310 / 1,559
第七部・双子襲来 編
双子から聞く佑の子供時代
しおりを挟む
「エミの写真は見た?」
「あ、はい。……綺麗な人ですね」
佑から見せられた写真を思い出し、胸の奥がモヤッとする。
ゴージャスな金髪に青い目を持つ美女。
平均的な日本人の容姿を持つ香澄からすれば、女神のような美女だ。
「エミはカスミと同い年で、僕らとは幼馴染みだ。タスクは子供の時からちょくちょくドイツに来ていた。僕らとタスクの初対面は、タスクが四歳の時だね。本当は生まれて間もなく、飛行機に乗れるようになってからオーパたちに顔を見せにきてたみたい。ただ、物心ついてタスクが『ドイツに行った』って自覚したのは、それぐらいの年齢かな」
クラウスの言葉に、アロイスが相槌を打つ。
「そのとき俺たちは五歳。まー、ヤンチャだったらしいから、遊びに誘って怪我もしたね。城の敷地内でカートぶっぱなしたり」
「もぉ……」
城持ちの貴族ならではの遊戯に、気が遠くなる。
「本当はオーパ、タンテが日本に行くって決めた時は、相当怒ってモメたらしいよ。愛妻の母国であっても、やっぱりドイツを離れるのは心配だったんでしょ。それでもタンテがタスクを連れてきて、随分と関係が改善されたみたいだ。あの爺さん、子供に弱いから」
クラウスが笑って肩をすくめると、アロイスも相槌を打つ。
「そうだね。タンテは長女だから初めての女の子っていう事で、オーパも大事にしてたんだろうねぇ」
「そういうところは、日本も海外も同じなんですね」
思わず微笑み、香澄はワインを口にする。
あのアンネもかつては少女で、ドイツで娘時代を過ごしていたのだ。
衛との出会いは、衛が旅行でドイツを訪れた際、ひょんなきっかけでアンネと話す事になり、彼女が一目惚れをしたのだと言う。
そこからアンネの心は日本に染まったらしい。
アンネが日本へ来た直後、節子の実家――大手車企業の竹本家で、随分と世話になったそうだ。
アンネから見れば祖父母の家なので、慣れない日本に来ての強力なサポートはありがたかっただろう。
しかしおんぶにだっこは申し訳ないと、投資で儲けた金を元手に池田山に家を構え、本格的に日本での生活を送っていたようだ。
投資家として稼ぐ傍ら、竹本家の家族に招かれて日本国内の要人ネットワークを築いていった。
日本の富裕層としても、あのクラウザー家の令嬢とお近づきになれるのなら「喜んで」と言っただろう。
ちなみに佑が不可抗力でお見合いをしてしまった小野瀬家は、その頃にアンネが竹本家づたいに紹介してもらったらしい。
「それで、タスクがドイツに来た時につまんなさそうにしてたから、僕たちの幼馴染みのエミを紹介したんだ」
(何してくれてるんですか)
思わず心の中で突っ込んだが、仕方のない事なのだろう。
当時の佑はきっと問題なくドイツ語を話せていただろうが、日本人気質の彼がパリピ双子とすぐ仲良くなれたのかは疑問でしかない。
様々な人と交流して、その中で本当に仲良くできる人を見つけるのが基本だが、当時の佑にまず接するのは〝ドイツの親戚〟しかいなかった。
その中で同い年ぐらいの友達を作るには、年齢の近い双子の知り合いか、アドラー達に紹介されるぐらいしかとっかかりがない。
佑がもっと年上だったなら、自分で色んな人に話しかけていっただろう。
しかしその時の佑はまだ四歳で、親の言う事を素直に聞く年齢だった。
「繋がりは理解しましたが、男女として意識し合ったりとかは、……なかったんですか?」
気になっている事を尋ねると、アロイスが肩をすくめる。
「少なくともタスクはなかったんじゃないかな? 異文化に放り込まれてドイツ人を好きになるより、住み慣れた日本で見慣れた日本人を好きになる方が普通でしょ」
「そう……ですね……」
香澄はユラユラとワイングラスを揺らす。
「こう言うと可哀相だけど、ある程度大きくなったあと、エミはちょっとタスクに気があったみたいだけどね? タスクって基本的に女の子に優しかったからね。日本人なのも珍しかったんじゃない? 一緒に遊んだ女の子たちも何人か、タスクの事を『いい』って言ってた」
「んー…………」
ワイングラスを置き、香澄は溜め息をつく。
「カスミ、ごめんね? 分かってるだろうけど、今のタスクは呆れるぐらいカスミ一筋だよ。当時の女の子たちも、〝昔会った事のなる男の子〟ぐらいしか思ってないよ? もしかしたら覚えてないかもだし」
珍しくクラウスがフォローしてくれる。
「分かりました。ありがとうございます。何か、面倒くさい事を聞いてごめんなさい」
「あはは! ホントに面倒だね」
明るく切り捨てられ、「うっ」となるものの、笑い飛ばしてもらえてありがたい。
