227 / 1,544
第六部・社内旅行 編
ちょっといじけてしまっているの
しおりを挟む
『なにその顔』
『まさかお前らと、また顔を合わせると思ってなかったんだよ』
ひとまず香澄に『了解です』のスタンプを送ると、スーツの胸ポケットにしまう。
『カスミと連絡してたの?』
『婚約者と連絡とって何か悪いか?』
立ち上がろうとしたが、双子が佑の両脇にドスッと座ってきた。
腕時計を確かめると、約束の時間の三分前だ。
こちらの人は日本人ほどきっちりと時間通りに動かないので、珍しいといえば珍しい。
しかし節子の教育が行き届いたクラウザー家の者なら、ある程度時間通りに動いていてもおかしくない。
『お前らにしては集合時間を守るじゃないか』
『タスクがどんなツラしてんのかな~? って先に見ておきたくて』
『そうだ。エミ美人になってただろ?』
両側から双子が佑の肩を組んでくる。
と、彼らがいつもつけている香水ではない香りが、鼻先をかすった。
『……また女と会ってたのか?』
溜め息交じりに尋ねると、双子は顔を見合わせ肩をすくめる。
『パリのガールフレンドだよ。こっちに来ることがあったら連絡して、って言われてたからちょっと会ってただけ』
双子は複数プレイを好んでいて、必ずプレイメイトも共有する。
仲の良すぎる双子ならではで、一人の女性を二人で抱いても何とも思わないのだ。
ここへ来る前に乱交騒ぎがあったのかと思うとうんざりする。
『頼むから、本当に香澄には近付かないでくれ。お前らの奔放すぎる行動や言動で、彼女を困らせるな』
立ち上がって真正面から双子を見下ろすと、色違いのスーツを着た彼らはまた肩をすくめた。
『そんな、人をトラブルメーカーみたいに言わないでよ』
『そうそう。俺らは香澄のことは、結構まじめに気に入ってるよ? タスクの身に何かがあったら、俺たちで引き取ろうと思うぐらいには』
『そんな事にはならない』
佑は低く唸る。
『タスク、一つ言っておくけど、タスクがそうやって毛を逆立てて怒れば怒るほど、僕たちは面白がるからね?』
『そうそう。女が大事なら、仕事辞めさせてでも自分の横に置いておきなって』
『……だから、香澄は物じゃない』
苛立ったとき、ほわんとした声が背後からした。
『あら、カスミって誰?』
振り向けば水色のサマードレスを身に纏ったエミリアが、いつのまに三人の会話を聞いていた。
『エミ! やっほー!』
クラウスが立ち上がり、エミリアとハグをする。そのあとアロイスが続いた。
流れで佑もやんわりとしたハグをする。
『この近くのレストランを予約してるんだ。車呼ぶから、乗ろう』
アロイスが歩き出し、クラウスはエミリアにエスコートの腕を差し出した。
彼らがスマホで運転手に連絡をすると、ほどなくしてホテル前に車がついた。
四人が乗り込んだあと、車はペ通りからヴァンドーム広場へ抜け、シャンゼリゼ通りへ向かう。
『カスミっていうのはね、カイの婚約者だよ』
『そうだったわ。カイったらいつのまにいい人ができたのね』
エミリアはブルーアイを見開き、佑に向かってウインクをしてみせる。
『妬いた? エミ』
悪びれもなくクラウスが尋ねる。
事態をややこしくする能力はさすがだ。
その質問を受け、エミリアはチラッと助手席にいる佑を見て、ごまかすように笑った。
『そういうんじゃないのよ。ずっとカイに会っていなくて気にしていたわ。ネットではとても大活躍していて、悲しい事に私には連絡がなかった。だからちょっといじけてしまっているの』
『それはすまない。意図的に連絡をしなかった訳じゃない』
『分かっているわ。お互い忙しいものね』
エミリアの同意を得られ、佑は安堵する。
『でも、エミだって婚約者いるじゃん』
アロイスの言葉に、佑は彼女に祝福を告げた。
『本当か? おめでとう』
しかしエミリアは嬉しそう……という顔ではない。
曖昧に口角を上げて、視線をさまよわせるのみだ。
『あー……。エミは乗り気じゃないんだよね? オヤジさんに言われて仕方なく婚約した感じで』
佑と双子にとって、年下――現在二十八歳のエミリアは、妹のような存在だ。
それが望まない結婚をしようとしているとなると、話を聞いてみたくなる。
