上 下
310 / 1,544
第七部・双子襲来 編

双子から聞く佑の子供時代

しおりを挟む
「エミの写真は見た?」
「あ、はい。……綺麗な人ですね」

 佑から見せられた写真を思い出し、胸の奥がモヤッとする。

 ゴージャスな金髪に青い目を持つ美女。
 平均的な日本人の容姿を持つ香澄からすれば、女神のような美女だ。

「エミはカスミと同い年で、僕らとは幼馴染みだ。タスクは子供の時からちょくちょくドイツに来ていた。僕らとタスクの初対面は、タスクが四歳の時だね。本当は生まれて間もなく、飛行機に乗れるようになってからオーパたちに顔を見せにきてたみたい。ただ、物心ついてタスクが『ドイツに行った』って自覚したのは、それぐらいの年齢かな」

 クラウスの言葉に、アロイスが相槌を打つ。

「そのとき俺たちは五歳。まー、ヤンチャだったらしいから、遊びに誘って怪我もしたね。城の敷地内でカートぶっぱなしたり」

「もぉ……」

 城持ちの貴族ならではの遊戯に、気が遠くなる。

「本当はオーパ、タンテが日本に行くって決めた時は、相当怒ってモメたらしいよ。愛妻の母国であっても、やっぱりドイツを離れるのは心配だったんでしょ。それでもタンテがタスクを連れてきて、随分と関係が改善されたみたいだ。あの爺さん、子供に弱いから」

 クラウスが笑って肩をすくめると、アロイスも相槌を打つ。

「そうだね。タンテは長女だから初めての女の子っていう事で、オーパも大事にしてたんだろうねぇ」
「そういうところは、日本も海外も同じなんですね」

 思わず微笑み、香澄はワインを口にする。

 あのアンネもかつては少女で、ドイツで娘時代を過ごしていたのだ。

 衛との出会いは、衛が旅行でドイツを訪れた際、ひょんなきっかけでアンネと話す事になり、彼女が一目惚れをしたのだと言う。
 そこからアンネの心は日本に染まったらしい。

 アンネが日本へ来た直後、節子の実家――大手車企業の竹本家で、随分と世話になったそうだ。
 アンネから見れば祖父母の家なので、慣れない日本に来ての強力なサポートはありがたかっただろう。

 しかしおんぶにだっこは申し訳ないと、投資で儲けた金を元手に池田山に家を構え、本格的に日本での生活を送っていたようだ。

 投資家として稼ぐ傍ら、竹本家の家族に招かれて日本国内の要人ネットワークを築いていった。
 日本の富裕層としても、あのクラウザー家の令嬢とお近づきになれるのなら「喜んで」と言っただろう。

 ちなみに佑が不可抗力でお見合いをしてしまった小野瀬家は、その頃にアンネが竹本家づたいに紹介してもらったらしい。

「それで、タスクがドイツに来た時につまんなさそうにしてたから、僕たちの幼馴染みのエミを紹介したんだ」

(何してくれてるんですか)

 思わず心の中で突っ込んだが、仕方のない事なのだろう。

 当時の佑はきっと問題なくドイツ語を話せていただろうが、日本人気質の彼がパリピ双子とすぐ仲良くなれたのかは疑問でしかない。

 様々な人と交流して、その中で本当に仲良くできる人を見つけるのが基本だが、当時の佑にまず接するのは〝ドイツの親戚〟しかいなかった。
 その中で同い年ぐらいの友達を作るには、年齢の近い双子の知り合いか、アドラー達に紹介されるぐらいしかとっかかりがない。

 佑がもっと年上だったなら、自分で色んな人に話しかけていっただろう。

 しかしその時の佑はまだ四歳で、親の言う事を素直に聞く年齢だった。

「繋がりは理解しましたが、男女として意識し合ったりとかは、……なかったんですか?」

 気になっている事を尋ねると、アロイスが肩をすくめる。

「少なくともタスクはなかったんじゃないかな? 異文化に放り込まれてドイツ人を好きになるより、住み慣れた日本で見慣れた日本人を好きになる方が普通でしょ」

「そう……ですね……」

 香澄はユラユラとワイングラスを揺らす。

「こう言うと可哀相だけど、ある程度大きくなったあと、エミはちょっとタスクに気があったみたいだけどね? タスクって基本的に女の子に優しかったからね。日本人なのも珍しかったんじゃない? 一緒に遊んだ女の子たちも何人か、タスクの事を『いい』って言ってた」

「んー…………」

 ワイングラスを置き、香澄は溜め息をつく。

「カスミ、ごめんね? 分かってるだろうけど、今のタスクは呆れるぐらいカスミ一筋だよ。当時の女の子たちも、〝昔会った事のなる男の子〟ぐらいしか思ってないよ? もしかしたら覚えてないかもだし」

 珍しくクラウスがフォローしてくれる。

「分かりました。ありがとうございます。何か、面倒くさい事を聞いてごめんなさい」
「あはは! ホントに面倒だね」

 明るく切り捨てられ、「うっ」となるものの、笑い飛ばしてもらえてありがたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

処理中です...