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第七部・双子襲来 編

二通目のメール ★

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「や。これでもかってぐらいカスミのいいトコ出してて、すげぇ悔しい。ちょっとでも外したアイテムあったら、後で馬鹿にしてやったのに」

 アロイスが唇を尖らせて不満を表し、香澄はホッとする。

「お二人はやっぱり、そういう所は厳しいんですね。いっつもふざけた印象しかないので、ちゃんとアパレルの社長さんやってるんだなってちょっと感動しました」

「何気にディスってる!」
「だからカスミ大好き!」

 ゲラゲラと双子が笑い、香澄は笑っていいのだか分からず苦笑いをする。

「とりあえず出掛けよっか。僕らちょっと表参道で一時間ぐらいウォッチしたい。あそこってテラスあったよね?」
「あ、はい。確かあったと思います。それなりに混雑は見込みますが」

「俺たちも一応バカンスだし、時間はゆっくり使うよ。並ぶくらいならカスミも足そんなに辛くないよね?」
「はい、大丈夫です」

 外にはアロイスとクラウスが連れてきたらしい、ドイツ人の運転手が控えていた。

 車も日本に車庫を借りて置いてあるのか、クラウザー社の車だ。
 香澄は助手席に乗ろうとするのだが、強引に後部座席の真ん中に座らされてしまった。

「あーあ。やっぱり東京にマンションでも借りようか。広い所がいい」
「そうだな。毎回ホテルでもいいんだけど、好き勝手できる環境とどっちがいいんだろうなぁ」

 双子が泊まっているホテルなら一流ホテルに決まっているし、借りる・買うにしても高級マンションに決まっている。

(神々の遊戯……っていう感じだなぁ)

 ぼんやりと車に揺られていると、「でさ」とクラウスに肩を抱かれる。

「な、なんですか?」

 懸命にその手を外そうと試みると、反対側からアロイスの手が逆の肩を組む。

「包み隠さず教えてほしいんだけど」
「……な、なんでしょう。ものによります」

 クラウスからマリン系の香りがする。爽やかでほんのり甘く、彼に似合っている。

「前にコネクターナウで遣り取りした時、カスミちょっと様子変だったじゃん? 僕が電話した時」
「あ、あー……」

 謎のメールをもらった時の事で、香澄は微妙な表情になる。

「あれって結局何だったの? タスクと喧嘩でもした? あいつ浮気でもした? 殴っとく?」

 アロイスが顔を寄せてくる。
 心配してくれるのはありがたいが、距離が近い。

「本当に何でもないんです」
「何でもないって声じゃなかったけどなー」

 パッと香澄の肩を解放し、クラウスは車の天井を見上げた。

「僕ら、カスミを女の子としてどうこうはまぁ半々だけど、親戚として受け入れる気持ちは満々だよ? カスミが今にも泣き出しそうな声してたら、味方になりたい、力になりたいって思うのそんなに迷惑?」
「え……と」

 珍しく真剣モードで、香澄はたじろぐ。
 アロイスも手を離し、ゆったりと脚を組んだ。

(ここで断ったら、失礼になるな……)

 思えばあの時、佑もアドラーに相談をしていた。

 双子には言わないようにと言っていたが、ここまで真剣に心配してくれているならいいのではないだろうか?
 茶化して騒ぎ立てないようお願いすれば、きっと何とかなりそうな気がする。

「変なメールが……来てまして」
「メール?」

 クラウスが眉を上げ、青い目をぱちくりと瞬かせた。

「その……いわゆる恨み節的な、私の不幸を願うような感じでして」
「ふーん……。いまそのメールある?」

 アロイスが大きな掌を差しだすが、香澄は首を振る。

「アカウントとかフリーメールとか、色々変えてしまったんです。だから……」

 その時、あまりにタイミング良くスマホが通知を鳴らした。

「っ」

 ひくっと香澄の肩が跳ね、「まさかね……」と思わずバッグからスマホを取り出す。
 封筒にWメールのWが描かれたアイコンをタップすると、新規メールが太文字で表示される。

「――――」

 件名を見ただけで、胃の腑が冷たくなった。

『あんたなんか死ねば良かったのに』

 無言で手帳型のスマホケースを閉じる手に、クラウスの手が重なった。
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