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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
撮影会
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「カスミ! カスミ。こっち向いて。んで、笑って」
「振り向き美人の構図やって。帯見せて」
「えっ? えっと……」
「アロ、それは見返り美人だ」
熱烈なコールに香澄は戸惑い顔で、それでも懸命に双子の要望に応えようとする。
途中で佑の冷静な突っ込みが入ったタイミングで、彼を困った目でチラリと見た。
「……お前らなぁ……」
その視線に気づいた佑が香澄に歩み寄り、双子のカメラの間に入り遮蔽物になる。
途端に双子が悲鳴を上げた。
「男のケツなんて撮りたくない!」
「なら許可無く人の婚約者を撮るな」
香澄が見返り美人をする代わりに、佑が見返り不動明王となる。
ギロリと目を剥き、絶対零度のオーラが漂っていた。
「佑はやっぱりアロイシーーとクラウシーと仲良しなのね」
四人のやりとりをソファに座って眺めていた節子が、のんびりと言って微笑む。
そして自分のスマホを取り出すと、香澄を手招きした。
「ねぇ、香澄さん。この写真、夫に送ってもいいかしら?」
「あ、はい」
節子の言葉を聞き、佑がピクッと反応した。
「オーマ、もしかして……」
すると節子は、水戸黄門の紋所のようにスマホを掲げた。
「私はすでに、香澄さんのありとあらゆる表情もアングルも撮っちゃったわ」
ピースサインをする節子のスマホの中身がほしく、佑はガックリと項垂れる。
「さて、そろそろ出る準備をしましょうか」
「……そうだな」
頷いた時、双子が「そうだね!」と元気に言うので、佑はクワッと目をむいた。
「まさか……」
彼の反応を見て、双子はわざとらしく伸びをし、トントンと肩を叩く。
「さーて、俺たちもパリッとスーツに着替えてこようか。先日気に入りの生地で作ったスーツにする? クラ」
「そうだね。やっぱり双子の強みはビジュアルだからね。カスミの両脇に立って絵になるように、シャツをブルーグレーとピンクグレーにして……。あれぇ? どうかした? タスク」
今にも憤死しそうな佑の視線を受け、双子はケラケラと笑う。
香澄は婚約者が視線だけで人を殺しそうになっているのを、見なくて良かったのかもしれない。
「ご飯は大勢で食べる方が、楽しいものね」
どうやらクラウザー家でアドラーがいない状況下では、節子がルールのようだ。
「……分かりましたよ」
クラウザー家の柔和な女帝には敵わず、佑は大人しく従うのだった。
**
日本料理店『WATARI』は、ブルーメンブラットヴィルの中心部よりやや離れた静かな場所にあった。
節子が「着慣れない着物で移動して疲れたらいけないから」と言って、移動は車だった。
名家クラウザー家の大奥様がいるので、勿論護衛も一緒だ。
黒服を着てサングラスを掛けた、いかつい体型のボディガードが一緒にいると、目立つことこの上ない。
だがこの街の人間はクラウザー家のことをよく知っているらしい。
店の近くで車から降りると、遠くから女性が『こんにちは。節子さん』と手を振って挨拶し、節子も着物の袖を押さえ親しげに手を振る。
どうやらクラウザー一族は、この街の住民から好かれているようだ。
「わぁ、ここだけ純和風ですね」
敷地に入ると小径があり、塀の中に竹垣や玉砂利まであるので、日本にいるようだ。
小径の横手には瓦屋根の純和風の建物があり、アプローチを歩いてもらって雰囲気を味わう造りになっているらしい。
街並みは基本的に赤い屋根に白壁だが、明確に条例などで決まっている訳ではないようだ。
様々な家がある中で、共通しているのは景観を損なわないように配慮されている点だろうか。
「いらっしゃい。節子さん」
店に入ると着物姿の日本人女性が出迎えてくれる。
