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第七部・双子襲来 編

私は、佑さんを心配させてはいけない

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 佑も香澄に尋ねられた時、正直どこまで話したものかと悩んだ。

 しかし彼女はぼんやりしているようできちんと〝女性〟で、〝女の勘〟も兼ね揃えている。

 佑もある程度自分という男のスペックや需要を分かっているつもりだし、「何もない」と誤魔化す事の愚かさを分かっている。

 いつもの感じで彼女を甘やかして「愛している」と言って誤魔化しても、香澄の中で疑惑と不安は膨らんでいくだろう。

 それなら結婚相手としての香澄を信じて、一か八かですべてを打ち明けた方がいいのではないか。

 思い切って話してみての今なのだが……。

 彼女は怒って席を立つような真似はしない。
 しかし気分を害しているのは目に見えて分かる。

 せっかく香澄の帰省に付き合い、墓参りも一緒に……と札幌に来たのに、どうしてこうなったのか。

 香澄は窓の外を見て、何かを考えながら時折瞬きをしている。

「……怒ったか?」

 佑は溜め息を隠し、彼女に尋ねる。

 機嫌を損なったのなら、どんな事をしてでも仲直りしたい。
 香澄にはどんなみっともない手段を使ってでも、手放したくないと思える価値がある。

 自分の暗黒期をきちんと話した上で、許してもらえたら……とずるい事を考えている自分がいた。
 男の性欲や、佑の「誰でもいいから寂しさを満たしてほしい」という独りよがりな想いを、彼女のような綺麗な人に理解してもらいたいとは思っていない。

「俺はこんなにつらかったんだ」と主張して彼女の同情を引くのは、いけない事だ。

 だからどんな罰でも受け入れる気持ちで、佑はただ彼女の機嫌を窺った。





 佑の問いを聞き、香澄は瞬きをしてから視線を遠くから近くに戻す。
 窓ガラスには自分が映っていて、少し怒ったような顔をしている。

(可愛くない顔してる。せっかく思い出のホテルに来て、ディナーなのに。これじゃ駄目だ。すぐ気持ちを切り替えよう)

 そう思うのだが、佑が自分以外の誰かを抱き、気持ちがなくても口淫をさせ手で出してもらっていたと思うと、胸の奥がムカムカする。

 ――でも。

(仕方ないんだ。私だって健二くんとしてしまった。佑さんだって健康な男性だもん。今はもう三十二歳だよ? 子供がいてもおかしくない年齢なのに、女性関係が何もなくてクリーンな方がおかしいでしょ。逆にこの年齢で童貞の方が、〝訳アリ〟なんだなって思っちゃう)

 自分に言い聞かせ、心の中にいる「やだやだ」と我が儘を言う自分を往復ビンタする。

「――うん」

 息を吸って吐き、頷く。
 ひとまず即興的だが気持ちの切り替えはできた。

 佑を見ると、「怒ったか?」と尋ねたあとだったので、香澄の反応を見て不安げな表情をしている。

(こんな顔をさせちゃ駄目だ。私は、佑さんを心配させてはいけない)

 香澄は顔を上げ、佑を真正面から見つめた。
 その視線に彼はたじろぎ、怯えの色すらその目に宿す。

(私が怒って『別れる』って言うとでも思ってるのかな)

 そう思うと、彼には悪いけれどちょっとだけ愉快になり、気持ちが明るくなる。
 そして自然と笑顔になると、冗談めかして言った。

「佑さん。この先一生、そこの……ズボンの下に隠れているモノを、私以外の女性に使ったら駄目ですよ?」
「あ、ああ。当然だ」

 彼は一旦の許しを得て、あからさまに安堵した表情をしている。

「今日、お部屋に帰ったら私が一番いいんだって事、教え込んでやるんだから」

 香澄は少し悪戯っぽく笑い、ヒールのつま先でトンと彼の靴を蹴った。
 佑はゆっくりと、けれどまだぎこちなく微笑む。

「それは……、許してくれたって事か?」
「過去の佑さんは私のものじゃない。でも、これからの佑さんは、全部私のものだっていう事です」

 彼女の言葉に、佑は甘やかに微笑む。

「その通りだ。俺の体も、心も、財産もすべて香澄に捧げる」
「財産とかはいいの!」

 相変わらずな彼に溜め息をつき、香澄は赤ワインをクーッと呷る。

「おいし。……ごめんね。私が変な事を聞いたから、こういう話になったんだよね。それは本当にごめんなさい。今さらだけど、美味しく食べようね」

 タイミング良くそこでデザートのティラミスが運ばれてきた。
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