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第六部・社内旅行 編

この子がほしくてたまらない

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 ――あぁ、助けてあげられた。良かった。
 ――これからも、この子を守ってあげたいな。

 安堵すると同時に、佑はとても姑息な手を思いついた。

 自分がある程度顔と名を知られているのは自覚している。
 それならその名声と権力を使って、この子を側に置いて庇護したい。

 出会ってまともに会話を交わしていないのに、そこまで考えてしまったのだ。

 道ばたで仔猫を見つけてしまい、どうしても手放したくないと思ったのと似ている。
 かくして可哀相な仔猫――もというさぎは、不安にかられた表情でビルの下にやってきた。

 きっちりと仕事をこなし、〝世界の御劔〟と言われている佑を目の前にしても、〝女〟を見せてこなかったのがとても好ましい。

 何とかして香澄を手中にしたいとあがく佑に、「ええ……」と引く気持ちは勿論あっただろう。
 それでもきちんと目を合わせて真剣に話を聞いてくれるのが嬉しかったし、彼女の誠実さを感じられた。

 話した内容に偽りはなかったが、香澄があまりに素直に話を聞いてくれるので、罪悪感を覚えたほどだ。
 バーで頼んだ食事や酒に、何度も「美味しい」と本気で繰り返し、それがまた可愛くて堪らない。

 どうしても比べてしまうのは、東京で食事をした〝業界人〟の女性だ。
 色んな所へ食事に連れて行ってもらっているので、彼女たちは〝フリ〟が巧かった。

「美味しいです」「初めてこんなお店に来ました」……。

 それらの言葉を聞いても真実味は感じられず、今まで他の人にも何度となく繰り返しただろう慣れを感じた。

 香澄からはそれをまったく感じず、ぎこちなさや緊張している様子すらも素朴で、可愛くて堪らなかった。

 一方で彼女のバニーガール姿がずっと頭から離れず、触れたい、彼女の肌を見たいという欲がずっと暴れ回っていた。
 そんな風に、女性への性的な欲を能動的に得たのも久しぶりだ。

 その結果「バニースーツのために採寸させてほしい」など、変な言葉が口をついて出てしまった。
 ミューズと感じたのは本当の事だが、出会って初日に採寸する男は自分ぐらいだと反省している。
 引き留めたい理由にしては、怪しすぎる。

 女性と何とか関係を結びたいがために、嘘やお世辞を重ねる男性を、彼は冷めた目で見ていた。
 しかし自分の事となり、あとになってからその必死さに笑ってしまったものだ。

 そんな自分も新鮮で堪らない。

 彼自身、美女だと認める女性には何人も会ってきた。
 しかしこんな風に一人に固執し、連絡先を知りたい、もっと深い仲になりたいと思うのは香澄が初めてだ。

 かつて結婚を考えた美智瑠にも、こんな焦りは感じなかった。

 香澄は話せば話すほど、どんどん新しい魅力を見せてくる。
 佑が何か言えば、ポンと小気味良く忖度なく言い返してくれるのも心地いい。
〝御劔佑〟であるのを分かっていながら、自分とは生きる世界が違う存在と思っているからか、簡単に突っ込みを入れてくれるのだ。

 ――あぁ、ほしい。
 ――この子がほしくてたまらない。
 ――毎日この子と話したい。

 気がつけば佑の中に恋心が生まれ、独占欲やありとあらゆる欲も生まれる。

 ――何を言えばこの子は笑ってくれるだろう?
 ――どうしたら、俺のものになってくれるだろう?

 口から出る言葉もすべて、香澄を手に入れるための方便と言ってもいい。
 さも仕事のできる男を演じ、彼女がときめきそうな言葉を選んだ。
 強引にしては逃げられるから、優しくして、理解を見せて、少しずつ囲っていった。

 彼女の家族にも挨拶をし、東京に連れ帰るのも成功した。

 そうなればこっちのもので、次から次へと色んな攻め方をし、彼女が何に喜び、何を嫌うのか知りたくなる。

 やがて待ちに待ったという感じで、彼女の肉体に耽溺した。

 気持ち良くて、柔らかくて、温かくて。
 一生この子を離したくないと、初めての夜に確信したのだ。
 仕事で抜いてもらうのと、好きだと思った女性の中で果てるのとでは、気持ちよさが別次元だ。

 この歳になって恋ができた自分に、佑は一人祝杯を挙げたほどだ。

 我ながら気持ち悪いほどの執着だが、香澄を手放せばもう自分は一生恋をできないのではとすら思った。

 そして商才ある人間として分かっている。
 株と同じで、タイミングを逃してしまえば取り返しのつかない事になる。

 ――だから、香澄の人生を強引にねじ曲げた。
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