上 下
315 / 1,544
第七部・双子襲来 編

自撮りの送り合い

しおりを挟む
(会いたいなぁ。ちょっと出張で会えないぐらいで〝こう〟だなんて、駄目だな私。こんな女だなんて、思いもしなかった)

 香澄としては仕事と恋愛はきちんと分けて、何事も納得した上で過ごせるつもりだった。
 彼の仕事関係でどんな事があっても、秘書としての自分をわきまえ、恋人である自分はもっと奥に引っ込ませて、彼に不満を持たないようにできる……つもりだった。

 けれど蓋を開けてみれば、怪我をして同じ職場で働けないフラストレーションがあるとはいえ、自宅で「佑さん、佑さん」ばかり。

 目を閉じると、佑の香りに包まれて手でポンポンと頭を撫でられる想像をする。

(佑さんの香水、こっそりつけちゃおうかな。それで私のネクタリンと重ねたら……、ちょっと元気出るかも)

 そんな事を考え、自分の〝恋する乙女脳〟に思わず笑ってしまう。

「……佑さん……。好き……」

 彼の子供時代や大学生時代の事を双子から聞いたが、もっと彼を好きになり、さらに「知りたい」と思うようになった。

「お二人の様子だと、エミリアさんとは本当に何でもないようだし……。もっと佑さんを信じないと」

 そのためには、自分に自信を持てるようになりたい。

 そう考えながら、気分を変えるためにバスオイルに手を伸ばし、キャップ一杯のスイートペアーをトロリと垂らした。



**



 ありがたい事に夜は何も起こらなかった。

 翌朝、香澄は覚醒したあとにソロォ……と目を開き、そちらを見る前に手探りをして、側に誰も寝ていない事を確認した。

「……よし」

 起床と共に〝確認〟が必要というのも、なかなか緊張感がある。
 それでも、〝ルール〟をきちんと守ってくれた二人への好感度と信頼が、抜群に上がった。

「なんだ、もっと信頼してもいいじゃない」

 一気に気持ちが楽になったあと、香澄は楽なワンピースに着替え、洗面所に向かう。
 身支度を整えて廊下に出ると一階も三階もシンとしている。

(まだ寝てるか。時差もきついもんね。ゆっくり寝かせてあげよう)

 時計を見ればまだ七時台で、香澄はリビングまで下りるとボリュームを小さくしてテレビをつけた。
 いつものようにマグカップに白湯を入れて飲み息をつく。
 佑がとっている新聞はすべて電子版なので、朝にポストまで行くという習慣はない。

(ゴミ出しも今日はなし、と)

 ソファに座ってのんびりしていると、佑からメッセージがあった。

『眠い。飲まされた』

 珍しく弱音を吐く彼に、香澄はクスッと笑う。

『早く寝てください』
『香澄の自撮りが見たい。いまそっち朝だろ? 香澄の可愛いすっぴん見せて』

「もー……」

 すっぴんが可愛いと言われても、微妙な気持ちだ。

 それでも香澄はスマホをインカメラにすると、努めて笑って自撮りをした。
 カシャッと音がして確認してみると、ごくごく普通の自分の顔がある。

「……相変わらず写真写り悪いな」

 そう言いながら、香澄は加工アプリを開いてサッサッと加工していく。

 特に、美白やメイク効果のあるアプリを使っている訳ではないが、食べ物や風景の写真を撮る時に使っている物だ。
 明るさや彩度などの調整、それに少しこなれた写真に見えるよう、ぼかしやグロー効果ぐらいなら、使いこなせるようになっている。

 それで健康的な表情に見えるよう、明るさを調節したあと、佑にポンと送った。
 するとすぐに返事がくる。

『可愛い。無理。抱きたい』

(あー……。語彙が少なくなってる。本当に疲れてるんだなぁ)

 彼の反応に、思わず笑う。

『送りましたから、早く寝てください。あ、でも私の写真送ったんだから、佑さんの自撮りもほしい』

 佑の写真なら、何枚だってほしい。
 欲を込めてメッセージを打つと、十秒もかからず画像が送られてきた。

「……んーっ」

 それを見た瞬間、香澄は思わずうなっていた。

 送られてきた写真は、ホテルの部屋にいる佑がソファに座っている姿だ。
 くつろいでいるのか、上半身裸で逞しい胸板も見えている。
 間接照明に照らされた室内で、佑の美貌と引き締まった体に陰影ができ、鼻血が噴き出そうなセクシーさだ。

「やだあああ……格好いい……無理。格好いい……」

 香澄はスマホを抱えてもだもだと体を揺すり、また写真を見ては天井を見上げてキュンキュンとときめく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

処理中です...