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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

明日の体力がなくなっちゃう

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「何のつもりだ?」と香澄のファッションにはうるさい佑が睨めば、「俺たちもカスミに服を贈りたい」との事。
「好きな女に服を送るのは、男が脱がせるためだ」と佑が独占欲を露わにし、女性店員に「Entschuldigung(失礼)」と言って香澄を連れ出すに至った。

 その後双子にさんざん「独り占めしてずるい」だの「僕らにも日本女子を!」とブーイングをされた。

 さらに佑を懐柔するつもりなのか、郊外にあるワイナリーに連れて行かれる。

 香澄は美味しいワインを飲めて幸運だったが、佑は奥の方で双子に肩を抱かれ、値打ち物らしいワインを前に何やら言われていた。
 様子を伺っていると「断る」と言ったあと、よほどそのワインがお気に召したのか、佑は自分の金でワインを買っていた。

 夕方前にはホテルに帰り、そのあとにクラウザー城に向かって皆に挨拶をし、「疲れたねー」と言いながらゴロゴロしていたはずなのだが……。

(……どうして、こうなる)

 避妊具を手にしたまま、佑がじっと香澄を見下ろしている。
 まるで獲物を目の前にした捕食者のようだ。

「……したくない?」
「そういう……聞き方は、ずるい」

 ハァーッと溜め息をつくと、避妊具を脇に置いた佑がのし掛かってきた。
 心地いい重みが体に加わり、「ん」と香澄の呼気が漏れる。
 内腿には熱く昂ぶったままのモノが、押しつけられていた。

「……はぁ。結婚できるとなると嬉しくて興奮してるの、俺だけなのかな。何か恥ずかしい……」

 佑が手と膝を突いて体を浮かしたかと思うと、頭を掻いて息をつく。

「そ、そうじゃないよ。私だって嬉しくて興奮してるけど……」

 起き上がり正面から彼を見ると、嫌でもアレを目にする事になる。
 香澄を欲しがってビンと天を突いたままのモノを見ると、折角勃ってくれたのに……と申し訳なくなった。

「けど?」

 熱い目で見つめられ、香澄の輪郭を知り尽くした指が頬を撫でる。

「……あ、明日。の、体力がなくなっちゃう」

 目を伏せてポショポショと呟くと、佑が真っ直ぐ香澄を見つめたまま何やら思考を巡らせたようだ。

「明日の予定と言っても、オーマに昼食に呼ばれているだけだろう?」
「う、うん。お気に入りの和食レストランに連れて行きたいからって……」
「……十時までに起きれば、完全に間に合うよな?」

 彼が何を考えているのか、一瞬にして分かった気がした。
 香澄の体力や翌日どれだけ疲労を引きずるかを計算し、このまま何時まで続けても大丈夫なのか逆算しているのだ。

 ソレを察した香澄の頬が、ヒクッと引き攣る。

(ダメだ……。この人ダメだ。私、抱き潰される……)

 佑に対して「セックスばかりしてる」など言うつもりはない。
 自分だからこんなに求めてくれている――のだと思っている。

 いつも日本ではマスコミに騒がれる生活を送っていて、気を張ってピリピリしているような気がする。
 それから解放され、ドイツに来てから佑はのびのびしているように感じられた。

 堂々と外で手繋ぎデートしても、日本にいる時のように衆目を集めない。
 街頭でチュッとキスをされても、何ら違和感のない文化圏だ。

 そのあからさまな好意の表し方に、ベタベタの日本人である香澄はまだ慣れていない。

 思えば健二と付き合った時は、恋人繋ぎをして肩を寄せ合い、街をブラブラ歩いてデートをして……、などしなかった。

 外で手を繋ぐには香澄が恥ずかしがって嫌がり、デートと言えば健二の家でゲームをしたり、ケーブルテレビを見たりなど。
 ムラムラしたのか、暇つぶしなのか「セックスしたい」と言われた時は、理由をつけて逃げ帰っていた。

 今思えば、やりたい盛りの青年に対してひどい事をしてしまった。

 彼の性欲が高まりすぎて浮気や暴走に向かってしまったのも、自分のせいでは……と考えてしまう。

 けれど当時は身の危険を警戒してばかりで、健二が免許を取って支笏湖などにドライブに行っても、ドキドキ……とは縁が遠かった気がする。
 ドライブは確かに好きだし、友達として健二と話しているのはアリだった。

 けれど車内でキスをされ、ついでに助手席のシートを倒され、悲鳴を上げて天井を見上げた事があった。
 胸をまさぐられ健二がのし掛かってきて……。

『今、生理なの!』

 とっさにそんな言い訳をして――。

「香澄?」
「ひっ!?」

 耳元でフッと息を掛けられ、ビクンッと体が跳ねた。
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