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第六部・社内旅行 編

メール ★

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「ふんふん、なるほど」

 もう秋コスメの情報が出ていて、一年が経つのをとても早く感じる。
 それを言えばアパレル業界も、先天先手を取ってデザインをして商品開発をしているので、似たようなものだが。

「家族からも友達からもメールはなし、と」

 次々にメールをチェックしては弾いて……としていた時、妙なメールを見つけた。

「ん……?」

 それは英語の件名で『To Kasumi Akamatsu』と書かれてある。

「フィッシングかな? ……でもこういうのって、相手を特定して送らないと思うけど……。開くだけ開いても、URLを踏まなかったら大丈夫なんだっけ?」

 少し躊躇ってからメールを開くと、URLなどは何もない、短いメッセージがある。

『死ねば良かったのに』

「――――」

 文章を理解した瞬間、ゾァッと全身に鳥肌が立った。

 寝起きから佑の気遣いでフワフワと温かくなっていた気持ちが、すべて吹っ飛んでいった。
 ドクッドクッと心臓が高鳴り、それなのに体の末端が冷えていくのが分かる。

(動揺したら駄目だ)

 自分に言い聞かせ、香澄は深呼吸する。

「…………。まず、置いて」

 アプリを閉じてスマホを横に置き、まっすぐ前を向く。

 背筋を伸ばして両手を太腿の上に置くと、目を閉じて深呼吸をし、心の中で一から順番に数を数えていった。
 三十を数えるまで深呼吸し続けると、少し気持ちが落ち着いた。

 目を開くと、変わらず明るい日差しに包まれた御劔邸のリビングがある。
 遠くから街の喧騒が聞こえ、〝いつもの風景〟だと伝えてくる。

 ――けれど、香澄のスマホには異常事態がある。

「落ち着いて、もう一回見てみよう」

 まだ心臓がドキドキと嫌な音を立てているが、勇気を出してまたさっきのメールを開いた。
 そして、なるべく冷静に分析する。

「……件名は英語。差出人は……。このアルファベットと数字の羅列は、捨てアカウントだな。差出人のメールアドレスも当てにならない。メッセージの本文は日本語。……日本人が書いたとも考えられるし、海外の人が翻訳アプリを使ったとも考えられる」

 そこまで分析したが、それ以上分かる事は何もなかった。

 考えたくないが、仮にドイツ関連の人が犯人だったとする。

 メールが送られてきた時間は朝の五時五十三分。時差を考えれば、あちらでは大体夜の二十三時近くだ。
 日本でも、普通に出勤する人を思えばこの時間に起きている人は少なくない。

 そこまで考えた時、通知音がピコンッと甲高い音で鳴った。

「っわぁっ!」

 ビクッと肩が跳ね、両手でスマホを持っていた指が誤タップをし、入ったばかりの通知を開く。
 アプリが起動し、コネクターナウの双子とのトークルームが開かれた。

 相変わらず意味不明な雑談が延々と続いていたが、香澄が既読にしてしまった事で、あちらもいま香澄がアプリを開いていると気付いたようだ。

『香澄ー! おはよう! 飲んでるんだけど、こっち来ない?』

 まるで東京にいるような事を書いてくる。

 いつもなら笑ってしまうところだが、今は心臓がドッドッドッと不吉に鳴り、自分を落ち着かせるので精一杯だ。
 双子のおふざけにどう対応するか考える余裕もなく、香澄はただ画面を見て固まっていた。

 その間、双子からは今飲んでいる酒はなんという物だとか、料理の名前だの、写真が送られてきてせわしない。

 反応できずにいると、既読になったまま何も言わない香澄に異変を感じたのだろうか。

『おーい??? どうかした?』

 アロイスがメッセージを送ってきた直後、クラウスからコネクターナウの通話が掛かってきた。

「あ……っ、と、えっと」

 軽快なメロディーで着信音が鳴り、そこでやっと香澄は我に返った。
 さすがに画面を見ていると知られているのに電話に出ないのは悪い。

 まだ震えている手で画面をスワイプさせると、香澄はスマホを耳にあてがった。

『もしもし? カスミ?』
『あ……。も、もしもし……』

 覇気のない声で返事をすると、それで向こうも様子がおかしいと思ったようだ。

『いまタスクいないの? 一人? 何かあった?』

 畳みかけるように言われ、一つ一つとりあえず答えてゆく。
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