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第六部・社内旅行 編

独り寝

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 車窓からはパリ中心街の景色が見え、様々な人種が入り乱れ歩いている。

 佑はふと、「どうしてここに香澄がいないのだろう」と自分の隣を寂しく思うのだ。

『エミはその人を好きじゃないのか?』

 佑が尋ねると、エミリアはまた曖昧に笑う。

『いきなりパパから〝お前の結婚相手を見つけたぞ〟なんて言われた身にもなってみて? 一度会ってみたけど、つかみ所のない男性で……』

 綺麗にカールさせた毛先を弄び、エミリアはアンニュイに窓の外を見る。

『〝カイがシングルだったら、カイと結婚しても良かったかも〟なんて言うぐらいまで、追い詰められてるもんな?』
『ちょっと! アロ!』

 さすがにその言葉には、エミリアも隣に座っているアロイスを肘で小突いた。
 佑は前を向いたまま、そっと溜め息をつく。

『悪いな、エミ。俺は婚約者がいて絶賛ラブラブ中だ。その願いは叶えられないけど、エミのオヤジさんに一言いうぐらいならできるかもしれない』

 結婚の可能性はきっぱりと断っておきつつも、さすがに可哀相に思えたので、自分のできる事を提示する。
 しかしエミリアは困ったように笑い、首を横に振った。

『子供じゃないもの、断るぐらい自分でできるわ。でも……、いいわね。カイはいま幸せなのね』
『ああ、幸せだよ』

 佑が微笑むと、エミリアの笑顔に影が差す。
 しかし彼はそれに気付かないふりをした。

 それを察してか、いつもの空気の読まない人柄からか、クラウスが「Scheise(クソ)」と毒づく。

『カイの婚約者、すっごい可愛いヤパーナリンなんだよ。妬ける』
『カイの知らない場所に別荘作って、そこに閉じ込めちゃおうか? 先に妊娠させたら俺たちの勝ちでない?』

『黙れ』

 そこから先はいつものように双子と佑の言い合いになり、こんな佑を見た事がないエミリアは目をまん丸にしていた。

 かくして車はホテルから十五分ほどで星付きレストランに着き、そこで美味しい食事にありついたのだった。



**



 一方、香澄はベッドで目をトロトロさせながらスマホの画面を見ている。

「……もうお返事はなしかな? 寝てもいいかな……?」

 何回も目を瞬かせ、香澄は大きな欠伸をした。
 ころんと仰向けになって枕元の照明を落とすと、スマホを置いてタオルケットを引き上げる。

 夜間に冷房が入っているのは、電気代的にとても気になる。
 しかし佑に「東京は札幌と訳が違うんだから、冷房なしに眠っていて熱中症になったら大変だ」と言われ、こうしてエアコンが効いた環境で夜を迎えようとしている。

「……確かにエッチしたあとも、体が涼しくていいけど……」

 何とはなしに呟いてみて、佑とのセックスを思いだしカァ……と赤くなる。
 思わず指先で唇に触れてみて、ツルリとした滑らかな唇を撫でる感触に佑の指を思いだした。

「……佑さん、早く帰ってこないかな」

 いけない、と思いつつも指は自分の胸に伸びていた。
 薄いキャミソールの裾から手を差しこみ、たっぷりとした胸を揉んでみる。

 ――あまり気持ち良くない。

 代わりに指で乳首をスリスリと弄ってみると、微かな快楽を拾ってしまった。

「ん……、佑さん……」

 目を閉じてこれが佑の指なら……と思い込む。
 ゴク……と唾を嚥下し、片手が腹部を下がってタップパンツの中に入り込む。

 ――けれど、処理された恥丘に手が這ったところで、香澄は溜め息をついて自慰をやめた。

 眠たいけれど、薄闇のなか目を開く。

 脳裏には、昼間に御劔邸を訪れた河野の顔が浮かんでいた。

 とくに嫌われている訳ではないと思うし、彼の性格なのだと思う。

 しかし言われた〝事実〟に、香澄は溜め息を禁じえないでいた。


**


 河野が御劔邸を訪れたのは、十三時だった。

 玄関チャイムが鳴って斎藤が応対すると、まじめそうな男性がモニターに映った。

 マイク越しに「このたび第三秘書に決まりました、河野由貴男と申します。社長の不在時で大変恐縮ですが、第二秘書の赤松さんにご挨拶に参りました」という声が聞こえた。
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