216 / 1,550
第六部・社内旅行 編
留守番の苦悩
しおりを挟む
昼食も美味しいスパゲッティを作ってくれて、至れり尽くせりだ。
「なんだか役立たずですみません……」
手持ち無沙汰にアイランドキッチンの反対側に立っていると、食器を洗いながら斎藤が笑う。
「怪我人は怪我を治すのが仕事ですからね? 赤松さんに手伝ってほしいなんて思っていません。そんな事をしたら、御劔さんに叱られます」
「うう……。なんだかお姑さんを前に、何もできない嫁のような気分です」
小さくなりつつ言えば、斎藤が声を上げて笑う。
「アンネさんは、もっとハッキリ仰ると思いますよ?」
「それはそうですが……」
帰国してその後、香澄はネットで商品を選び、久住に買い物に行ってもらって、アンネ、そして自分の家族にお詫びの手紙と菓子折を送っていた。
アンネからは一度電話があり「仕方のない事なんだから、あまり気にしないようにね」と労りの言葉をもらった。
帰国したからか、澪がちょこちょこ現れては話し相手になってくれるのがありがたい。
基本的に夕方近くに現れるので、その時間帯には何かお菓子などを出せるようにしていた。
そんな中、澪と会話をしていたのを思い出す。
『アンネさんから労りのお言葉を頂いたあと、音信不通になってしまったんですが、大丈夫でしょうか?』
『あ、ママなら普段からあちこちアクティブに行ってるから、気にしなくていいよ。こないだなんてフラッといなくなったかと思ったら、沖縄まで行ってダイビングしてたって言ってたなぁ』
『ア、アクティブ!』
驚くと、澪はケラケラ笑う。
『基本的に気まぐれで神出鬼没だから、気にしなくていいよ』
実の娘からそう言ってもらえたので、今は安心できている。
(そういう奔放なところは、アロイスさんとクラウスさんとちょっと似てるよなぁ……)
彼女が聞いたら睨んできそうな事を考え、香澄はミルクティーを啜った。
その時、ソファの向かいで一休みをしていた斎藤が、「よし!」と言って立ち上がった。
「これからお夕食の仕込みをしますね。終わりましたら一緒に甘い物でも頂きましょうか」
「はい」
こういう風に優しくされると、年の離れた姉ができたように思える。
「脚は痛みませんか? リハビリの通院日は今のところ週二回と伺っていますが、もし何かあれば仰ってくださいね?」
「あ! いえ! それはもう全然大丈夫です。手術から大分経って痛み止めも必要なくなりましたし。無理をしなければ、それほど痛みません」
「そうですか? 御劔さんからは、赤松さんが不自由しないように目を光らせてほしいと言われていますから、本当に何でも仰ってくださいね?」
どうやら斎藤は母性の強いタイプらしく、香澄が怪我をして戻ってきてから、以前に増して過保護や世話焼きの面を見せている。
ありがたいばかりなのだが、余計な手間は掛けられない。
「恐縮です……」
ペコペコと頭を下げていると、斎藤も香澄の時間を気にしたらしい。
「私はキッチンで手を進めていますから、香澄さんはお仕事などどうぞ」
「あ、はい」
佑が買ってくれたキャスター付きのテーブルは、ソファに座りながらパソコン作業をするのに丁度いい。
何気なくビジネス用のスケジュールアプリを見ていると、七月も予定がギュウギュウだ。
国内海外の出張が沢山あり、月の半分近くをあちこち駆け回っている。
今までは香澄も同行していたので、御劔邸は留守になる事が多い。
しかし防犯に関しては、離れで常駐している円山がしっかりし、留守でも島谷が通って掃除をしているのでまるきりの留守にはならない。
(今は留守番だもんなぁ。……仕方ない)
「寂しい」と言うのはタブーだ。
佑はどれだけ疲れていても、キスやハグを欠かさない。
倒れてしまいそうな時だってセックスしようとするので、香澄が懸命に「ノー」を言って調整しているぐらいだ。
そこまでの愛を受けているのに……。と、ふといつもの悪い思考が巡ってしまう。
(ダメダメ! 後ろ向き思考はさんざんしたはずなんだから! もっとアロイスさんとクラウスさんみたいに、楽観的にならないと!)