「あ、はい。……綺麗な人ですね」
佑から見せられた写真を思い出し、胸の奥がモヤッとする。
ゴージャスな金髪に青い目を持つ美女。
平均的な日本人の容姿を持つ香澄からすれば、女神のような美女だ。
「エミはカスミと同い年で、僕らとは幼馴染みだ。タスクは子供の時からちょくちょくドイツに来ていた。僕らとタスクの初対面は、タスクが四歳の時だね。本当は生まれて間もなく、飛行機に乗れるようになってからオーパたちに顔を見せにきてたみたい。ただ、物心ついてタスクが『ドイツに行った』って自覚したのは、それぐらいの年齢かな」
クラウスの言葉に、アロイスが相槌を打つ。
「そのとき俺たちは五歳。まー、ヤンチャだったらしいから、遊びに誘って怪我もしたね。城の敷地内でカートぶっぱなしたり」
「もぉ……」
城持ちの貴族ならではの遊戯に、気が遠くなる。
「本当はオーパ、タンテが日本に行くって決めた時は、相当怒ってモメたらしいよ。愛妻の母国であっても、やっぱりドイツを離れるのは心配だったんでしょ。それでもタンテがタスクを連れてきて、随分と関係が改善されたみたいだ。あの爺さん、子供に弱いから」
クラウスが笑って肩をすくめると、アロイスも相槌を打つ。
「そうだね。タンテは長女だから初めての女の子っていう事で、オーパも大事にしてたんだろうねぇ」
「そういうところは、日本も海外も同じなんですね」
思わず微笑み、香澄はワインを口にする。
あのアンネもかつては少女で、ドイツで娘時代を過ごしていたのだ。
衛との出会いは、衛が旅行でドイツを訪れた際、ひょんなきっかけでアンネと話す事になり、彼女が一目惚れをしたのだと言う。
そこからアンネの心は日本に染まったらしい。
アンネが日本へ来た直後、節子の実家――大手車企業の竹本家で、随分と世話になったそうだ。
アンネから見れば祖父母の家なので、慣れない日本に来ての強力なサポートはありがたかっただろう。
しかしおんぶにだっこは申し訳ないと、投資で儲けた金を元手に池田山に家を構え、本格的に日本での生活を送っていたようだ。
投資家として稼ぐ傍ら、竹本家の家族に招かれて日本国内の要人ネットワークを築いていった。
日本の富裕層としても、あのクラウザー家の令嬢とお近づきになれるのなら「喜んで」と言っただろう。
ちなみに佑が不可抗力でお見合いをしてしまった小野瀬家は、その頃にアンネが竹本家づたいに紹介してもらったらしい。
「それで、タスクがドイツに来た時につまんなさそうにしてたから、僕たちの幼馴染みのエミを紹介したんだ」
(何してくれてるんですか)
思わず心の中で突っ込んだが、仕方のない事なのだろう。
当時の佑はきっと問題なくドイツ語を話せていただろうが、日本人気質の彼がパリピ双子とすぐ仲良くなれたのかは疑問でしかない。
様々な人と交流して、その中で本当に仲良くできる人を見つけるのが基本だが、当時の佑にまず接するのは〝ドイツの親戚〟しかいなかった。
その中で同い年ぐらいの友達を作るには、年齢の近い双子の知り合いか、アドラー達に紹介されるぐらいしかとっかかりがない。
佑がもっと年上だったなら、自分で色んな人に話しかけていっただろう。
しかしその時の佑はまだ四歳で、親の言う事を素直に聞く年齢だった。
「繋がりは理解しましたが、男女として意識し合ったりとかは、……なかったんですか?」
気になっている事を尋ねると、アロイスが肩をすくめる。
「少なくともタスクはなかったんじゃないかな? 異文化に放り込まれてドイツ人を好きになるより、住み慣れた日本で見慣れた日本人を好きになる方が普通でしょ」
「そう……ですね……」
香澄はユラユラとワイングラスを揺らす。
「こう言うと可哀相だけど、ある程度大きくなったあと、エミはちょっとタスクに気があったみたいだけどね? タスクって基本的に女の子に優しかったからね。日本人なのも珍しかったんじゃない? 一緒に遊んだ女の子たちも何人か、タスクの事を『いい』って言ってた」
「んー…………」
ワイングラスを置き、香澄は溜め息をつく。
「カスミ、ごめんね? 分かってるだろうけど、今のタスクは呆れるぐらいカスミ一筋だよ。当時の女の子たちも、〝昔会った事のなる男の子〟ぐらいしか思ってないよ? もしかしたら覚えてないかもだし」
珍しくクラウスがフォローしてくれる。
「分かりました。ありがとうございます。何か、面倒くさい事を聞いてごめんなさい」
「あはは! ホントに面倒だね」
明るく切り捨てられ、「うっ」となるものの、笑い飛ばしてもらえてありがたい。
43
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる