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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
いつでも俺を有効利用して
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「香澄の口から悪夢(アルプトラオム)がまた出そうになったら、こうやって俺が抱き締めて全部食べてしまおう」
「……論破、じゃなくて……。実力行使?」
てっきり佑の事だから、丁寧に香澄の心理を解きほぐし、その対策などを教えてくれるのかと思っていた。
なのに彼はぐずる子供を宥めるような、言ってしまえば幼稚っぽく可愛らしい手段で慰めてきた。
「んふ……っ、ふふ……」
思わず笑うと、佑が額をつけてきて二人で肩を揺らし笑う。
ひとしきり笑ったあと、優しく笑った佑が香澄の頬を両手で包んだ。
そしてヘーゼルの瞳でまっすぐに見つめてくる。
「香澄。俺は君の夫になるが、生まれも思考も価値観も、まったく別の人間だ」
「……うん」
当然の事を言われ、スッと納得する。
「俺の心を香澄が透視できないように、俺も香澄が考えている事、悩みをすべて察する事はできない」
それももっともだと思い、香澄は頷く。
「エスパーのように察知できなくても、こうやって不安を伝えてくれれば、俺は理解できる。もしそれが解決できる事なら、俺はすぐにだって動くだろう。でも香澄が一番必要としているのは、自信を持つ事だろう?」
「……うん」
札幌で出会った時から、直感的に分かっていた。
仮にこの完璧な佑がすべての道を整え、スムーズに進める道を用意してくれたとしても、進むか進まないかは香澄の判断による。
そして香澄の同意なく無理に事を進める佑でもない。
一歩を踏み出し、彼と共に歩いて行くのは香澄自身だ。
「だから香澄の不安が溢れそうになったら、いつでも俺を有効利用して。気が済むまで話を聞くし、使える手段をすべて使おう。必要なら何でも買うし、キスでもハグでもセックスでも、喜んでする」
彼の思いやりに、香澄は別の意味で涙を浮かべる。
「これから俺は香澄の夫になり、一番側にいる存在となる。つらい時は俺の事をすべて有効活用してくれ」
「ありがとう」
彼の気持ちが嬉しくて、香澄は涙を零して笑った。
そのあと、不思議に思って聞いてみる。
「……佑さんって悩みあるの?」
佑が自分をそうやって救おうとしてくれるなら、自分だって同じようにしたい。
〝世界の御劔〟の悩みを自分ごときが解決できるとは思っていない。
けれど知って共有するだけでも楽になる時だってある。
「仕事については毎度の事だけど、信頼を置く役員や秘書、社員と一つ一つクリアできていると信じている。……というより、俺の悩みの六、七割は香澄のことかな?」
「えっ?」
そこで自分の名前が出ると思わず、香澄が素っ頓狂な声を上げる。
「まだどこか遠慮のある香澄に、もっと心を砕いてほしいとか、ベッドであんなプレイ、こんなプレイをしたいとか、本当は評判のいいラブホに行ってみたいけど、マスコミに見つかったら面倒だよなぁ……とか。色々」
「……大学生のカップルですか」
思わず笑い半分に突っ込むと、佑も笑ってくれる。
――と思えば、不意に真顔になった。
そして何かを考えて落ち込んでいる……ように見えたので、尋ねてみた。
「どうしたの?」
「……いや、原西さんの事を考えてイラついてた」
――あ、ヤバイ。
――これは、自分で自分にスイッチ入れちゃったやつだ。
瞬時に香澄の頭の中で、緊急アラートが鳴る。
健二のことはもう片付いたというのに、佑は割といつまでもネチネチ嫉妬する。
「佑さん、いつまでも健二くんのネタ引っ張るね? 味のしなくなったガムは捨てて忘れてね」
宥めるのだが、彼は溜め息交じりにおかしな事を言う。
「――俺が香澄の〝初めて〟を全部もらいたかった。いっそのこと幼馴染みだったら良かったのに」
「……もぉー……。発想が飛躍しだしたなぁ……」
「……香澄、甘えさせて」