カウンターの向こうには、七十代ほどの男性が板前姿で立っていた。
カウンター席は五つほどで、テーブル席が四人掛けが二つのこぢんまりとした店だ。
「振り向き美人の構図やって。帯見せて」
「えっ? えっと……」
「アロ、それは見返り美人だ」
熱烈なコールに香澄は戸惑い顔で、それでも懸命に双子の要望に応えようとする。
途中で佑の冷静な突っ込みが入ったタイミングで、彼を困った目でチラリと見た。
「……お前らなぁ……」
その視線に気づいた佑が香澄に歩み寄り、双子のカメラの間に入り遮蔽物になる。
途端に双子が悲鳴を上げた。
「男のケツなんて撮りたくない!」
「なら許可無く人の婚約者を撮るな」
香澄が見返り美人をする代わりに、佑が見返り不動明王となる。
ギロリと目を剥き、絶対零度のオーラが漂っていた。
「佑はやっぱりアロイシーーとクラウシーと仲良しなのね」
四人のやりとりをソファに座って眺めていた節子が、のんびりと言って微笑む。
そして自分のスマホを取り出すと、香澄を手招きした。
「ねぇ、香澄さん。この写真、夫に送ってもいいかしら?」
「あ、はい」
節子の言葉を聞き、佑がピクッと反応した。
「オーマ、もしかして……」
すると節子は、水戸黄門の紋所のようにスマホを掲げた。
「私はすでに、香澄さんのありとあらゆる表情もアングルも撮っちゃったわ」
ピースサインをする節子のスマホの中身がほしく、佑はガックリと項垂れる。
「さて、そろそろ出る準備をしましょうか」
「……そうだな」
頷いた時、双子が「そうだね!」と元気に言うので、佑はクワッと目をむいた。
「まさか……」
彼の反応を見て、双子はわざとらしく伸びをし、トントンと肩を叩く。
「さーて、俺たちもパリッとスーツに着替えてこようか。先日気に入りの生地で作ったスーツにする? クラ」
「そうだね。やっぱり双子の強みはビジュアルだからね。カスミの両脇に立って絵になるように、シャツをブルーグレーとピンクグレーにして……。あれぇ? どうかした? タスク」
今にも憤死しそうな佑の視線を受け、双子はケラケラと笑う。
香澄は婚約者が視線だけで人を殺しそうになっているのを、見なくて良かったのかもしれない。
「ご飯は大勢で食べる方が、楽しいものね」
どうやらクラウザー家でアドラーがいない状況下では、節子がルールのようだ。
「……分かりましたよ」
クラウザー家の柔和な女帝には敵わず、佑は大人しく従うのだった。
**
日本料理店『WATARI』は、ブルーメンブラットヴィルの中心部よりやや離れた静かな場所にあった。
節子が「着慣れない着物で移動して疲れたらいけないから」と言って、移動は車だった。
名家クラウザー家の大奥様がいるので、勿論護衛も一緒だ。
黒服を着てサングラスを掛けた、いかつい体型のボディガードが一緒にいると、目立つことこの上ない。
だがこの街の人間はクラウザー家のことをよく知っているらしい。
店の近くで車から降りると、遠くから女性が『こんにちは。節子さん』と手を振って挨拶し、節子も着物の袖を押さえ親しげに手を振る。
どうやらクラウザー一族は、この街の住民から好かれているようだ。
「わぁ、ここだけ純和風ですね」
敷地に入ると小径があり、塀の中に竹垣や玉砂利まであるので、日本にいるようだ。
小径の横手には瓦屋根の純和風の建物があり、アプローチを歩いてもらって雰囲気を味わう造りになっているらしい。
街並みは基本的に赤い屋根に白壁だが、明確に条例などで決まっている訳ではないようだ。
様々な家がある中で、共通しているのは景観を損なわないように配慮されている点だろうか。
「いらっしゃい。節子さん」
店に入ると着物姿の日本人女性が出迎えてくれる。
カウンターの向こうには、七十代ほどの男性が板前姿で立っていた。
カウンター席は五つほどで、テーブル席が四人掛けが二つのこぢんまりとした店だ。
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