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第六部・社内旅行 編

不安の解消法

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 ロック画面はボリビアのウユニ塩湖に行った時の写真で、ホーム画面は佑と香澄のツーショットだ。
 おまけに佑が香澄の頬にキスをしている自撮り写真だ。

「……こ、これ壁紙にしてるの?」

 今まで佑のスマホを見た事のなかった香澄が、急に慌てだした。

「してるよ? 見せないけど香澄専用フォルダと、ツーショットフォルダもある。その中からお気に入りの写真で、定期的に壁紙を変えている」

「……バ、バカップル……」

 彼女の言葉に、佑は思わず笑う。

「おかしいかな?」
「い、いや。そうじゃなくて……。嬉しいの」

「そう? なら良かった。香澄は壁紙にしてくれていないのか?」

 ふと先日チラッと見た香澄のスマホの壁紙は、花の写真だった気がする。

 スマホの中身などプライベートなので、どうこう言うのはおかしいと分かっている。
 けれど自分だけ恋人の写真を壁紙にしていると思うと、自分ばかりが香澄を好きなように思えて少し寂しかった。

「だって誰かに見られて、迷惑がかかったら困るし」
「ん? 好きなアイドルや俳優の写真を壁紙設定している人は、ごまんといると思うけど? 俺は芸能人じゃないけど」

「そ、そうかな……?」
「ああ。……本当は壁紙にしたいと思ってくれている?」

 少し声を潜めて内緒話っぽく言うと、香澄がコソッと返事をした。

「勿論!」

(ああ可愛い!)

 内心悶えた佑は、ハッとして「話が逸れたな……」と反省する。

 そのあと彼は、コネクターナウを開いて双子とのグループトークルームを開く。
 そしてルームに送られてあった写真を、香澄に見せた。

「この人がエミリアだよ」

 写真は薄暗いバーでアロイスがスマホを持ち、セルフィーで四人を撮影した物だ。
 向かって右側からアロイス、クラウス、エミリア、佑の順番だ。

 佑からすれば何の事はない、ただの従兄と幼馴染みとのショットだが、香澄はしげしげとエミリアを見ている。

「美人……だね。本当にお嬢様っていう感じ」
「そうか? 俺にとってはただの幼馴染みだけど。……というか、ごく短期間向こうで一緒に過ごしていただけで、本当の意味での幼馴染みとは違う。正直、俺はパリで声を掛けられるまで忘れていたし」

 香澄は写真を見て、真剣な顔をしている。

(いつもの癖で、劣等感を覚えているのかな)

 正直、香澄とエミリアなら佑の中では比べようもない。
 だから香澄が嫉妬する気持ちがあまり分からない。

 けれど彼女の想いは真剣なのだから、それは認めなければと思った。

「俺は香澄が好きなんだけどな?」
「うん……」

 彼女の頬を指先でちょいちょいとつつくと、香澄は曖昧に笑う。

「俺はどうしたらいい?」

 香澄が求めるなら、百回だって「愛している」を言う。
 けれど彼女がそんな事を求めていないのも分かっている。

 香澄は佑を見つめて、困ったように笑った。

「ううん、私の問題」
「……そうか?」

「うん」

 あぁ。と佑は内心溜め息をつく。

 香澄はいつもこうだ。

 目の前で悩んでみせても、結局は自分で解決しようとする。
 安易に佑に頼らず、赤松家の家訓『自分の事は自分で』を実行するのだ。

 そういうところが好きだけれど、たまに寂しくも感じる。

 好きな女が不安になっているというのに、自分は何の役にも立てない気持ちになるのだ。
 けれど彼女が一旦そういうモードになってしまうと、なかなか頑固なのも分かっている。

 手段を変えた佑は、ちょいちょいと香澄を手招きし、口元に手を当てた。

「なぁに?」

 テーブル越しに香澄が前屈みになり、片耳を寄せる。

「帰ったらイチャイチャしよう」

 ボソボソ、とそれだけ囁く。
 顔を離すと、香澄は耳を差し出したまま赤くなって固まっていた。

 卑怯なやり方だが、手っ取り早いのは愛されていると実感する事だ。

「どうかな?」と様子を伺っていると、ようやく体を起こした香澄が小さく頷いた。

(よし!)

 心の中でガッツポーズをとり、佑は話題を変えてパリ出張での話をした。

 やがてオーダーしたうどんがテーブルに届くと、香澄も笑顔を見せ「美味しい、美味しい」と連発して食べてくれた。



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