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第七部・双子襲来 編

時差ありメッセージ

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「やだ、私アホだ。アホの子だ。でも格好いい……。そうだ、新鮮なうちに保存しないと」

 写真に鮮度も何もないのだが、佑の事になると香澄も大概おつむが弱くなる。
 送られた画像を保存し、フォトアルバムに移ったか確認してまたニヤニヤする。

『元気充電できました。ありがとう!』

 やっと返事をすると、酔っているのか変な要求がくる。

『谷間が見たい』

「もー……」

 これが好きでない相手なら気持ち悪い事この上ないのだが、佑なら恥ずかしくもちょっと嬉しい。
 そしてホイホイと言う事を聞いてしまうのも、惚れた弱みなのだろうか。

 インカメラのまま、ワンピースの襟を少し引っ張り中身を写す。

「……恥ずかしい」

 自分で性的な写真など撮った事がないので、どんな風になっているのか慌てて確認した。
 ほとんど影になっていてよく分からないが、ホワンとした胸と谷間があるのは分かる。

「……こんなんでいいのかな」

 こちらを加工する気にはなれず、そのままの写真を送ってみる。
 しばし沈黙があり、三十秒後ほどになって返事がきた。

『ありがとう。今夜はこれをおかずにする』

「おか……っ」

 カァッと赤面し、急に「送らなければ良かった!」と恥ずかしさが襲ってくる。

『高いホテルにいるんだから、そんな事したらダメ』
『香澄を連れてきたら直接抱くんだから、大して変わらないよ。むしろ我慢してる俺を褒めて』

「もー……。……ふふ、ふふふふ……」

 いつの間にか香澄は笑い出し、甘い気持ちに満たされていた。

「仕方がないんだから、もう」

 コロンとソファの上に転がり、スマホを抱き締めて佑を想う。

『明日もお仕事あるんでしょう? 帰りは何時のフライト?』
『夕方まであちこち回って、夕食のあとにホテルで少し休んでから、夜二十二時くらいに発つよ。そしたら羽田に午前中に着けるから。何かお土産に欲しい物はある?』

『ううん。最近おやつ沢山食べちゃったから、特にいいよ』
『お菓子とは言ってないじゃないか。パリにしかない香水とか、本店があるからブランドバッグとか……』
『そういうのはいいの。ちゃんと無事に帰ってきて?』

 返信に間が空き、佑が溜め息をついたのを分かった気がした。

『香澄は本当に無欲だな。本当に欲しい物はない? 帰国してからでもいいよ』

「欲しい物は本当にないんだけどなぁ……」

 呟いてから考えてみるが、本当に思いつかない。
 毎日満たされすぎて、もう物欲というものがほぼなくなっていた。

「あ」

 欲しい物云々より、別の問題があるのを思い出した。
 少し迷ってから、トントンと返事を打つ。

『帰ったら、その。……怒らないでね?』

 こんな言い方をしたら、彼は何の事やら分からないだろう。

 その上で、先出しじゃんけんをしてしまっている自分をずるいと自覚する。
 こんな風に言えば、優しい佑は「怒らないよ」と言うに決まっている。

『よく分からないけど、俺が香澄を怒るはずがないだろう』

 返事があったあと、間髪入れず次のメッセージがきた。

『まさかまた怪我をしたのか!?』

「ち、違う違う」

 思わず口に出して首を振りつつも、何があっても心配してくれる佑が愛しくて堪らない。

『それはありません。ピンピンしてるよ。脚もサポーターに変わって軽くて歩きやすいし』
『なら良かった』

 また少し沈黙が訪れたあと、香澄はトーク画面を見て微笑む。

「『早く寝てね』、と」

 メッセージを打ち込むと、佑からも『おやすみ』と返事があった。
 その後にお互いスタンプで会話の終了を告げる。

「ふう……」

 スマホを置いて白湯の入ったカップに口を付けると、ほとんど冷めてしまっていた。
 それでも香澄の心はホカホカと温かく、幸せに満たされている。

「もうすぐ会えるんだ」

 自分に言い聞かせたあと、今日は双子をどうもてなすか考え始めた。



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