170 / 1,544
第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
待ち人三人
しおりを挟む
「今日行くレストランは『WATARI』と言ってね。日本で星をとられた板前さんがドイツで夫の呼びかけに応えて、店舗を開いてくださったの。渡(わたり)さんもご高齢な方で、晩年にヨーロッパの食文化を知りたいという好奇心で来てくださったわ」
日本にある店舗というのも、きっと目が飛び出る一等地にある高級店に違いない。
そんな店の板前を引き抜いて置いて、「夫はドイツでのパトロンみたいなものね」と笑うのだから、恐ろしい。
「そ、そうなんですね。せっかくのお着物、汚さないように注意します」
「大丈夫よ。着物用の紙エプロンもあるし、万が一何かがあっても日本までしみ抜きを頼むし、もっと他に着てもらいたい着物もあるし」
(あああ……! お金持ちは考えることが違う!)
上品な笑顔に終始圧倒されたまま、香澄は腹を括った。
**
「だからタスクはさぁ、カスミを独り占めしすぎなんだよ」
「そうそう。どうせ日本でもホテルでもイチャイチャしてるんでしょ?」
「……独り占めって言っても、俺は婚約者だけどな?」
コの字型のソファに、体の大きな男が三人それぞれ好きな所に座り、くだらない事で騒いでいる。
それでも三人ともタブレット端末でニュースを読み、株価や仮想通貨のチャートを見て、さらには仕事のメールをチェックをし、その上で電子ペンで服のデザインなどを描いているので流石である。
佑のタブレット端末にも、日本にいる松井から容赦なく仕事のメールが転送されてくる。
それぞれ〝緊急〟、〝なるべく早く〟など重要度に合わせてラベリングされてあるので、非常に助かる。
(例のお見合い騒ぎの一見で、小野瀬社長の近辺が取り引きを渋っているか。百合恵さんのへそ曲げか。大人げない……)
香澄にビンタを食らわせた百合恵は、蝶よ花よと育てられたのか思うままにならない事がよほど悔しかったのだろうか。
その後、小野瀬家から個人的な連絡はないが、小野瀬家で営んでいる企業が繊維会社なので、少し厄介ではある。
実質、Chief Everyで売っている一万円以上の服でも、生産国は日本ではない。
国内生産の服はほんの数パーセントになっている現状、今すぐ悪影響はないと考えていい。
だが時代は移り変わり、大量生産でコスパのいい服から、品質のいい物を長く着られるようにという風潮になっている。
そんな中、根強く生きているブランド力の高い日本の繊維産業は、今後注目株とも言われている。
最新技術を用いた新商品が出るとなると、後れを取ると痛い損失になる。
親がプライベートを抜きにビジネスをしようとしても、子供は冷静になりきれていない場合は多々ある。
もし百合恵が残念な事に「御劔とあの秘書に復讐して」と言い出したのなら、小野瀬繊維と交流のある他企業が取り引きに渋っているという話を聞いても納得できる。
とはいえ、ビジネスだ。
小野瀬繊維からどのような〝お願い〟をされたとはいえ、先日のゴタゴタがある前から取り引きのあるChief Everyを簡単に裏切られては困る。
(日本に帰ったら〝会食〟をしないとな。きちんと〝話〟をして腹の底を引きずり出す必要がある)
服の多くは国外で作っているとしても、CEPで使う手の込んだ刺繍などは国内に発注している。
刺繍企業が小野瀬繊維から圧を掛けられているのだとしたら、こちらからきちんと〝話〟をして、どちらについた方が自社のためになるのかを説得すればいい。
幸い、自分の話術にはある程度の自信がある。
若い会社、若い社長だからという理由で、軽んじられるのは慣れている。
テレビやその他メディアに出ているからチャラい。
顔とクォーターというネタだけでやっている、〝アイドル社長〟。
そんな風に見られているのは嫌でも分かっている。
「……これで終わってやらない」
自分を舐めた者たちを見返し、世界中の者たちから一目置かれ、夢を叶えるまでは決して歩みを止めない。
呟いた時、アロイスがこちらを見た。
「なにー? タスクピンチ?」
アロイスがガバッと佑の肩を抱き、にんまりと笑う。
クラウスもソファで足を伸ばし、興味深そうにこちらを見ている。
「……ピンチではないが、悪巧みはしている」
「ふっふー。我が従弟殿が望むなら、僕らの会社だっていつでも協力するよ?」
ブルーライト処理を施した眼鏡の奥で、クラウスが底意地の悪い顔で笑う。
「……いや、いい」
双子たちが絶大な力を持っているのは分かっているが、借りを作るのが一番嫌だ。
日本にある店舗というのも、きっと目が飛び出る一等地にある高級店に違いない。
そんな店の板前を引き抜いて置いて、「夫はドイツでのパトロンみたいなものね」と笑うのだから、恐ろしい。
「そ、そうなんですね。せっかくのお着物、汚さないように注意します」
「大丈夫よ。着物用の紙エプロンもあるし、万が一何かがあっても日本までしみ抜きを頼むし、もっと他に着てもらいたい着物もあるし」
(あああ……! お金持ちは考えることが違う!)