『まさかお前らと、また顔を合わせると思ってなかったんだよ』
ひとまず香澄に『了解です』のスタンプを送ると、スーツの胸ポケットにしまう。
『カスミと連絡してたの?』
『婚約者と連絡とって何か悪いか?』
立ち上がろうとしたが、双子が佑の両脇にドスッと座ってきた。
腕時計を確かめると、約束の時間の三分前だ。
こちらの人は日本人ほどきっちりと時間通りに動かないので、珍しいといえば珍しい。
しかし節子の教育が行き届いたクラウザー家の者なら、ある程度時間通りに動いていてもおかしくない。
『お前らにしては集合時間を守るじゃないか』
『タスクがどんなツラしてんのかな~? って先に見ておきたくて』
『そうだ。エミ美人になってただろ?』
両側から双子が佑の肩を組んでくる。
と、彼らがいつもつけている香水ではない香りが、鼻先をかすった。
『……また女と会ってたのか?』
溜め息交じりに尋ねると、双子は顔を見合わせ肩をすくめる。
『パリのガールフレンドだよ。こっちに来ることがあったら連絡して、って言われてたからちょっと会ってただけ』
双子は複数プレイを好んでいて、必ずプレイメイトも共有する。
仲の良すぎる双子ならではで、一人の女性を二人で抱いても何とも思わないのだ。
ここへ来る前に乱交騒ぎがあったのかと思うとうんざりする。
『頼むから、本当に香澄には近付かないでくれ。お前らの奔放すぎる行動や言動で、彼女を困らせるな』
立ち上がって真正面から双子を見下ろすと、色違いのスーツを着た彼らはまた肩をすくめた。
『そんな、人をトラブルメーカーみたいに言わないでよ』
『そうそう。俺らは香澄のことは、結構まじめに気に入ってるよ? タスクの身に何かがあったら、俺たちで引き取ろうと思うぐらいには』
『そんな事にはならない』
佑は低く唸る。
『タスク、一つ言っておくけど、タスクがそうやって毛を逆立てて怒れば怒るほど、僕たちは面白がるからね?』
『そうそう。女が大事なら、仕事辞めさせてでも自分の横に置いておきなって』
『……だから、香澄は物じゃない』
苛立ったとき、ほわんとした声が背後からした。
『あら、カスミって誰?』
振り向けば水色のサマードレスを身に纏ったエミリアが、いつのまに三人の会話を聞いていた。
『エミ! やっほー!』
クラウスが立ち上がり、エミリアとハグをする。そのあとアロイスが続いた。
流れで佑もやんわりとしたハグをする。
『この近くのレストランを予約してるんだ。車呼ぶから、乗ろう』
アロイスが歩き出し、クラウスはエミリアにエスコートの腕を差し出した。
彼らがスマホで運転手に連絡をすると、ほどなくしてホテル前に車がついた。
四人が乗り込んだあと、車はペ通りからヴァンドーム広場へ抜け、シャンゼリゼ通りへ向かう。
『カスミっていうのはね、カイの婚約者だよ』
『そうだったわ。カイったらいつのまにいい人ができたのね』
エミリアはブルーアイを見開き、佑に向かってウインクをしてみせる。
『妬いた? エミ』
悪びれもなくクラウスが尋ねる。
事態をややこしくする能力はさすがだ。
その質問を受け、エミリアはチラッと助手席にいる佑を見て、ごまかすように笑った。
『そういうんじゃないのよ。ずっとカイに会っていなくて気にしていたわ。ネットではとても大活躍していて、悲しい事に私には連絡がなかった。だからちょっといじけてしまっているの』
『それはすまない。意図的に連絡をしなかった訳じゃない』
『分かっているわ。お互い忙しいものね』
エミリアの同意を得られ、佑は安堵する。
『でも、エミだって婚約者いるじゃん』
アロイスの言葉に、佑は彼女に祝福を告げた。
『本当か? おめでとう』
しかしエミリアは嬉しそう……という顔ではない。
曖昧に口角を上げて、視線をさまよわせるのみだ。
『あー……。エミは乗り気じゃないんだよね? オヤジさんに言われて仕方なく婚約した感じで』
佑と双子にとって、年下――現在二十八歳のエミリアは、妹のような存在だ。
それが望まない結婚をしようとしているとなると、話を聞いてみたくなる。
42
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる