回、連れてきてくれてありがとう」

 ポツンと呟き、香澄は正面から佑に微笑みかけた。

「色々あって、まだちゃんとお礼言えてなかった。自分で帰省しようと思ったら飛行機代とか掛かって、手続きも大変だった。私、自分の事ばっかりでダメだね」

 自嘲めいた笑みを浮かべると、佑が首を横に振る。
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