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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

変な気を起こしたら駄目だからね?

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 これから一緒に風呂に入るとなると、急に緊張してきてしまった。

 コクコクと紫蘇ジュースを飲むが、途中から味が分からなくなってしまう。
 ただいたずらに口の中が酸っぱく、香澄は唇を曲げていた。

「あ……あの。毎回佑さんに介助してもらう訳じゃないからね。変な気を起こしたら駄目だからね?」
「変な気って?」

 佑は分かっていて質問を返し、ニヤニヤと笑う。

「もおお……。……さ、触ったり……とか」
「触らないと介助できないな?」

 グッと肩が組まれ、耳元で佑が低く囁く。
 耳から全身にぞくんっと言い知れぬ感覚が走ってゆき、香澄は身を縮込ませる。

(さ、斎藤さんがいるのにぃぃ~~)

 けれど、チラッと彼女を見ても素知らぬ顔をしてキッチン仕事をしている。

「……介助の範囲内ならお願いしたいけど、必要以上にむ、胸を揉んだりとか……そういうことをしたら駄目って言ってるの」

 努めて小声でポショポショと言い、釘を刺す。

「ふぅん?」

 長い脚をゆったりと組み、佑はスプリッツァをクイッと飲み干す。
 そのあと香澄のグラスが空になっているのを見て、にこぉ、と笑った。

「じゃあ、行こうか。介助のための道具とかは、もう発注して用意してあるから」
「えっ……」

 ヒョイと抱き上げられたかと思うと、そのままバスルームに連れ込まれる。
 洗面の前にある籐の椅子に座らされると、佑が香澄のワンピースを脱がせにかかった。

「あっ……、あ、もう……」

 バンザイをさせられ、ストライプのワンピースが脱がされる。
 そしてすぐに背中でプツンとブラジャーが外された。

「少し待ってて」

 そう言って佑は香澄の目の前で服を脱ぎだし、いきなりのストリップにドキドキする。

 リラックスした表情でシャツのボタンを外す姿も、手つきがやけにいやらしく見える。
 その下に着ていたTシャツをグイッと脱ぐと、思わず惚れ惚れする肉体が現れた。
 トレーニングを欠かさないバキバキに割れた胸板や腹筋に目を奪われていると、腰のベルトに手がかかり、黒いテーパードパンツが下ろされる。
 黒いボクサーパンツのみになった佑は、靴下も脱いでポイッと脱衣籠に放った。

「さて、香澄の仕上げをしようか」

 支えられて立ち上がると、香澄は洗面台に手をつく。
 佑が目の前に跪き、うっとりとした顔で香澄の腹部にキスをした。

「……佑さん……」

 お腹にキスをされ、恥ずかしい。

 入院している間、いい食事をたくさん出してもらったものの、ほとんど運動らしい運動ができていなかった。
 リハビリはしていたものの、いつものようにジョギングなどは勿論していない。
 なので数キロ増えていてもおかしくない。お腹もそれに伴って肉が増えていても仕方がなく、恥ずかしくて堪らない。

「ん。香澄のお腹、ふわふわしてて気持ちいい。あまり鍛えすぎるなよ? 鍛えるのは体型をキープする程度でいいから」
「もう……。お腹のお肉が好きなんてやめて。恥ずかしいの」

 じわ、と赤面しつつ香澄は佑の髪の毛を梳る。

「下着、脱がせるよ」
「……うん」

 総レースのパンティが脱がせられ、この上なく恥ずかしい。

「さて、これがギプスカバーだけど、つけてみようか」

 佑が差し出したのは、円いシリコンの中心に放射状に切れ目が入り、その下に厚いビニールが続いている物だ。

「水漏れの心配はないと思う」
「ありがとう。こういう専門の道具もあるんだね。私てっきりビニール袋に足を入れて輪ゴムで止めるのかなー……って、ぼんやり思ってた」

 佑が差し出したギプスカバーをしばし眺め、それから香澄は左脚を入れてみる。
 ビニールの中にギプスの脚が収まり、膝の上辺りに青いシリコンがぴったりと嵌まった。

「髪洗う前に、ブラシかけておこうか」
「うん」

 こういう時、佑はとても丁寧でマメだと思う。
 女性である香澄ですら、疲れた時や知識のなかった頃は髪を洗う前にブラッシングをするなど失念してしまう。

 なのに佑は香澄に関わることなら、何でも知って自分で行動する。
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