238 / 1,550
第六部・社内旅行 編
不安の解消法
しおりを挟む
ロック画面はボリビアのウユニ塩湖に行った時の写真で、ホーム画面は佑と香澄のツーショットだ。
おまけに佑が香澄の頬にキスをしている自撮り写真だ。
「……こ、これ壁紙にしてるの?」
今まで佑のスマホを見た事のなかった香澄が、急に慌てだした。
「してるよ? 見せないけど香澄専用フォルダと、ツーショットフォルダもある。その中からお気に入りの写真で、定期的に壁紙を変えている」
「……バ、バカップル……」
彼女の言葉に、佑は思わず笑う。
「おかしいかな?」
「い、いや。そうじゃなくて……。嬉しいの」
「そう? なら良かった。香澄は壁紙にしてくれていないのか?」
ふと先日チラッと見た香澄のスマホの壁紙は、花の写真だった気がする。
スマホの中身などプライベートなので、どうこう言うのはおかしいと分かっている。
けれど自分だけ恋人の写真を壁紙にしていると思うと、自分ばかりが香澄を好きなように思えて少し寂しかった。
「だって誰かに見られて、迷惑がかかったら困るし」
「ん? 好きなアイドルや俳優の写真を壁紙設定している人は、ごまんといると思うけど? 俺は芸能人じゃないけど」
「そ、そうかな……?」
「ああ。……本当は壁紙にしたいと思ってくれている?」
少し声を潜めて内緒話っぽく言うと、香澄がコソッと返事をした。
「勿論!」
(ああ可愛い!)
内心悶えた佑は、ハッとして「話が逸れたな……」と反省する。
そのあと彼は、コネクターナウを開いて双子とのグループトークルームを開く。
そしてルームに送られてあった写真を、香澄に見せた。
「この人がエミリアだよ」
写真は薄暗いバーでアロイスがスマホを持ち、セルフィーで四人を撮影した物だ。
向かって右側からアロイス、クラウス、エミリア、佑の順番だ。
佑からすれば何の事はない、ただの従兄と幼馴染みとのショットだが、香澄はしげしげとエミリアを見ている。
「美人……だね。本当にお嬢様っていう感じ」
「そうか? 俺にとってはただの幼馴染みだけど。……というか、ごく短期間向こうで一緒に過ごしていただけで、本当の意味での幼馴染みとは違う。正直、俺はパリで声を掛けられるまで忘れていたし」
香澄は写真を見て、真剣な顔をしている。
(いつもの癖で、劣等感を覚えているのかな)
正直、香澄とエミリアなら佑の中では比べようもない。
だから香澄が嫉妬する気持ちがあまり分からない。
けれど彼女の想いは真剣なのだから、それは認めなければと思った。
「俺は香澄が好きなんだけどな?」
「うん……」
彼女の頬を指先でちょいちょいとつつくと、香澄は曖昧に笑う。
「俺はどうしたらいい?」
香澄が求めるなら、百回だって「愛している」を言う。
けれど彼女がそんな事を求めていないのも分かっている。
香澄は佑を見つめて、困ったように笑った。
「ううん、私の問題」
「……そうか?」
「うん」
あぁ。と佑は内心溜め息をつく。
香澄はいつもこうだ。
目の前で悩んでみせても、結局は自分で解決しようとする。
安易に佑に頼らず、赤松家の家訓『自分の事は自分で』を実行するのだ。
そういうところが好きだけれど、たまに寂しくも感じる。
好きな女が不安になっているというのに、自分は何の役にも立てない気持ちになるのだ。
けれど彼女が一旦そういうモードになってしまうと、なかなか頑固なのも分かっている。
手段を変えた佑は、ちょいちょいと香澄を手招きし、口元に手を当てた。
「なぁに?」
テーブル越しに香澄が前屈みになり、片耳を寄せる。
「帰ったらイチャイチャしよう」
ボソボソ、とそれだけ囁く。
顔を離すと、香澄は耳を差し出したまま赤くなって固まっていた。
卑怯なやり方だが、手っ取り早いのは愛されていると実感する事だ。
「どうかな?」と様子を伺っていると、ようやく体を起こした香澄が小さく頷いた。
(よし!)