上品な笑顔に終始圧倒されたまま、香澄は腹を括った。
**
「だからタスクはさぁ、カスミを独り占めしすぎなんだよ」
「そうそう。どうせ日本でもホテルでもイチャイチャしてるんでしょ?」
「……独り占めって言っても、俺は婚約者だけどな?」
コの字型のソファに、体の大きな男が三人それぞれ好きな所に座り、くだらない事で騒いでいる。
それでも三人ともタブレット端末でニュースを読み、株価や仮想通貨のチャートを見て、さらには仕事のメールをチェックをし、その上で電子ペンで服のデザインなどを描いているので流石である。
佑のタブレット端末にも、日本にいる松井から容赦なく仕事のメールが転送されてくる。
それぞれ〝緊急〟、〝なるべく早く〟など重要度に合わせてラベリングされてあるので、非常に助かる。
(例のお見合い騒ぎの一見で、小野瀬社長の近辺が取り引きを渋っているか。百合恵さんのへそ曲げか。大人げない……)
香澄にビンタを食らわせた百合恵は、蝶よ花よと育てられたのか思うままにならない事がよほど悔しかったのだろうか。
その後、小野瀬家から個人的な連絡はないが、小野瀬家で営んでいる企業が繊維会社なので、少し厄介ではある。
実質、Chief Everyで売っている一万円以上の服でも、生産国は日本ではない。
国内生産の服はほんの数パーセントになっている現状、今すぐ悪影響はないと考えていい。
だが時代は移り変わり、大量生産でコスパのいい服から、品質のいい物を長く着られるようにという風潮になっている。
そんな中、根強く生きているブランド力の高い日本の繊維産業は、今後注目株とも言われている。
最新技術を用いた新商品が出るとなると、後れを取ると痛い損失になる。
親がプライベートを抜きにビジネスをしようとしても、子供は冷静になりきれていない場合は多々ある。
もし百合恵が残念な事に「御劔とあの秘書に復讐して」と言い出したのなら、小野瀬繊維と交流のある他企業が取り引きに渋っているという話を聞いても納得できる。
とはいえ、ビジネスだ。
小野瀬繊維からどのような〝お願い〟をされたとはいえ、先日のゴタゴタがある前から取り引きのあるChief Everyを簡単に裏切られては困る。
(日本に帰ったら〝会食〟をしないとな。きちんと〝話〟をして腹の底を引きずり出す必要がある)
服の多くは国外で作っているとしても、CEPで使う手の込んだ刺繍などは国内に発注している。
刺繍企業が小野瀬繊維から圧を掛けられているのだとしたら、こちらからきちんと〝話〟をして、どちらについた方が自社のためになるのかを説得すればいい。
幸い、自分の話術にはある程度の自信がある。
若い会社、若い社長だからという理由で、軽んじられるのは慣れている。
テレビやその他メディアに出ているからチャラい。
顔とクォーターというネタだけでやっている、〝アイドル社長〟。
そんな風に見られているのは嫌でも分かっている。
「……これで終わってやらない」
自分を舐めた者たちを見返し、世界中の者たちから一目置かれ、夢を叶えるまでは決して歩みを止めない。
呟いた時、アロイスがこちらを見た。
「なにー? タスクピンチ?」
アロイスがガバッと佑の肩を抱き、にんまりと笑う。
クラウスもソファで足を伸ばし、興味深そうにこちらを見ている。
「……ピンチではないが、悪巧みはしている」
「ふっふー。我が従弟殿が望むなら、僕らの会社だっていつでも協力するよ?」
ブルーライト処理を施した眼鏡の奥で、クラウスが底意地の悪い顔で笑う。
「……いや、いい」
双子たちが絶大な力を持っているのは分かっているが、借りを作るのが一番嫌だ。
42
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる