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第六部・社内旅行 編

嫉妬するにも、自信がいる

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「好きなら好きって言えよ」

 子宮に響くような声を出されると同時に、秘唇を指でツゥッと撫で上げられる。

「っす、好きっ」

 上ずった悲鳴が浴室に反響し、二人の鼓膜を甘ったるく揺らした。

「どれぐらい好き? どの程度嫉妬する?」

 佑の指は蜜口には入らず、秘唇や後孔など敏感な場所をサワサワと撫でている。
 くすぐったく焦れったい感触に、香澄は腰を揺らし抱きつく腕に力を込めた。

「……美智瑠さんって人、ずっと気にしてる。エミリアさんも、会社の女性も、私の知らない佑さんが関わった過去の女性全員……っ、気になって仕方ないのっ」

 ――あぁ。
 ――言ってしまった。

 直後に後悔するけれど、もう遅い。

 ――こんな醜い感情、彼の前でぶちまけるつもりなかったのに。

 溜め息をつき、香澄は軽く佑を睨む。

 改めて、彼は香澄の感情を煽るのがうまい。

 嫉妬するきっかけがあると、それを絶妙に察知させてくる。
 わざと嫉妬させるというとタチが悪いけれど、最終的に「俺は香澄しか愛していないから、安心して」と、ドロドロに甘やかしてさらに依存するように仕向けてくるのだ。

 香澄がどれだけあがいても、結局は彼の掌の上でコロリと転がされてしまう。

(でも……。好きなんだもん)

 そしてみっともない姿を見せてしまった自分に、そんな言い訳をする羽目になる。
 自己嫌悪に陥っている香澄の耳元で、佑が呟いた。

「全部教えたら、落ち着く?」
「え?」

 水音をさせて身を起こすと、佑が真剣な目でこちらを見つめている。

「俺はすべて教えても構わない。特に秘密にする事じゃないし、もう全部終わった事だと思ってる。香澄はどうしたい? 全部聞いたら、安心する?」

 香澄は息をつき、考える。

「全部教えてもらえるって、魅力的だね。望む情報が全部手に入る。……でも、私は情報だけじゃなくて、それに付随する嫉妬っていう厄介な感情も得てしまう」

「……だな」

「『知らぬが仏』って言葉、あるもんね。『寝た子を起こすな』とか」

 佑はチュッと香澄の額にキスをして、頭を撫でてくる。
 そして、とんでもない独占欲を示してきた。

「本当は香澄が赤ちゃんの頃からの交友関係や、初恋が誰だったかとか、全部知りたい。呆れられてもいいから、すべてを知って、その頂点に俺がいるんだと満足したい」

「……佑さんらしいね」

 微かに笑い、香澄は自分と彼の差を痛感する。

 佑は自分に絶対の自信を持っている。

 どんな男にも負けず、自分だけが香澄の唯一の男だと信じて疑っていない。
 それだけの美貌や肉体、権力、財力、血筋、あらゆるものを持っている。

 けれど香澄は違う。

 一般家庭に生まれ、普通の公立学校を卒業し、大学は国公立には届かず、何とか私立の四年制に行かせてもらった。
 特に秀でたものはなく、可も不可も無い人生のなか自分なりに努力してきた。

「今まで頑張って生きてきました」とは胸を張って言えるが、誰かの人生を並べられ、より秀でている……とは言いがたい。

 普通だからこそ、自己肯定感がとても低くなる時もある。
 落ち込んだ時は、世界で一番自分が劣っていると感じる。

 そんな香澄が、御劔佑という有名人の女関係を聞いて、その女性たちと自分を比べないというのは無理だ。

 最終的に自分が選ばれたという事実は信じられる。
 けれど、顔も知らない元カノと自分を比べ、苦しんでしまうのがたやすく想像できる。

「……やめて、おく」

 どうせ自分に負けてしまう。

 そう考えて香澄は諦めた。

(佑さんと二人きりで温泉にいるっていうのに、この敗北感はなんだろう)

 思いきり抱きついて彼の肌を直に感じても、このスーパーエリートの特別である自覚なんて芽生えない。

 一生懸命佑の愛の言葉を信じようとしても、いざ彼が外出すれば「女性に会っているかもしれない」と泣きたくなる。

 我ながら、重たくて面倒くさくて仕方がない。

 それを、佑に知られたくなくて、必死に背伸びをして優秀な秘書になろうと頑張っている。

 その虚勢がなくなってしまったら、自分は男性に依存して、「私と仕事とどっちが大切なの?」などいう、なりたくない女性になってしまいそうだ。

(こんな臆病な女じゃなかったのに)

 世界一幸せな恋の代償が、こんなにつらいとは思わなかった。
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