心の中でガッツポーズをとり、佑は話題を変えてパリ出張での話をした。
やがてオーダーしたうどんがテーブルに届くと、香澄も笑顔を見せ「美味しい、美味しい」と連発して食べてくれた。
**
おまけに佑が香澄の頬にキスをしている自撮り写真だ。
「……こ、これ壁紙にしてるの?」
今まで佑のスマホを見た事のなかった香澄が、急に慌てだした。
「してるよ? 見せないけど香澄専用フォルダと、ツーショットフォルダもある。その中からお気に入りの写真で、定期的に壁紙を変えている」
「……バ、バカップル……」
彼女の言葉に、佑は思わず笑う。
「おかしいかな?」
「い、いや。そうじゃなくて……。嬉しいの」
「そう? なら良かった。香澄は壁紙にしてくれていないのか?」
ふと先日チラッと見た香澄のスマホの壁紙は、花の写真だった気がする。
スマホの中身などプライベートなので、どうこう言うのはおかしいと分かっている。
けれど自分だけ恋人の写真を壁紙にしていると思うと、自分ばかりが香澄を好きなように思えて少し寂しかった。
「だって誰かに見られて、迷惑がかかったら困るし」
「ん? 好きなアイドルや俳優の写真を壁紙設定している人は、ごまんといると思うけど? 俺は芸能人じゃないけど」
「そ、そうかな……?」
「ああ。……本当は壁紙にしたいと思ってくれている?」
少し声を潜めて内緒話っぽく言うと、香澄がコソッと返事をした。
「勿論!」
(ああ可愛い!)
内心悶えた佑は、ハッとして「話が逸れたな……」と反省する。
そのあと彼は、コネクターナウを開いて双子とのグループトークルームを開く。
そしてルームに送られてあった写真を、香澄に見せた。
「この人がエミリアだよ」
写真は薄暗いバーでアロイスがスマホを持ち、セルフィーで四人を撮影した物だ。
向かって右側からアロイス、クラウス、エミリア、佑の順番だ。
佑からすれば何の事はない、ただの従兄と幼馴染みとのショットだが、香澄はしげしげとエミリアを見ている。
「美人……だね。本当にお嬢様っていう感じ」
「そうか? 俺にとってはただの幼馴染みだけど。……というか、ごく短期間向こうで一緒に過ごしていただけで、本当の意味での幼馴染みとは違う。正直、俺はパリで声を掛けられるまで忘れていたし」
香澄は写真を見て、真剣な顔をしている。
(いつもの癖で、劣等感を覚えているのかな)
正直、香澄とエミリアなら佑の中では比べようもない。
だから香澄が嫉妬する気持ちがあまり分からない。
けれど彼女の想いは真剣なのだから、それは認めなければと思った。
「俺は香澄が好きなんだけどな?」
「うん……」
彼女の頬を指先でちょいちょいとつつくと、香澄は曖昧に笑う。
「俺はどうしたらいい?」
香澄が求めるなら、百回だって「愛している」を言う。
けれど彼女がそんな事を求めていないのも分かっている。
香澄は佑を見つめて、困ったように笑った。
「ううん、私の問題」
「……そうか?」
「うん」
あぁ。と佑は内心溜め息をつく。
香澄はいつもこうだ。
目の前で悩んでみせても、結局は自分で解決しようとする。
安易に佑に頼らず、赤松家の家訓『自分の事は自分で』を実行するのだ。
そういうところが好きだけれど、たまに寂しくも感じる。
好きな女が不安になっているというのに、自分は何の役にも立てない気持ちになるのだ。
けれど彼女が一旦そういうモードになってしまうと、なかなか頑固なのも分かっている。
手段を変えた佑は、ちょいちょいと香澄を手招きし、口元に手を当てた。
「なぁに?」
テーブル越しに香澄が前屈みになり、片耳を寄せる。
「帰ったらイチャイチャしよう」
ボソボソ、とそれだけ囁く。
顔を離すと、香澄は耳を差し出したまま赤くなって固まっていた。
卑怯なやり方だが、手っ取り早いのは愛されていると実感する事だ。
「どうかな?」と様子を伺っていると、ようやく体を起こした香澄が小さく頷いた。
(よし!)
心の中でガッツポーズをとり、佑は話題を変えてパリ出張での話をした。
やがてオーダーしたうどんがテーブルに届くと、香澄も笑顔を見せ「美味しい、美味しい」と連発して食べてくれた。
**
43
お気に入りに追加
2,552
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる