上 下
232 / 1,548
第六部・社内旅行 編

嫉妬確定

しおりを挟む
「河野が来たんだっけ?」

 徐々に気持ちが現実に戻り、佑はハンズフリーにすると、ベッドに横になって通話を続ける。

『うん。まじめでとっても優秀そうな人だね。語学も堪能でボディガードにもなって。本当に……うん。いい人を見つけたと思いました』

 その中に複雑な感情が込められているのに、その時の佑は気付いてやることはできなかった。

「まぁ、彼は若いしバリバリ働いてもらうよ」
『ふふ、なにその言い方。佑さんだってちょっとしか変わらないじゃない』

 二人してクスクスと笑い、少し沈黙が訪れる。
 やがて香澄が意外な事を尋ねてきた。

『ねぇ、佑さん。あの……変な意味じゃないけど、幼馴染みの女性ってどんな人?』

(妬いたのかな?)

 そう思った彼は、顔が見えないのにチラッとスマホの方を見る。

「あぁ、エミリアって言って、香澄より一つ上だ」
『やっぱり……金髪美女なの?』

(嫉妬確定……)

 申し訳ないが、少しの嬉しさもある。

「金髪碧眼ではあるかな。ドイツでは珍しくない色だよ」
『佑さんやお二人と幼馴染みっていう事は、お嬢様?』

「……ドイツでは有名な家かな。日本では馴染みがないが、保険を中心とした金融グループも営んでいる」
『ふぅん……』

 それきり香澄は黙ってしまった。

「本当に彼女とは特別な関係にないよ。何か気にしてる?」
『ううん。……うん、教えてくれてありがとう』

 努めて明るい声を出し、香澄は気を遣う。

『いまそっち深夜でしょう? パソコンで調べてびっくりしちゃった。もう寝て? 明日のスケジュールは分かってるけど、それでも夜はちゃんと寝ないと駄目』
「……ん」

 香澄の声を聞いているうちに、あれほど高鳴っていた心臓も落ち着いた。

「香澄、愛してる。香澄は?」

 けれど最後にどうしても、彼女からの愛の言葉を聞きたかった。

『ん……もぉ。斎藤さんもいるのに。……あ、愛してる、……よ』

 恥ずかしがって小声で言ってくれる香澄に、佑は笑みを漏らす。

「ありがとう。おやすみ。お土産ちゃんと買って帰るから」
『うん、急ぎで間に合わなかったら、全然いいからね? おやすみ』

 佑が通話口に向かってちゅ、とエアキスをしてみせると、向こうからも戸惑った間があってから、ほんの小さなちゅ、が聞こえた。
 嬉しくてクス……と笑うと、『ちゃんと寝てね?』と念を押されて香澄の方から電話を切った。

「……はぁー……」

 耳から一気に幸せな気持ちが広がり、悪夢を見て起きたあの絶望はどこかへ消えていた。

「やっぱり……生身だよなぁ。帰ったら本当に抱き潰そう」

 うん、と一人頷いてから、佑は大の字になる。

「早く帰りたいな……」

 呟いてから、今度は自分と香澄の幸せな夢をみようと試みた。



**



 翌日はホテルでゆったりと過ごした。

 と言っても、ロンドン市場の取引時間が始まる時間も近く、まずは新聞を読んでいた。
 電子版で定期購読している、日本国内と世界の経済誌に目を通し、世界中のニュースにもアンテナを立てておく。

 投資をするにあたって一番大切なのは、情報だ。

 やれどこの国のお偉いさんがどんな発言をした、となればそこの通貨、または会社の代表なら会社の株が大きく変化する。
 定期的に行われているアメリカでの金融会議なども注目されているし、何にしてもまずは情報だ。

 ようやく行動を開始しようという時になり、スマホを開くと双子とエミリアから連絡が入っていた。

『近いうちに日本に行きたい』と双子が言っているが、冗談ではない。
『国で仕事してろ』と打ち返したあと、双子からの連絡を通知オフにした。

 エミリアからは、社交的に『昨晩は久しぶりに話せて楽しかった』との事で、社交辞令で『また会えたら』と返しておく。

 贅を凝らした部屋でルームサービスを頼み、スケッチブックに向かって鉛筆を走らせる。

 頭の中には香澄の下着姿が浮かび、その体をマネキンに佑は何通りも服やアウター、下着からコスチュームまで、好きな物を描き殴った。
しおりを挟む
感想 555

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...