すっかりいじけた佑が抱きついてきて、そこから先は香澄がクスクス笑いながら佑をあやす番になった。
意図的なのか分からないが、それで随分と香澄の心もリラックスした気がした。
**
「……論破、じゃなくて……。実力行使?」
てっきり佑の事だから、丁寧に香澄の心理を解きほぐし、その対策などを教えてくれるのかと思っていた。
なのに彼はぐずる子供を宥めるような、言ってしまえば幼稚っぽく可愛らしい手段で慰めてきた。
「んふ……っ、ふふ……」
思わず笑うと、佑が額をつけてきて二人で肩を揺らし笑う。
ひとしきり笑ったあと、優しく笑った佑が香澄の頬を両手で包んだ。
そしてヘーゼルの瞳でまっすぐに見つめてくる。
「香澄。俺は君の夫になるが、生まれも思考も価値観も、まったく別の人間だ」
「……うん」
当然の事を言われ、スッと納得する。
「俺の心を香澄が透視できないように、俺も香澄が考えている事、悩みをすべて察する事はできない」
それももっともだと思い、香澄は頷く。
「エスパーのように察知できなくても、こうやって不安を伝えてくれれば、俺は理解できる。もしそれが解決できる事なら、俺はすぐにだって動くだろう。でも香澄が一番必要としているのは、自信を持つ事だろう?」
「……うん」
札幌で出会った時から、直感的に分かっていた。
仮にこの完璧な佑がすべての道を整え、スムーズに進める道を用意してくれたとしても、進むか進まないかは香澄の判断による。
そして香澄の同意なく無理に事を進める佑でもない。
一歩を踏み出し、彼と共に歩いて行くのは香澄自身だ。
「だから香澄の不安が溢れそうになったら、いつでも俺を有効利用して。気が済むまで話を聞くし、使える手段をすべて使おう。必要なら何でも買うし、キスでもハグでもセックスでも、喜んでする」
彼の思いやりに、香澄は別の意味で涙を浮かべる。
「これから俺は香澄の夫になり、一番側にいる存在となる。つらい時は俺の事をすべて有効活用してくれ」
「ありがとう」
彼の気持ちが嬉しくて、香澄は涙を零して笑った。
そのあと、不思議に思って聞いてみる。
「……佑さんって悩みあるの?」
佑が自分をそうやって救おうとしてくれるなら、自分だって同じようにしたい。
〝世界の御劔〟の悩みを自分ごときが解決できるとは思っていない。
けれど知って共有するだけでも楽になる時だってある。
「仕事については毎度の事だけど、信頼を置く役員や秘書、社員と一つ一つクリアできていると信じている。……というより、俺の悩みの六、七割は香澄のことかな?」
「えっ?」
そこで自分の名前が出ると思わず、香澄が素っ頓狂な声を上げる。
「まだどこか遠慮のある香澄に、もっと心を砕いてほしいとか、ベッドであんなプレイ、こんなプレイをしたいとか、本当は評判のいいラブホに行ってみたいけど、マスコミに見つかったら面倒だよなぁ……とか。色々」
「……大学生のカップルですか」
思わず笑い半分に突っ込むと、佑も笑ってくれる。
――と思えば、不意に真顔になった。
そして何かを考えて落ち込んでいる……ように見えたので、尋ねてみた。
「どうしたの?」
「……いや、原西さんの事を考えてイラついてた」
――あ、ヤバイ。
――これは、自分で自分にスイッチ入れちゃったやつだ。
瞬時に香澄の頭の中で、緊急アラートが鳴る。
健二のことはもう片付いたというのに、佑は割といつまでもネチネチ嫉妬する。
「佑さん、いつまでも健二くんのネタ引っ張るね? 味のしなくなったガムは捨てて忘れてね」
宥めるのだが、彼は溜め息交じりにおかしな事を言う。
「――俺が香澄の〝初めて〟を全部もらいたかった。いっそのこと幼馴染みだったら良かったのに」
「……もぉー……。発想が飛躍しだしたなぁ……」
「……香澄、甘えさせて」
すっかりいじけた佑が抱きついてきて、そこから先は香澄がクスクス笑いながら佑をあやす番になった。
意図的なのか分からないが、それで随分と香澄の心もリラックスした気がした。
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