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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

俺の愛は重いかな?

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「ごめん。虐めるつもりじゃなかったんだけど……。でもセックスに拘りたいのって、そんなに変かな? 美味しい料理を食べたいとか、いいベッドで眠りたいとかと同じで、セックスするにも最高の環境や体調で挑みたいって思うけど」
「そりゃあ……。三大欲求だけど……」

 本当はこういう風に言ってもらえるのは嬉しい。
 だが香澄は女性で、自分から前のめりになってセックスについて話すのは恥ずかしい。

「久しぶりに好きな人と自由に触れ合えるから、浮かれてるのかな」

 シャワーを止めた時に佑が少し寂しそうに言うので、香澄も拗ねすぎたと反省する。

「ごめんなさい。そんなに嫌がったつもりじゃないの」

 黒いシャンプーボトルから適量手に取り、佑は手の中でシャンプーを泡立てる。
 いつものシャンプーの香りがして、香澄は「帰って来たな」と感じた。

「ん、分かってるよ。性欲って男女差もありそうだしね。俺は今、香澄を見たらガキみたいにムラムラしてしまう。……目標はそうだな……。ゆっくりポリネシアンセックスとか楽しめるようになりたいな」
「ポリ……」

 知らない単語が出てきて、とっさに尋ねようとしたけれど口をつぐんだ。
 いま質問すれば、きっと恥ずかしい答えが返ってくる。

(あとでこっそりネットで調べよう)

「香澄は分からないだろうな。俺がどれだけ香澄が好きで、許されるなら一日中でも抱き締めてキスして。セックスしていたいって思っているか」

 シャクシャクと心地いい音をたて、佑の手が香澄の髪を洗ってゆく。
 彼のあの長くて綺麗な指が自分の髪を洗っているのだと思うと、幸せでならない。

「……嬉しい。……って、思うよ」

 同時に、怖くもある。

 ネットで調べると、男性は結婚して一年で気持ちが冷めてしまうのだとか。
 女性は子供ができたら〝妻〟から〝母親〟になり、それまでの関係が崩れてしまう事も多い……と。

 もちろん結婚して十年経っても、新婚当時と変わらない愛情を交わす夫婦だっている。
 佑が愛情深い人だとも分かっている。

 それでも……、という不安があるのだ。

 こういう事を考えるたび、泰然自若としていられない自分が嫌になる。

「元気ないな?」

 スカルプブラシで頭皮マッサージをしていた佑の声が、香澄を思考の海から引き戻す。

「そ、そんな事ないよ?」

 シャンプー中なので目を開けられないが、香澄は懸命に笑う。
 するといきなり抱き締められ、背中をシャンプーの泡でヌルヌルと撫でられた。
 つぅっと背筋をなぞられ、「ひぇっ」と変な声が出る。

「俺の愛は重いかな?」

 耳元で囁かれ、「えっ?」と振り向こうとするが、シャンプーが顔に垂れてしまう。

「そ、そんな事ないよ!? むしろ私の表面に出ていない気持ちの方が重たくて、自分で嫌になってしまうぐらいで……」
「…………」

 佑が息をつき、シャワーを出す。

(あ……。怒らせちゃったかな? 呆れられた?)

 不安に思うも、泡を洗い流す佑の手は相変わらず優しい。
 髪が絡まらないよう細心の注意を払い、地肌を丁寧にマッサージしてゆく。
 カタン、とシャワーヘッドが戻される音がし、今度はヘアマスクが髪に馴染んでゆく。

 最後に髪の毛を纏めてねじると、バンスクリップで纏められた。

「っぷう……」

 自分でシャワーを出し顔を拭うと、香澄は改めて佑を見る。

「どした?」

 だが佑は彼女が心配していたような、不機嫌な顔はしていなかった。
 まだ濡れていない髪の下、ヘーゼルの瞳がきょと、と瞬く。

「……ううん」
「スクラブ、かけるか?」
「うん」

 佑は棚からガラス瓶を取り出すと、専用のスプーンでバニラの香りのするボディスクラブを手に取り、香澄の肌に滑らせていく。

「女性はツルツルすべすべの肌にするにも、本当に手間がかかるよな」
「でも、佑さんだって無駄毛がないし、爪もケアしてあるよね?」

 今までそもそも、彼の無駄毛を気にした事がない。

「あー、それな。一時向こうに滞在していた時、アロクラに『日本の男はケアをしなすぎる』って、あちこちサロンに連れて行かれたんだ。もともと毛の濃い方じゃなかったが、それですっかり余計な体毛がなくなったかな」
「あ……それで……」

 佑はアンダーヘアがない。
 サッカー選手が海外移籍した時も、チームメイトとアンダーヘアの話をしたなど、テレビで見た。

 そういう流れで、クオーターである佑もケアをしているのかな? とぼんやり思っていたのだが……。

――――――――――

 今回の登場アイテム、モデルはシャンプー類はケラスターゼ、スカルプブラシはuka、ボディスクラブはSABONです。
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