ブンブンと首を振ったあと、両手でピシャ! と頬を叩く。
またスケジュールを確認していると、七月の三週目の週末に懇親会があるのを発見した。
(あ……。そうだった。たしか社員で一泊二日の温泉だっけ……)
いいな……と思いつつ、自分はこんな足なので参加できないだろうと落ち込む。
成瀬たちには、「社長にお願いして、その時だけ参加したらどう?」と言われている。
しかし休養している身で、お楽しみの時だけ復活するのもいかがなものか? と思うのだ。
「なんだか役立たずですみません……」
手持ち無沙汰にアイランドキッチンの反対側に立っていると、食器を洗いながら斎藤が笑う。
「怪我人は怪我を治すのが仕事ですからね? 赤松さんに手伝ってほしいなんて思っていません。そんな事をしたら、御劔さんに叱られます」
「うう……。なんだかお姑さんを前に、何もできない嫁のような気分です」
小さくなりつつ言えば、斎藤が声を上げて笑う。
「アンネさんは、もっとハッキリ仰ると思いますよ?」
「それはそうですが……」
帰国してその後、香澄はネットで商品を選び、久住に買い物に行ってもらって、アンネ、そして自分の家族にお詫びの手紙と菓子折を送っていた。
アンネからは一度電話があり「仕方のない事なんだから、あまり気にしないようにね」と労りの言葉をもらった。
帰国したからか、澪がちょこちょこ現れては話し相手になってくれるのがありがたい。
基本的に夕方近くに現れるので、その時間帯には何かお菓子などを出せるようにしていた。
そんな中、澪と会話をしていたのを思い出す。
『アンネさんから労りのお言葉を頂いたあと、音信不通になってしまったんですが、大丈夫でしょうか?』
『あ、ママなら普段からあちこちアクティブに行ってるから、気にしなくていいよ。こないだなんてフラッといなくなったかと思ったら、沖縄まで行ってダイビングしてたって言ってたなぁ』
『ア、アクティブ!』
驚くと、澪はケラケラ笑う。
『基本的に気まぐれで神出鬼没だから、気にしなくていいよ』
実の娘からそう言ってもらえたので、今は安心できている。
(そういう奔放なところは、アロイスさんとクラウスさんとちょっと似てるよなぁ……)
彼女が聞いたら睨んできそうな事を考え、香澄はミルクティーを啜った。
その時、ソファの向かいで一休みをしていた斎藤が、「よし!」と言って立ち上がった。
「これからお夕食の仕込みをしますね。終わりましたら一緒に甘い物でも頂きましょうか」
「はい」
こういう風に優しくされると、年の離れた姉ができたように思える。
「脚は痛みませんか? リハビリの通院日は今のところ週二回と伺っていますが、もし何かあれば仰ってくださいね?」
「あ! いえ! それはもう全然大丈夫です。手術から大分経って痛み止めも必要なくなりましたし。無理をしなければ、それほど痛みません」
「そうですか? 御劔さんからは、赤松さんが不自由しないように目を光らせてほしいと言われていますから、本当に何でも仰ってくださいね?」
どうやら斎藤は母性の強いタイプらしく、香澄が怪我をして戻ってきてから、以前に増して過保護や世話焼きの面を見せている。
ありがたいばかりなのだが、余計な手間は掛けられない。
「恐縮です……」
ペコペコと頭を下げていると、斎藤も香澄の時間を気にしたらしい。
「私はキッチンで手を進めていますから、香澄さんはお仕事などどうぞ」
「あ、はい」
佑が買ってくれたキャスター付きのテーブルは、ソファに座りながらパソコン作業をするのに丁度いい。
何気なくビジネス用のスケジュールアプリを見ていると、七月も予定がギュウギュウだ。
国内海外の出張が沢山あり、月の半分近くをあちこち駆け回っている。
今までは香澄も同行していたので、御劔邸は留守になる事が多い。
しかし防犯に関しては、離れで常駐している円山がしっかりし、留守でも島谷が通って掃除をしているのでまるきりの留守にはならない。
(今は留守番だもんなぁ。……仕方ない)
「寂しい」と言うのはタブーだ。
佑はどれだけ疲れていても、キスやハグを欠かさない。
倒れてしまいそうな時だってセックスしようとするので、香澄が懸命に「ノー」を言って調整しているぐらいだ。
そこまでの愛を受けているのに……。と、ふといつもの悪い思考が巡ってしまう。
(ダメダメ! 後ろ向き思考はさんざんしたはずなんだから! もっとアロイスさんとクラウスさんみたいに、楽観的にならないと!)
ブンブンと首を振ったあと、両手でピシャ! と頬を叩く。
またスケジュールを確認していると、七月の三週目の週末に懇親会があるのを発見した。
(あ……。そうだった。たしか社員で一泊二日の温泉だっけ……)
いいな……と思いつつ、自分はこんな足なので参加できないだろうと落ち込む。
成瀬たちには、「社長にお願いして、その時だけ参加したらどう?」と言われている。
しかし休養している身で、お楽しみの時だけ復活するのもいかがなものか? と思うのだ。
42
お気に入りに追加
2,552
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる