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第六部・社内旅行 編

多忙さの中で

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 七月に入りChief Everyの店舗ではセールを前にスタッフのシフトが調整されている。

 一方本社では六月の秋冬新商品のサンプルチェックを終えて、工場での本生産に入った。
 またそれに伴うルックブックの撮影、制作も終えたので一段落付いた……というところだ。

 店舗では繁忙期を迎えるが、本社では来年の春夏物に向け、デザインを出しすり合わせるという、一からの段階だ。
 布地はかねてから契約している工場のものに、新しくデザインしたプリントをしたり、また自社にて独自に開発した夏用の素材のお披露目もある。

 またCEPが世界に注目されるコレクションも九月の末にヨーロッパで開催されるので、佑は監督役としてそちらにも赴かなければいけない。
 メインデザイナーの朔と毎日のように顔をつきあわせ、ペースアップしているお針子隊の様子を見る。
 モデルたちとも調整をし、音楽や現地の舞台などを整える技術者たちとも、入念な打ち合わせをしていた。

 一方でChief Everyでは国内で人気のあるデザイナーや、アートに造詣の深い有名人などとコラボした商品の製作なども進めている。

 常に注目を浴び、消費者のニーズに応えなければいけない。
 佑が忙しくあちこちで会議を開き、先に先にと手を打っているからこそ、Chief Everyは日本国内だけでなく世界でも爆発的な人気を得ていた。

 SNSでは『#CEコーデ』というハッシュタグをつけ、インフルエンサーをはじめ有名人たちが各々のファッションコーデを楽しんでいる。





 その社内デザイン発表会が終わった後に話しかけられ、佑は「ん?」と眼鏡の奥の目を瞬かせる。

 話しかけてきたのは、香澄と仲のいい三人組の一人、成瀬だ。

「赤松さん、大丈夫なんですか?」
「ああ、自宅療養してリハビリにも励んでいる」

 社内でプライベートの事を知っているのはごく一部なので、佑はさりげなく場所を変えて声を小さくする。
 三人組は香澄から直接プライベートで連絡をもらったのだろう。

「社長、責任を感じるのは分かりますけど、倒れないでくださいね? Chief everyがホワイト企業で受賞されてても、社長が倒れたら意味がないんですからね」

 水木が溜め息混じりに言い、伊達眼鏡の奥から半眼で佑を睨む。

「……倒れそうだったかな?」

 ぎこちなく笑う佑は、あまり自分が追い詰められているという自覚がなかった。
 自分よりも香澄の方がずっと心配で、彼女の方が大変だと思っている。

 むしろ苛ついていた気持ちを仕事にぶつけられるのは、ありがたいとすら感じていた。

「社長は仕事ができるのも魅力ですが、イケメンなのも超重要な要因なんですからね? テレビや雑誌に引っ張りだこの社長が、青白い顔をしてて女子社員全員、影で悲鳴上げてますよ~」

 荒野が佑の顔面について心配する。
 三人とも、〝自社のイケメン社長〟は観賞用として大切に扱っているが、〝赤松さんの彼氏〟としては割と厳しい事を言ってくる。

 成瀬が少し声を潜めて言う。

「赤松さんも心配していましたよ。自分のせいでスケジュールを狂わせてしまったとか、忙しい思いをさせて申し訳ないとか」
「…………」

 香澄が自分には直接言わない弱音を、彼女たちは知っている。
 何とも言えない表情をすると、それを見て成瀬が少し気分を良くしたようだ。

「赤松さんが復帰したあとに、颯爽とキラキラ社長ビーム出せるようにしておいてくださいね」
「何だよそれ」

 成瀬の軽口に、思わず笑う。

「私たち、遠くから二人の初々しいオフィスラブ見て、酒の肴にしてるんですから」
「ちょ、荒野、せめてコイバナのネタって言おうよ。おじさんみたいじゃん」

 水木がケラケラ笑い、佑もつられて笑いつつフッと気持ちが軽くなるのを感じていた。

「ありがとう。君たちが心配してくれていたと、香澄にも伝えておくよ」

 少し離れた所で松井がトントンと腕時計を指で示しているのを見て、佑は場所を離れる旨を伝え、慌てて秘書の方へ歩いて行った。



 彼らの様子を少し離れたワークスペースから、飯山がじっと見ていたのを、誰も気付いていなかった。



**



 午前中は斎藤と島谷がやってきて、忙しく働く。

 手伝いたい気持ちがあってウズウズしても、テキパキと動き回る彼女たちを見ていると、逆に邪魔になってしまうと分かっているので何もできない。

 しかも気にしつつも仕事をしているふりをしているので、斎藤が「お疲れ様です」とローカロリーの美味しいおやつをテーブルに置いてくれる始末だ。
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