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第六部・社内旅行 編

私ガバガバかな?

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「……ごめんなさい。すぐ……、集中するから」

 手で涙を拭うと、躊躇わず佑が屹立を引き抜いた。
 はね除けていた羽毛布団をバフッと被ると、佑は香澄を正面から抱き締める。

「香澄? 何でも言って」

 こちらを覗き込むヘーゼルの瞳は、香澄しか心配していない。
 愛されていると分かっているのに、彼女は弱音を口に出せずにいた。

 自分がされた仕打ちを知れば、佑は呆れてしまうかもしれない。

 秘書なのに社員にいじめられ、転ばされ、嘲笑されて泣き喚いた。
 そんな姿を佑が知ったら、きっと幻滅するだろう。

 香澄は佑が望むように、秘書として働き彼にインスピレーションを与える存在で、望む時に料理を作り彼のために笑って、セックスに応じられる存在でなければいけない。

 彼の側にいたい。

 ――ただそれだけなのに。

「香澄」

 強めに名前を呼ばれ、涙を拭われる。
 優しいキスをされた瞬間、心のダムが決壊してしまった。

「――――っわたしっ、ガバガバかなっ」
「は!?」

 いきなり訊かれた単語に、佑は素っ頓狂な声を上げる。

 ガバガバと言われ、意味は理解できたのだろう。
 だが純朴な香澄が、そんな言葉を口にすると思わなかった。

「私、佑さんと一杯してて、緩くなっちゃったのかな……っ」

「……なんでそんなこと訊くんだ? そんなことある訳ないだろ。さっき気持ち良すぎて、それほど動いてないのに中出しした俺はどうなる」

「だって……。今まで一杯したし」

 香澄も正直、ガバガバと言われる女性器がどんな状態なのか分かっていない。
 それでも佑と愛し合うようになって、日常的にセックスするようになった。

 飯山たちにも勘づかれ、だからガバガバとか風俗にいたなど、揶揄されたのだと思っている。

「普通に愛し合っているだけでそんな状態になる訳ないだろ。お産をした女性はどうなる」
「…………」

 飯山たちの事を口にできず、香澄は黙り込む。

「誰かに言われたのか?」





 佑はすぐ犯人を察した。

 それでも香澄の口からちゃんと明かされ、相談してくれないと正面から向き合えない。
 自分は香澄のすべてを知って一から百まで面倒を見る存在になってはいけないし、香澄も我慢しっぱなしで何も言えない人になってほしくない。

 だが香澄の気持ちも、ある程度分かるような気がした。

 子供が学校でいじめを受け、親に相談できない気持ちと似ているのだと思う。
 いじめられた自分を知れば、呆れられるとか嫌われるとか、そんな心配をしているのだろう。

 視線を落とし頑なに口を閉ざしている香澄に、佑はもう一度キスをした。





「香澄、俺はさっき香澄と結婚して幸せな家庭を築きたいと言った。俺たちは近いうちに本物の夫婦になる。子供ができたらもっと忙しくなるだろう。言いたい事をちゃんと言える間柄になろう」

「……うん」

「何でもあけすけにとは言わない。だが、二人の障害になりそうな事は、きちんと話し合っていこう?」

 佑の下半身で、熱がゆっくりと鎮静してゆく。
 それには構わず、彼は香澄の心を解きほぐす事に専念する。

 香澄はきゅうっと眉を寄せ、泣き出しそうな顔になってから佑の胸に顔を埋める。
 逞しい胸板に額をつけ、喉を震わせながらゆっくりと語り始めた。

「あの……ね」
「うん」

「……湯畑で飯山さんたちに会ったの」
「ん」

「会社休んでるのに温泉来ちゃって、すっごい気まずいなぁって思ってたの。でも何とか誤魔化して乗り切ろうと思ってたんだけど……」
「うん」

 背中を撫でられ、この世で一番大好きな声が相槌を打ってくれる。

「そうしたら……、会社休んでドイツ行って怪我をした事とか、仕事は河野さんがしてくれているとか……。事実なんだけど、嫌みみたいに聞こえちゃって」
「ん」

 さらなる言葉を求め、佑はトントンと背中をさすり香澄の額にキスをする。
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